重症心身障害児施設入所児(者)の20余年間の実態調査の分析に関する総合研究

文献情報

文献番号
200100332A
報告書区分
総括
研究課題名
重症心身障害児施設入所児(者)の20余年間の実態調査の分析に関する総合研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
江草 安彦(社会福祉法人 日本重症児福祉協会 理事長)
研究分担者(所属機関)
  • 三田勝己(愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所)
  • 平山清武(名護療育園)
  • 鈴木康之(みどり愛育園)
  • 小田 浤(睦学園)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、第1に、重症心身障害児(重症児)施設入所者の24年間にわたる実態調査<個人チェックリスト>を年次毎に横断的に統計解析して、その全般的な実態構造の変化を解明することである。第2に、重症児一人一人を対象に縦断的な分析を行い、個人レベルで発達や後退の有無およびその特性や背景を明らかにすることである。さらに、24年間にわたる重症児の実態調査は国内外ともに本調査のみであり、その研究成果を国内外に公開することも本研究の目的である。なお、本年度は研究の初年度であり、まず第1の目的<実態調査の年次毎の横断的分析>に着手した。
研究方法
本年度の研究目的<実態調査の年次毎の横断的分析>を達成するために、準備課題を含めた以下の3つの具体的な課題を設定した。
1) データ分析のための数理解析法と表示法の選定
2) データのスクリーニング
3) 実態調査の年次毎の横断的分析の実施
結果と考察
3つの具体的課題による結果と考察は次のとおりである。
1) データ分析のための数理解析法と表示法の選定: 日本重症児福祉協会では、全国公法人立の重症心身障害児施設の入所者の実態を把握するために、1978年度(昭和53年度)より当協会で独自に作成した個人チェックリストを用いて調査を開始した。個人チェックリストの内容は調査開始から10年後に見直しをされ、1988年度より改訂版による調査が継続された。そして、この調査は2001年度(平成13年度)現在24年間に至っている。個人チェックリストに記入された入所者数は、1978年度の約3,000人から2000年約9,000人まで漸増し、24年間の延べ人数は150,000人となった。旧版のコード化された数値の数は一人当たり71、改定版が96である。従って、24年間のデータ母集団の数値総数は13,300,000となり、莫大なデータを扱うことになる。こうした膨大なデータの横断的分析に際して、多変量解析などの高度な統計解析法を安易に適用することは、データに含まれる本質を見失う危険がある。そこでまず基本統計解析を着実に実施し、さらにその結果を表現するための様々なグラフ化を検討した。
2) データのスクリーニング: 個人チェックリストは毎年日本重症児福祉協会より全国公法人立の重症心身障害児施設へ送付され、入所者全員についての4月1日の実態が記入された。これらは当協会へ回収され、コンピュータの記憶メディアに記録して保存してきた。記憶メディアに保存されている個人チェックリストのデータは、記入、数値コード化および転記、IBMカードやFDへの入力が手作業によって行われ、その結果が記録されたものである。これらの作業は必ずしも重症児療育に従事する専門職やコンピュータの専門家によって行われたと保証できない。そのため、この作業過程で誤った情報が混入している可能性がある。そこで、データ処理の精度をより確かにするために、同一人の年毎の内容、入所者相互の内容に矛盾したデータがみられるか否かをコンピュータによって検索した。そして、明らかに誤ったデータと推察されるものがみつかった場合には逐一検討し、その上でデータの訂正を行うこともあった。また、不明なデータや未記入データについては分析処理の対象とすることを避けた。なにぶんにも24年間にわたる入所者の延べ人数は約150,000人に及んでおり、その情報の正確性をはかるには多大な時間と労力を費やした。なお、コンピュータ記憶メディアのデータ形式はIBM形式、DOS形式と年代の流れとともに変化してきた。こうしたデータ形式の異なった膨大なデータの内容を確認したり処理するために、コンピュータとしては複数(ワークステーション、Windowsパソコン、Macintoshパソコン)を使用した。また、多量な複雑な結果をより分かり易く表示(プレゼンテーション)するために、カラー対応の高速レーザプリンタを使用した。
3) 実態調査の年次毎の横断的分析の実施: 本年度のデータ処理は以下の項目について年度毎の横断的分析を実施し、集団的な経年変化を追跡した。つまり、個人チェックリストには基本的項目として、①性別、②年齢、③入所児年齢、④在園期間、⑤体重、⑥大島の分類、⑦病因別分類が含まれている。これらの項目は個人チェックリスト旧版(1978年?1987年)と改訂版(1988年?2001年)で概ね共通しているので、24年間を通して分析した。重症児の実態を反映するチェック項目は両版で内容にかなり違いがあり、また改訂版で削除されたり、新たに加えられた項目もある。そのため、チェック項目の分析はそれぞれの版について行った。旧版のチェック項目には、①姿勢、②移動(運動能力)、③排泄、④食事、⑤食事の形態、⑥更衣、⑦入浴、⑧洗面(日常生活行為)、⑨視覚、⑩聴覚(感覚機能)、⑪遊び、⑫コミュニケーション(理解)、⑬コミュニケーション(表現)(知的能力)、⑭問題行動、⑮痙攣を含む。一方、改訂版では、①姿勢、②移動(運動能力)、③排尿、④排便、⑤食事における咀嚼・嚥下、⑥摂食方法、⑧食事の介助、⑨食事の形態(日常生活行為)、⑩視覚、⑪聴覚(感覚機能)、⑫遊び、⑬コミュニケーション(理解)、⑭コミュニケーション(表現)(知的能力)、⑮異常習慣、対人関連行動(問題行動)、⑯てんかん性発作、⑰抗痙攣剤の服用(痙攣)、⑱変形・拘縮、⑲筋緊張を含む。これらのチェック項目の分析は大島の分類をもとに6群(全体、最重度重症児、定義どうりの重症児、周辺重症児、重度知的障害児(者)、重度肢体齲不自由児(者))に分類し、それぞれのグループについて分析を行った。
結論
重症児の実態調査研究はこれまでにも様々な側面から数多く報告されてきた。しかし、それらは単発的あるいは長くて数年の期間のものが大半であり、本研究のように24年間におよび、延べ対象者15万人、データ数1,330万という膨大な経年的調査は皆無である。高速で大容量のコンピュータが気軽に利用できる今日、こうした膨大なデータを始めて分析できるようになった。本年度は、本格的なデータ分析に先立って、数理解析・統計解析法やデータ処理システムの検討、データスクリーニングを実施し、その後年次毎の横断的分析に着手した。そこでは分析結果も膨大な量となった。これら分析結果の解釈は各チェックリスト項目を専門とする主任研究者・分担研究者・研究協力者が個別に担当し、その後、研究者が一堂に会して全体的な検討を加えた。しかし、必ずしも統一的なスタイルでの解釈や記述に至らなかった。それは本年度が3年間の研究事業の初年度であり、分析や議論を尽くすにはあまりにも限られた期間であったためである。次年度以降は十分な研究期間が確保されるので、縦断的分析を含めたより完成度の高い研究したいと考えている。

公開日・更新日

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