文献情報
文献番号
200100003A
報告書区分
総括
研究課題名
社会保障の改革動向に関する国際共同研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
池上 直己(慶應義塾大学)
研究分担者(所属機関)
- 府川哲夫(国立社会保障・人口問題研究所)
- 大石亜希子(国立社会保障・人口問題研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
10,150,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
人口高齢化、経済の低成長等を背景に先進各国において社会保障の改革が進展している。それらの中には共通の政策もあれば、各国独自の対応も見られる。これらを今後のわが国の改革の参考にする際には、それぞれの国の既存制度や背景となる社会経済の状況を十分踏まえる必要がある。そのためには、当該国の研究機関との共同研究を実施することが最も有益な情報を得られる方法であると考えられる。1997年にドイツのベルテルスマン財団より、国際的な社会保障改革の動向に関する情報ネットワークへの参加を要請され、国立社会保障・人口問題研究所が同ネットワークに参加することになった。これを契機に、本研究は同ネットワーク及び二国間の関係を通じ、各国の研究機関との情報、意見交換を行うとともに、特定の社会保障に関するテーマについての共同研究を実施することを目的とする。
研究方法
本研究では、ベルテルスマン財団(ドイツ)、National Bureau of Economic Research(アメリカ)、世界銀行、RAND研究所(アメリカ)などとの多国間および2国間の関係を通じ、各国の研究機関との情報,意見交換を行い、医療、年金、福祉等の社会保障分野における国際的動向を把握し、6つの特定テーマについて共同研究を行った。共同研究1「社会保障改革の動向に関する国際情報ネットワーク」では、ベルテルスマン財団主催の「社会保障改革の動向に関する国際情報ネットワーク」に参加して、先進15か国における社会保障分野の改革に関する情報収集、比較分析を行った。共同研究2「病院医療サービスの高度化とその経済効率性に関する実証分析」では、NBERの医療経済研究グループと共同で病院医療サービスの高度化(技術革新を含む)とその経済効率性(パフォーマンス)に関する実証分析を行った。医療施設状態調査、病院報告、社会医療診療行為別調査等を対象にデータの検討を行い、最終的には特定の疾病(急性心筋梗塞(AMI))に関して、病院医療サービスの効率性に関する日米の比較分析に資するデータ・ベースを作成し、実証分析と考察を行った。共同研究3「所得分配に関する国際比較研究」では、「所得再分配調査」等を用いて、同調査と先進諸国の調査との比較可能性を調査対象、所得の定義、世帯人員の調整法、等から検討し、各種の所得分配指標を用いて日本の所得格差、再分配の状況を主要先進諸国と比較研究した。共同研究4「公的年金のfoundationに関する比較研究」では、被用者に対する老齢年金給付を念頭に、日本を含む主要先進国の公的年金制度について、その基本原則、所得代替率、再分配の程度、制度のgenerosity 等を比較・分析して、日本の公的年金制度の客観的な特徴付けを行った。諸外国の調査に関しては、ベルテルスマン改革ネットワーク等を活用した。共同研究5「医療制度が医療の質に及ぼす影響」では、アメリカにおける医療の質の現状と医療の質の計測方法についての調査研究をRAND研究所(アメリカ)に委託した。共同研究6「家族の社会保障機能が社会保障の発展に及ぼす影響に関する研究」では、世界銀行開発調査局(Development Research Group)と連携をとりながら、日本における社会保障の機能と私的トランスファーによる家族の生活保障機能との関係をマイクロデータを用いて実証分析するための準備作業を行った。
結果と考察
平成13年度の研究結果は以下のとおりである。共同研究1「社会保障改革の動向に関する国際情報ネットワーク」では、先進国15か国の参加国からなるネットワーク構築に参加し、当該年度における日本の社会保障改革の報告を行うとともに、先進15か国における過去3年間の改革の動向を分析した
