思春期における暴力行為の原因究明と対策に関する研究

文献情報

文献番号
200100343A
報告書区分
総括
研究課題名
思春期における暴力行為の原因究明と対策に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
小林 秀資(国立公衆衛生院)
研究分担者(所属機関)
  • 簑輪真澄
  • 林謙治
  • 田中哲郎
  • 大井田隆
  • 小林正子
  • 加藤則子
  • 山田和子
  • 福島富士子(以上国立公衆衛生院)
  • 山崎 晃資(東海大学)
  • 菅原ますみ(国立精神・神経センター精神保健研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在のわが国の社会状況の中で、子どもを巡る様々な問題が起こっている。ことに、普段おとなしい子どもが突然「キレる」といった近年の凶悪な少年犯罪の増加は世の中に大きな衝撃を与え、これから子どもを産み育てようとする者にとっても、未来に不安を感じざるを得ない状況を作り出している。思春期は乳幼児期に次いで心身ともに発育の盛んな時期であり、この時期をいかに心身ともに健康的に過ごせるかということは大人になる過程で非常に重要である。彼らの行動については、食生活や様々な環境因子も一因とも言われている。
このような現状を直視し、従来公衆衛生学で用いられてきている健康増進・疾病予防のための統計学的・疫学的分析手法を活用しつつ分析し、原因を究明して、何がこうした現実を引き起こしたのかを明らかにすることによって、改善のための対策を検討し、具体的な育児方針や教育方針を提言し、暴力行為の予防や健全育成に資するものとしてゆく。
青少年の心身のストレス等と食生活、食習慣、及び食行動、住環境、騒音等の関連要因を明らかにするとともに、正しい食生活の習慣化をはじめとした種々の環境因子への対応の取り組みにより、次の世代を担う若者の心身の健康づくりをめざす。この研究成果を生かして、マニュアルを作成し、地域の精神保健福祉センターや児童福祉施設等で行われる行政的な相談事業などに活用し、適切な支援に役立てる。
研究方法
1)既存資料による解析としては、これまでに行った警察庁資料による基礎的検討から発展して、国勢調査等から導いた同人口を分母とした率を算出した。そしてこの率に統計学的有意差が見られた住所地域間・年次間について背景要因を別の統計資料(住所地域・年次毎の社会環境・経済環境・教育環境・自然環境等が掲載されている資料)との関連を検討した。
2)文部科学省(国立教育政策研究所)との共同研究の事例調査では、警視庁及び警視庁の少年相談室、児童相談所等の協力を求め、問題行動を起こした子どもの生育歴を調査した。突発的行動を起こした事例につき、子どもの問題と家族の問題についてカテゴリーに分け、それぞれの組み合わせで頻度の多いものについて類型化した。
3)小中高校生約5000名に対してキレるということばの考え方や実生活の中での体験についての調査が行われた。質問紙により家庭環境、親子関係、食生活、交友関係、ライフスタイル、キレる原因をどう考えるか等を尋ね、回収、集計を行った。 
4)約2130組の双子に質問紙調査を行った。行動特徴については、年齢別に3種のTCIを、問題行動傾向については2種のCBCLと、乳児問題行動尺度を用いた。、行動上の特徴についてACEモデルによる共分散構造分析を行った。
5)青少年暴力の原因となる児童虐待のの予防プログラム作成のための予備調査として、全国の都道府県政令市保健所に児童虐待の把握状況や虐待予防の取り組み(事例検討会、予防事業の実施)に関する調査を行った。
結果と考察
研究結果=1)警察庁の既存資料の分析においては、人口あたりの少年による殺人の年次推移は県別の順位に一貫性がみられた。殺人の多いところは強盗・恐喝・賭博も多かった。社会生活統計指標では、小学校長期欠席児童比率、生活保護被保護高齢者割合、余暇活動の平均時間の3者がそれぞれ独立して殺人検挙に強い影響を与えていた。
2)文部科学省との共同研究においては、「キレる」行動を起こし分析対象となった654例のうち、男子は88%、女子は12%であった。キレた子どもの性格的傾向は耐性欠如型70%、攻撃型42%、不満型30%であった。成育歴要因として家庭での不適切な養育態度が76%に、家庭内での緊張状態が64%にみられた。キレた子どもの15%が体罰を、11%が暴力を受けていた。また、13%に、家庭内の暴力的な雰囲気が認められた。これらをもとに、典型的な事例が抽出された。
3)小中高校生約5000名に対しての調査からは、ちょっとカッとした程度をキレるとしている者は自分を常にキレていると評価するなど、キレるの基準が個人によって相当異なっていることがわかった。しかし、それを考慮しても、キレる回数の多い者は家庭環境や、睡眠の質、友人関係、言葉での表現力などに問題のあることが示唆された。
4)双子を用いた行動遺伝学的研究においては、行動特徴(新規性追求、損害回避、報酬依存、持続)の形成には遺伝要因(15%~55%)と非共有環境(独自の体験)(44%~85%)が主に影響しているが、問題行動(攻撃的反社会的、引きこもり不安)の発現には共有環境(双子が共通して体験すること)の影響も大きい(21%~49%)ことが分かった。
5)全国の都道府県および政令市の保健所のうち77.3%が児童虐待を支援していた。一カ所あたりの把握数は5.8人だった。事例検討会は4割以上の保健所が、予防事業の実施は都道府県で4割弱、政令市で8割弱であった。事業の実施については、親への対応が難しい等の困難を感じているところが多かった。
結論
本研究は青少年の暴力行為の要因解明のために学際的な接近を試みたものであり、以下の点が明らかになった。
①既存資料による解析としては、これまでに行った警察庁資料による基礎的検討から発展して、国勢調査等から導いた同人口を分母とした率を算出した。そしてこの率に統計学的有意差が見られた住所地域間・年次間について背景要因を別の統計資料で検討し裏付けた。
②文部科学省との共同研究の事例調査では、警視庁及び警視庁の少年相談室、児童相談所等の協力を求め、問題行動を起こした子どもの生育歴を調査した。突発的行動を起こした事例につき、子どもの問題を耐性なし、我慢、過敏、粗暴等のカテゴリーに分け、また、家庭環境の問題をしつけ問題、困難家庭、体罰、虐待等に分類し、これらの組み合わせにより事例パターンのいくつかを設定した。
③小中高校生約5000名に対しては、質問紙により家庭環境、親子関係、食生活、交友関係、ライフスタイル、キレる原因をどう考えるか等を尋ね、回収、集計を行った。また,2130組の双子に質問し調査を行い、行動上の特徴について共分散構造分析を行い、攻撃的な行動に関する影響は遺伝が関係し合っていることを明らかにした。
本研究は文部省国立教育研究所と連携して行い、暴力行為の現状改善のための対策について、初期段階の検討を行っている。具体的な育児方針や教育方針を始めとした予防策を提言し、21世紀に向けての心身の健全育成のガイドラインを示してゆくための基礎付けを行ったものである。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-