医療保険の効率化・合理化に資する先進諸国の改革動向に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100023A
報告書区分
総括
研究課題名
医療保険の効率化・合理化に資する先進諸国の改革動向に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
宮澤 健一((財)医療経済研究・社会保険福祉協会 医療経済研究機構)
研究分担者(所属機関)
  • 石井剛((財)医療経済研究・社会保険福祉協会 医療経済研究機構)
  • 石川健((財)医療経済研究・社会保険福祉協会 医療経済研究機構)
  • 小澤由幸((財)医療経済研究・社会保険福祉協会 医療経済研究機構)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
-
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
今後の高齢化の進展に伴い、医療費の増大は避けられないが、医療制度を持続可能なものとしていくためには、制度の効率化・合理化を研究・検討していくことが必要である。わが国においては、現在医療制度改革の議論が進んでいるところであるが、諸外国においても、医療制度の効率化・合理化に向けて、様々な取り組みがなされている。
医療制度は、それぞれの国の歴史的、文化的、社会的背景を踏まえ構築運営されてきているが、本研究では、各国で行なわれている取り組みについて、その背景、実態、運用方法を含め詳細に検討することにより、日本にとってのいくつかの貴重な知見を入手することを目的とした。また、医療制度の効率化・合理化策の効果等について、従来あまり研究されてこなかった積立基金制度や民間医療保険の活用の可能性について、諸外国の最新動向を調査し、日本への適用可能性等を検討することにより、今後の医療制度改革の議論に資する参考資料、検討材料を提供することを目的とした。
研究方法
a.文献調査 先行研究に関して文献調査を実施すると共に、現地調査にて入手した各種資料を調査分析した。
b.現地調査 医療保険の効率化・合理化に資する制度改革等に関する諸外国の動向について、具体的には、民間医療保険の活用の可能性について、イギリス・ドイツにおける民間保険の役割・実態について現地調査を実施、関係者へのヒアリング、関連資料及び関連調査研究の収集を行なった。また、積立基金制度に関して、シンガポールの中央積立基金(CPF)の実態及び最新動向を調査し、その役割等に関する関係者へのヒアリング、関連資料及び関連調査研究の収集を行なった。また、シンガポールの民間保険会社へのヒアリング調査を行い、公的制度下における民間保険の役割及びCPFとの関係等を調査した。
c.現地調査検討結果の検討 本研究では、各国医療保障制度に精通した有識者の協力を得て、現地調査内容及び、今後の日本における公民の役割分担のあり方等について検討を行なった。  
結果と考察
シンガポールでは、CPFにてメディセイブと呼ばれる積立制度が運営され、個人で積み立てた資金で医療費を賄っている。入院医療や慢性疾患等、治療費のかさむ外来医療に関する保険制度としてCPFの運営するメディシールドが別途用意されている。また、自分のメディセイブの貯蓄残高では足りない場合には、親族のメディセイブ口座から資金を引き出して医療費を賄うことも可能である。シンガポールの民間医療保険には、メディシールドに準拠するとともにメディセイブの資金を保険料に充当できる保険と、それ以外の保険がある。企業が,従業員への福利厚生の目的で民間医療保険に加入するケースも多いが、CPFの運営するメディシールドの加入率が高いこともあり個人で民間医療保険に加入する人が少なく、民間保険会社にとっても医療保険分野は魅力に乏しい保険種目となっている。イギリスでは、サッチャー政権下の1980年代におけるNHS改革の中で民間保険への加入者数が大幅に増えた。1990年代に入ってからも、主に企業が従業員への福利厚生目的で従業員に付保するケースが増えたため、加入者は全体として増えたが、医療費の高騰を反映して保険料も高騰したため、個人で民間保険に加入する者の数は、1990年代後半には減少することとなった。イギリスにおける民間医療保険は、金融自由化の流れを受けて公的制度の枠外で各保険会社が独自の保険商品・保険料設定で保険販売を行っており、新しい保険商品を販売するに当たり行政庁や他の保険会社と調整を行なうことは全く行なわれていない。ドイツでは、公的保険への加入義務の無い自営業者や被用者で高所得のある者を対象とした民間医療保険が存在している。医療保険会社の財務内容の健全性を維持するため、医療保険会社は医療保険以外の保険の販売を禁止されるなど、各種公的規制を受けており、金融自由化の流れの中では特異な分野である。民間医療保険では、公的保険では支払対象とならない個室料や上級医の診察料も支払い対象とされているなど、公的保険よりも給付内容が幅広い。公的保険と民間保険については、これまでも任意加入者獲得において競争関係にあったが、公的保険者間での加入者の移動が認められるようになった後は、より一層低リスク加入者の獲得競争が激しくなった。
結論
今回調査対象とした3カ国の公的医療保障制度は、それぞれの国の社会保障に対する理念や過去からの経緯、家族関係のあり方などさまざまな要因の影響を受けているために3カ国それぞれに全く異なるものであり、公民の役割分担のあり方もそれぞれ異なっていた。また、各国における民間医療保険の果たしている役割も大きく異なっていた。しかしながら、3カ国とも公的制度の枠外においては、給付内容の面で多様な保険が販売されており、日本においても民間保険会社の独自の商品開発により、多様な保険の販売を認めることが国民の多様なニーズに応えることにもなると思われる。また、3カ国における民間保険会社の諸施策からは、医療費についての医療機関側との事前合意、事務処理の集中化・オンライン化が制度の効率的運営に効果的であること、また、高額所得者を主な対象としてアメニティ部分を中心に担保する保険はどの国でも販売されており、今後日本において特定療養費制度の拡大等により国民のニーズに対応していく場合には、患者自己負担部分について担保する民間医療保険が日本でも成立しうると考える。積立型医療保障制度について日本で議論されているが、1950年代より同制度を行なっているシンガポールにおいても長期、かつ高額な医療費がかかるケースについては積立型制度では対応困難としてメディシールドと呼ばれる保険制度が準備されている。今後ますます高齢化が進む中で、積立型制度は将来世代へ負担を残さない制度として日本でも注目を浴びているが、医療費のすべてを自己責任の下で積立型にて対応することは困難であり、個人
では対応しきれない高額の医療費部分については、公的機関が運営するか、民間保険会社に任せるかは別として、保険制度により社会全体でリスク分散を図ることが必要である。

公開日・更新日

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