個票データを利用した医療・介護サービスの需給に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100052A
報告書区分
総括
研究課題名
個票データを利用した医療・介護サービスの需給に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
植村 尚史(国立社会保障・人口問題研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 松本勝明(国立社会保障・人口問題研究所)
  • 金子能宏(国立社会保障・人口問題研究所)
  • 小島克久(国立社会保障・人口問題研究所)
  • 泉田信行(国立社会保障・人口問題研究所)
  • 宮里尚三(国立社会保障・人口問題研究所)
  • 山本克也(国立社会保障・人口問題研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
42,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、医療の需給両面を同時に分析することにより、医療費の決定要因等について総合的、包括的な検討を行うものである。研究全体としては、個票データを使用することにより、地域の医療、介護資源がどのような施設、事業に投入されているか、そのことが、患者、医療機関、介護事業者等の行動にどのように反映しているか等の実態を把握するとともに、政府管掌健康保険のレセプト・データを再集計し、診療行為の詳細な情報、医療機関属性に関する詳細な情報、市場環境に関する情報を得て、、医療費の増大要因が患者受診行動によるのか、医療機関の診療行為選択によるのか、市場的な要因によるのか等を解明することを目的としている。
医療費を適正に管理することは医療保険制度の健全な運営にとって必要欠くべからざることであり、患者の受診行動や医療費受給構造と医療機関の行っている診療行為についての情報を分析し、医療費支出の状況を的確に把握することは、医療制度改革を考える基盤といってもよい。
本研究により、医療機関が選択する診療行為によって医療費がどの程度異なるか、その選択に市場環境や他の要因がどのように影響を与えているかを知ることが可能となり、その背景にある地域における医療・介護サービス提供者の資本装備・労働投入などの状況とサービスのアウトカム指標との関係や、それが医療費や介護給付費に与える影響も実証的に明らかにすることができる。こうした情報は、効率的で効果的な医療制度構築のための政策的選択肢の幅をひろげることに役立つものと考えられる。
研究方法
平成13年度は、レセプト・データによる診療行為の詳細な分析にまでは至らなかったが、①社会医療診療行為別調査報告、②人口動態統計調査社会経済面調査、③医師・歯科医師・薬剤師調査、④医療施設調査及び病院報告、を利用した研究を実施した。特に、社会医療診療行為別調査報告について重点的に分析を行った。
また、諸外国が個票データ等を用いて診療内容を分析することにより、医療制度の改革にどのように結びつけているかを明らかにするため、ドイツにおける医療制度改革の動向と、経済協力開発機構における医療・健康に関するパフォーマンスの評価の取り組みについて調査した。
結果と考察
①社会的入院の要因分析
社会的入院は180日以上の入院患者を指すことが多いが、医療費がある一定基準より低いかどうかで社会的入院を定義すると、180日以上の入院期間で社会的入院を定義した場合に比べ社会的入院患者は増加することが分かった。ただし、診療行為の情報を十分に生かした形での社会的入院の定量的な分析については、分析に時間がかかるため、次年度その成果を報告することを予定している。
②205円ルール適用薬剤の使用に関する分析
薬剤名、投与量、薬価点点数等の細目を記載しないで205円以下の請求をしている場合と細目記載の場合について、傷病名や年齢といった診療報酬明細から得られる範囲の患者側の情報を用いた分析を行った。特に不記載の請求件数が最近増加してきていることがわかった。次年度は医療機関属性など供給側からの詳細な分析を行うこととしている。
③設立主体別医療費の推移に関する分析
診療行為を考慮に入れた診療機関の設立主体別医療費の分析を行った。診療機関の属性(設立主体、病床規模)を統御し、脳血管疾患、糖尿病、高血圧疾患等の疾患を選択して医療費の分布の作成を試みた。その結果、例えば糖尿病であれば90年代前半までは個人・医療法人の総点数の平均値は公的病院のそれよりも高かったが、90年代半ば以降は逆になっている。90年代半ば以降は診療機関の機能分化が進みはじめ、高度医療を担う公的病院と慢性疾患の経過観察を担う民間病院という区分が実体的に進んでいる可能性を示唆している。
