保険者機能の在り方に関するモデル研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100025A
報告書区分
総括
研究課題名
保険者機能の在り方に関するモデル研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
大江 和彦(東京大学医学部附属病院教授)
研究分担者(所属機関)
  • 尾形裕也(九州大学大学院医学研究院教授)
  • 石原謙(愛媛大学医学部附属病院教授)
  • 山口輝雄(東京海上健康保険組合常務理事)
  • 古井祐司(三菱総合研究所研究員)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
14,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、保険者機能の範囲および保険者機能の可能性を検討し、医療情報の二次的(社会的)活用を通じて、今後の保険者機能の在り方を検討することを目的とした。現在、医療サービスを利用する場合、その他のサービスに比較して、専門性の高さや情報の非対称性等から、利用者(被保険者)が情報を入手して自分で選択することは困難である。そこで、保険者は被保険者のために代理人として、医療機関等に関する情報を収集・整備し、利用者のニーズに応じて被保険者の選択を支援する情報やアドバイスを提供する役割・機能を発揮することが重要である。本研究では、医療情報の二次的(社会的)活用を通じて、被保険者の意識啓発、適正受診、疾病予防等の保健行動を推進するための保険者機能の具体策の検討及び実証を目的とした。
研究方法
1年度は、委員会を設置し、保険者機能の可能性、保険者機能発揮のためのモデル研究の具体的な内容および方法を検討した上で、被保険者ニーズ把握調査、既存の医療機関情報に関する調査を実施した。
(1)委員会の設置・開催
○参加者:主任研究者1名、分担研究者4名、その他学識者2名、保険者(調査フィールドとして協力を得た40健保組合のうち代表4名)、被保険者(40健保から代表4名)、日本病院会、東京都医師会、東京都歯科医師会、東京都、経団連、日経連
○開催:4回(班会議と同時開催)
(2)保険者機能の可能性の検討
ア 保険者機能の範囲
イ 保険者機能を活用した具体的事業(保健事業)の内容および可能性の検討
(3)保険者機能発揮のためのモデル研究の内容および方法の検討
ア 被保険者ニーズの把握およびニーズに対応する保険者機能に関するモデル研究
イ 既存および新規の医療機関情報を活用した保険者機能に関するモデル研究
ウ 医療従事者ニーズの把握およびニーズに対応する保険者機能に関するモデル研究
エ レセプト情報を活用した保険者機能に関するモデル研究
(4)調査の実施
ア 被保険者(患者)ニーズ把握調査
○調査票の作成
○調査実施の準備(対象者の抽出、その他事務手続き)
○調査実施および回収・データ入力
○調査結果の集計・分析
イ 既存の医療機関情報に関する調査
○病院のホームページ情報の収集
○医療機関情報に関する項目の設定
○医療機関情報の提供状況の整理
結果と考察
結果については、まず第一に、保険者機能に関して、「規制改革推進3か年計画」の中で保険者の本来機能の発揮について、保険者によるレセプトの審査・支払、保険者と医療機関の協力関係の構築、保険者による被保険者・医療機関に対する情報収集、保険者の自主的運営のための規制緩和等の措置が挙げられた。厚生労働省では、来年度より医療に関する広告規制を大幅に緩和することとなり、今後の保険者による情報提供にも影響があると考えられる。第二に、保険者による被保険者への情報提供については不十分な現状であるが、日本アイ・ビー・エム健保のインターネットを通じた保健事業の利用方法の紹介や医療費通知、伊藤忠連合健保の医療機関等の賢い利用方法、川鉄健保のレセプトと健診データを活用した健康教育など先進的な事例も見られた。第三に、病院独自のホームページの保有状況は都県によって異なるが、ほぼ3割程度となっていた。病院がインターネットを介して提供する医療情報の項目は、住所や電話番号等の属性から診療科、機器・設備、職員数等の施設概要、病気や治療、薬に関する説明、健康相談など多岐にわたり、施設間で項目数だけでなく内容も大きく異なっている。第四に、被保険者の医療情報に関するニーズ把握調査を実施し、回答者は約3万4千人、回収率は約54%であった(当研究班ホームページ参照:http://www.hihokenjya.org/index.htm)。受診する医療機関については、被保険者が想定する4つの症状:「生活習慣病」、「1か月ほど胃が痛む」、「3歳の子供(嘔吐・下痢)」、「妊娠」別に大きな差が出たが、全体では「かかりつけ医でまず受診」(48.0%)が最も多いが、「かかりつけ医がいないので探して受診」(24.4%)、「かかりつけ医がいないので受診経験があるところ」(21.1%)、「かかりつけ医はいるが他で受診」(3.9%)など医療機関情報が必要な群は過半数を占めた。最も重視する医療機関の情報については、「インフォームドコンセント」(59.6%)が最も多く、次いで「医師の得意(専門)分野」(40.9%)、「所在地」(38.7%)などである。現在入手可能な情報としては、所在地や診療時間等の基本情報は7割前後が入手可能としているが、所在地以外で重視した項目は10%台と低い割合であった。このように、医療情報に対する被保険者ニーズと保険者や医療機関等による情報提供の現状に大きな乖離が把握された。
考察については、現在の医療情報の公開・活用という法制度の流れや個別医療機関の情報提供がホームページ・インターネットを介して進みつつある中で、今後は、被保険者や医療機関のニーズに基づき、保険者等が医療機関等との連携のもとでの情報提供のあり方の具体的な検討が重要である。そのためには、被保険者の情報ニーズに対応し、現在の情報提供状況との乖離を埋めるための方策検討も必要となる。また、わが国の医療制度改革論についても保険者機能論の観点から検討、評価することが可能であり、今度の検討課題と考えられる。さらに、本調査の回答率が高かったように、健保組合と企業本体が連携して、被保険者(社員)へ意識啓発等の働きかけを行うことは効果的であり、保険者機能の発揮のみならず、適正な医療機関への受診、疾病予防などを通じてわが国の医療保険制度の効率的運用という視点でも重要かつ有効と考えられる。
結論
保険者機能に関する法制度の動向、保険者、医療機関・行政等による被保険者への情報提供の現状、医療情報に対する被保険者の場面(疾病)別の情報ニーズと情報の入手可能状況等が把握され、2年度目の研究につながる結果を得られた。

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