実質社会保障支出に関する研究-国際比較の視点から-(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100030A
報告書区分
総括
研究課題名
実質社会保障支出に関する研究-国際比較の視点から-(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
清家 篤(慶應義塾大学商学部)
研究分担者(所属機関)
  • 宮島 洋(東京大学)
  • 勝又幸子(国立社会保障・人口問題研究所)
  • 宮里尚三(国立社会保障・人口問題研究所)
  • 山田篤裕(国立社会保障・人口問題研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
4,457,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
各国の社会保障は個別の国の政策と制度の歴史的成り立ちに強く影響を受けており特異な側面をそなえている。一方で、高齢化および少子化、高失業率など共通の社会経済状況が、社会保障支出の高騰という共通した財政問題を諸外国にもたらしている。そこで、欧州連合やOECD、国連の各委員会では、共通社会問題に対処するため、基礎資料としての国際比較統計整備に着手した。1990年代に各国際機関が整備をはじめた国際比較統計の最初の数値が出そろった現在、徐々に研究者および政策立案者に知られるようになっている。しかし、本来国際比較には様々な限界があり、計数の単純な比較から早計な結論を出すことには問題がある。
たとえ国際機関がまとめた資料といえ、その内容を適切に把握したうえでの議論が重要である。また従来公的費用統計には表されてこなかった、租税制度における見えざる支出(租税支出)や企業および非営利組織が運営してきた、公的な制度と機能的に代替性を備えた支出など、既存の社会保障制度にとらわれることなく、社会全体の負担と給付をとらえることが、国際比較においては特に重要となっている。
本研究によって、社会保障における国際比較統計と国際比較の視点を明らかにし、最近の国際機関における議論に対して、日本の視点にたった提言が可能となる。
研究方法
Willem Adema, "OECD Net Social Expenditure Second Edition", 2001 の内容の理解を深める。
同報告書の中で紹介されている、マイクロシュミレーションモデルを使った費用分析を行っている国としてスウェーデンとカナダの実態を調査した。
社会支出の範囲として従来から補足の推計が必要と考えられてきた、住宅に関する給付と地方自治体の単独給付についてもヒヤリング調査を実施した。
フランスパリからヴィレム・アデマ氏(OECD社会政策課 エコノミスト)を招へいし、公開講座「純社会支出統計とは何か-粗税と公的・私的給付の連携を考える-」を開催した。同講座においては、本研究の主任研究者および分担研究者が意見を発表して、本研究内容と純社会支出の考え方を研究者および行政官の理解を助けた。
「日本と対スウェーデン・イギリス・フランス・ドイツ欧州四カ国における機能別社会保障支出の比較調査」を、在欧州の研究者コーエン・ヴレミンクス氏(ベルギー、リューベン大学社会学社会政策学科助教授)に委託した。
結果と考察
"OECD Net Social Expenditure Second Edition", 2001 の内容の理解を深めるために、分担研究者(勝又・山田)が、翻訳版を作成した。翻訳版の作成によって、複雑な定義を理解しやすくした。
租税や社会保障給付の制度変更が所得分布等に及ぼす効果を定量的に分析するために近年頻繁に用いられるようになったのがマイクロシュミレーションモデルである。
スウェーデンのマイクロシミュレーションモデル(MsM)の利用について、スウェーデン現地スウェーデン財務省および社会保健省の関係者より詳細なヒヤリングを山田分担研究者が実施した。カナダのマイクロシュミレーションモデル(DYNACAN)については、カナダの現地調査を宮里分担研究者が実施した。
両者の報告は、将来において日本のデータ整備を進めていく上で大変参考となる。
「社会保障の周辺部分の分析-住宅政策と地方自治体の社会保障支出-」では、高齢化に対応した住宅政策や公営住宅や家賃補助制度、地方自治体がおこなっている単独給付については医療費自己負担補助制度等、最新の情報を収集した。
公開講座「純社会支出統計とは何か-粗税と公的・私的給付の連携を考える-」においては、純支出概念を適用してもなお、日本の社会支出が諸外国に比べて低い理由を検討した。討論者として主任研究官や分担研究官が参加した。宮島分担研究者からは、税制上の優遇措置の範囲について、日本においては「社会的」と直接に定義しにくい例として、高齢者の預貯金の利子非課税や退職所得控除や退職金引当金のようなものが大きいのではないかとの意見がだされた。国際比較においてモデル的な制度を設定することの難しさが「社会的」給付の範囲の定義を考えてもあることが指摘された。また、清家主任研究官からはまだなお隠されている社会支出の存在を考えるという意味で、日本やヨーロッパの場合にはさまざまな社会経済的な規制が強いことが、そういった規制によって守られている雇用に係る費用が少なく無いという指摘があった。余剰労働力を雇用している日本企業の雇用のありかたや、土木建築などの公共事業の支出が諸外国に比べて大きいことなどをどう評価するかとの問題提起があった。北欧諸国のようにネット化した場合に支出が少なくなるケースと、日本やアメリカあるいは韓国、オーストラリアのようにネット化すると逆に支出が増えるケース、そしてその中間にある両者がほとんど変わらないケースなど、このような違いがどうして出てくるのかを解明する課題も提起された。社会支出を投資と考えた場合の議論ができるかどうかとの視点が提起された。
「社会的」というキーワードをどのように解釈するかを検討する必要がある。「社会的強制力をもった私的給付」の考え方にどこまでの費用を含めていくのかの再考も重要である。
税制優遇措置については、退職所得控除や雇用主の退職引当金、高齢者のいわゆるマル優(貯蓄利子非課税)制度、医療における事業主負担分など、公開講座の討論において指摘された多くの費用や控除について再考が必要である。
国際比較においては、純支出にすると粗支出より減少する国と、増加する国、また変わらない国など、様々な特徴があることがわかった。この特徴の背後にある、条件の違いを探求することで、それぞれの国のとっている政策選択の特徴があきらかとなるだろう。
結論
本研究は2年計画の1年目を終えたばかりであり、結論を導き出す段階にはない。初年度の目標は、OECD Net Social Expenditureの定義や論点を明らかにし、その上で日本の特徴を考察するところにあった。2年目の研究において、調査はその分析にまで踏み込んだところめざし、考察は、課題としてあげられたことの解明をめざす。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-