人間関係の希薄化がもたらした精神保健問題に関する研究

文献情報

文献番号
200100338A
報告書区分
総括
研究課題名
人間関係の希薄化がもたらした精神保健問題に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
北村 俊則(熊本大学医学部神経精神医学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤順一郎(国立精神・神経センター精神保健研究所)
  • 吉川武彦(国立精神・神経センター精神保健研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
人間関係の希薄化がもたらしたと考えられ、社会問題となったような、時に犯罪行為にまで発展する精神保健問題について基礎研究を行った。
研究方法
(1)高校生(約900人)を対象としたアンケートを施行し、攻撃性・被害感情・自責感、防衛機制(Bond らの Defense Style Questionnaire)、対処行動について調査した。(2)大学生(約4000人)を対象としたアンケートを施行し、超自然現象への親和性(Cloninger らの Temperament and Character Inventory (TCI) の自己超越 self-transcendence (ST) 尺度)とアタッチメントについて調査した。(3)アメリカにおける特定集団に対する精神医学・精神科医療の対応について文献的検討を行った。(4)いわゆる「カルト集団」から脱会した者への相談・支援を継続して行っている機関に対して、支援の状況についてヒアリング調査を行った。
結果と考察
(1)ある人物がコントロール不可能な事態に陥ったときの様子を描いた6個のケースヴィニエットを用意した。それぞれのケースについて、参加者は、登場人物(private)、多くの人々 (public)、質問紙に応える人 (person) が攻撃性を内に帰属するか、外に向けるか、外から攻撃されていると感じるか、また攻撃性を向ける対象が特定個人か、社会全般か、より高次の神、道徳といったものかに分類した質問に答えた。その結果、3因子に収束したケースはA、B、D、Eのpublicが多く、またその信頼度係数も高かったため、ケースA、B、D、Eと抑うつ得点、anger scaleとの相関を求めた。最終的に相似した相関関係であったケースAとEのそれぞれの因子を合わせて合成変数を作成し、抑うつ得点、anger scaleとの相関を求めた。Kleinらが主張したように懲罰的罪責感が活性化されやすい人は、対象は関係なく、外部から攻撃されていると感じ、心理内界が不安定であった。(2)ST 得点は (a) 15歳以前に父・母から愛情ある養育を受けたもの (b) 15歳以前に自己評価を上げるような体験を多く経験したもの (c) 現在のアダルトアタッチメントが安定しているもの (d) 家族機能が凝集性と柔軟性に富んでいる家族を持っているもの (e) 新奇性追求・報酬依存・持続・協調が強いもの (f) 損害回避・自己志向が低いものであった。(3)防衛スタイルは、主成分分析により、Ⅰ:未熟防衛、Ⅱ:ごまかし型防衛、Ⅲ:気くばり型防衛、Ⅳ:成熟防衛の4型に分類された。抑うつとの関連では、Ⅰ、Ⅱが促進的に、Ⅳがやや抑制的に関連し、不安との関連では、Ⅰが促進的に、Ⅲ、Ⅳが抑制的に関連した。このことから、思春期の抑うつや不安の成立に、それぞれ特定の防衛機制が関与し、「自我の危機」を形作っている可能性が示唆された。(4)(a) 15歳以前に父及び母から愛情がありかつ子の自主性を尊重する養育を受けたもの (b) 15歳以前に自己評価を上げるような体験を多く経験し、家族内の重大な疾患や周囲からのいじめを体験しなかったもの (c) 家族機能が凝集性に富んでいる家族を持っているものが、異性に対して安定した心理的関係を持っていることが示された。(5)精神医学の発展に関する研究会 Group for the Advancement of Psychiatry(GAP)報告書 No.132 は精神医学と宗教に関する委員会によるフォーミュレーション Formulated by the Committee on Psychiatry and Religion を「アメリカにおける指導者と信奉者:宗教カルトに関する精神医学的アプローチ Leaders and Followers: A psychiatric Perspective on Religious Cults」と題して American Psychiatric Press (1992) として発表している。全訳を参考資料として巻末に掲載し
た。(6)相談機関では、メンタルヘルスの問題への対処に加えて、家族関係の調整や社会的なコンフリクトを解消していくために、多様な支援が行われていることが明らかになった。
結論
(1)思春期の罪悪感には2種類(懲罰的罪悪感と贖罪的罪悪感)があり、懲罰的罪責感が活性化されやすい人は、対象は関係なく、外部から攻撃されていると感じ、心理内界が不安定である:(2)超自然現象への親和性は児童期の養育環境で一部規定されている:(3)抑うつや不安に関連する特定の防衛機制(無意識的態度)が存在する:(4)異性の親しい他者への安定した心理的関係性(アタッチメント)の成立には良好な親子関係が重要である:(5)特定集団への精神医学的アプローチについてアメリカの取り組みが興味深いこと:(6)特定集団からの離脱者の最社会化には相談の窓口となる公的機関が、有効な支援活動を展開している民間機関とも連携して、役割分担を行いながらサポートを展開することが重要であること:が示唆された。

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