④医療サービス価格指数の作成
これまで、診療行為大分類別の診療行為回数と点数の推移を計算する研究が行われてきたが、消費者の立場からは風邪の治療や出産など特定の医療サービスの価格水準が重要である。今回の研究では医療サービスの区分ごとの一件当たり医療費を医療価格とし、それを集計したラスパイレス価格指数、パーシェ価格指数、それらの幾何平均であるフィッシャー指数を計算し、日本の医療サービス価格の推移について検討した。その過程で、傷病名に対する診療行為の対応を詳細に検討し、医療費の高低の問題において、傷病名で医療費を分類することの適切性についても検討を行った。価格指数の作成により、日本の医療費の動向が患者及び保険者の立場から見た場合、どのような推移になるのかが明らかになった。また、傷病名に対応してどのような診療行為が行われているかも明らかになった。
⑤医療・健康に関するパフォーマンスの評価
医療の質をいかにして評価し、分かりやすい指標にまとめるかについて、OECD加盟国が様々な方法で、各国の実状に合わせた方法でこれを実行してきた。このような経験を世界が教習し、それぞれの国で実践することは、世界的な高齢化において、医療費を効果的に使うことや医療に対する信頼、安心感を確立させるためにも重要なことであると思われる。そのため、今後ともOECDによる研究が進むことが期待できる。また我が国における医療に関する研究においても質の評価に関する議論は今後とも重要になるものと思われる。
⑥入院療養の質と経済性の確保(ドイツとの比較研究)
ドイツにおける入院療養の需給関係について、入院療養に関する需給関係の特徴並びに入院療養の現状及び問題点を踏まえ、DRG導入などの診療報酬制度の改革と病院計画による供給能力コントロールが、入院療養の質と経済性に及ぼす効果とその問題点を明らかにした。
本年度はデータ提供の遅延から実施内容が制約されたが、成果の活用は次年度の研究実施に重点的に充てられることとなる。社会医療診療行為別調査報告は医療サービスの提供内容について各患者の一月分のみを調査したものであり、診療が複数月にわたる場合にはその全ての内容を把握することができなくなるという制約がある。当研究班の目的はそのような制約を解消して、レセプトデータをエピソード化するものである。今年度の分析結果及び分析の経験から、治療の最初から最後までの診療内容が全て把握できるデータを作成した場合の医療費分析の実施が容易になると考えられる。供給面の分析については、データの制約があり、次年度詳細な分析を行うが、その際にも、今年度の研究により、どのような属性を持つ医療機関について分析の焦点をあてれば良いかわかるため、次年度の研究が効果的に行うことが可能となる。
結論
先進諸国はどの国も医療費の増大に苦慮している。欧米各国の取り組みは、大きく3つの方向に分けることができるだろう。1つは、医療供給の量的抑制、供給の規制すなわち、供給計画のもとに、医療機関の開業、ベッド数の増加等をコントロールしようとするものである。2つ目は価格面でのコスト抑制のインセンティヴを供給側に与える政策である。出来高払いの診療報酬ではコストを下げ、効率的な医療を行おうというインセンティヴが働かない。そこで、医療費の算定を定額にすることで、コストを下げるほど利益が上がる仕組みにして、医療機関にコスト削減を促し、その実態を見てさらに算定の基準を下げるという方法で、医療費総額を抑制していこうというのが、このねらいである。3つ目は、費用負担者である保険者の権限、機能を強化して、医療に擬似的な市場機能を導入しようとする方向である。不適切な医療機関との契約の拒否も含め、保険者と医療機関との対等の契約関係を確立していこうという政策、さらには、保険者が医療内容そのものをもコントロールしていこうとするものである。
患者負担の拡大や、保険者の一元化が対策として議論される日本の状況は、欧米の状況と比較すると異例ということができる。しかし、効率的、効果的に医療を提供していくという視点からは、欧米の取り組みは今後の医療政策の参考となるものである。
しかし、医療に関する知識を独占する医療機関に対して、保険者の機能を強化していくためには、保険者側が診療内容についての情報を持つことが不可欠である。レセプト・データをはじめ、医療供給、医療需要、医療内容に関するデータを分析し、医療の実態を把握することは、今後の政策選択の基盤となるということができる。

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