。共同研究2「病院医療サービスの高度化とその経済効率性に関する実証分析」では、急性心筋梗塞(AMI)など心臓疾患に対する医療技術の進歩が主たる治療方法や患者の健康に及ぼす影響を分析した。国立循環器病センター(NCVC)の研究グループの協力を得ながら、1994年から2000年までの経皮的冠動脈形成術(PCI)の適応とその治療の時系列的な変化が、ステントなど新技術の導入によってどれだけ改善されたかを計量分析した。NCVCとNBERの医療経済グループの作成したアメリカの代表的な高度医療実施病院との間の比較可能なデータ・ベースを作成し、これに基づいてAMIに関する治療法及びその成果について日米の比較研究を行った。共同研究3「所得分配に関する国際比較研究」では、2001年度は引き続き「国民生活基礎調査」「所得再分配調査」を用いて、日本の所得分配、低所得者層の現状と動向を国際比較を交えて分析した。LISなどを使った所得分配の国際比較研究を拡充するとともに、社会保障・税制が所得分配に及ぼす影響の把握、世帯構造の変化が所得分配に及ぼす影響(未婚成人や高齢者の同居など)等を分析した。国際的にみた日本の所得格差の状況を把握するには、もととなる統計の調査対象、所得の定義、世帯人員の調整法等を詳細にコントロールすることが重要である。1990年代において日本の所得格差は拡大したが、それは主に世帯構造の変化によるところが大きい。税や社会保障による個別の再分配については、格差縮小効果が小さいものもあった。また、生涯ベースでみると再分配効果が減殺されていることも明らかになった。共同研究4「公的年金のfoundationに関する比較研究」では、2001年度にはイギリス・アメリカ・ドイツの年金研究の専門家と研究交流を行い、日本の公的年金制度の客観的な特徴づけを多角的に行った。各国とも一方で現役世代の負担の増加を抑制しながら、他方で高齢者に意味のある給付をし続けられる制度として存続させる道を探っている。ドイツの場合は年金制度に外付する形で任意加入の個人老齢保障制度(企業年金又は個人年金)を導入し、スウェーデンの場合は年金制度全体を経済変動や人口高齢化に対して中立的な制度に変えた。アメリカの制度(OASDI)は1983年以降、被用者、自営業者、公務員、等を適用し、12.4%の保険料率で運営されているが、このままでは2040年頃から約束している給付の約72%しか払えなくなるため、年金制度内に任意加入の個人退職勘定を導入する案を中心に年金改革が議論されている。The President's Commissionが提案した3案のうちより変化の大きい第2案と第3案について、年金制度全般に占める個人退職勘定のウェイトを保険料率ベースで計算するとそれぞれ32%、26%になる。共同研究6「家族の社会保障機能が社会保障の発展に及ぼす影響に関する研究」では、2001年度はマイクロ・データの使用申請および外国における既存研究の文献調査を行った。さらに、発展途上国の中でもWTOに加盟した中国の社会保障改革の動向は、発展途上国における社会保障の役割の変化とその効果の変化を探る一つの事例となるので、主として年金制度改革と高齢者の就業・引退行動を対象に実証分析を行った。その成果は、2001年12月に中国社会科学院が主催した「移行経済における中国の労働市場の変化に関する国際比較セミナー」において報告を行った。
。共同研究2「病院医療サービスの高度化とその経済効率性に関する実証分析」では、急性心筋梗塞(AMI)など心臓疾患に対する医療技術の進歩が主たる治療方法や患者の健康に及ぼす影響を分析した。国立循環器病センター(NCVC)の研究グループの協力を得ながら、1994年から2000年までの経皮的冠動脈形成術(PCI)の適応とその治療の時系列的な変化が、ステントなど新技術の導入によってどれだけ改善されたかを計量分析した。NCVCとNBERの医療経済グループの作成したアメリカの代表的な高度医療実施病院との間の比較可能なデータ・ベースを作成し、これに基づいてAMIに関する治療法及びその成果について日米の比較研究を行った。共同研究3「所得分配に関する国際比較研究」では、2001年度は引き続き「国民生活基礎調査」「所得再分配調査」を用いて、日本の所得分配、低所得者層の現状と動向を国際比較を交えて分析した。LISなどを使った所得分配の国際比較研究を拡充するとともに、社会保障・税制が所得分配に及ぼす影響の把握、世帯構造の変化が所得分配に及ぼす影響(未婚成人や高齢者の同居など)等を分析した。国際的にみた日本の所得格差の状況を把握するには、もととなる統計の調査対象、所得の定義、世帯人員の調整法等を詳細にコントロールすることが重要である。1990年代において日本の所得格差は拡大したが、それは主に世帯構造の変化によるところが大きい。税や社会保障による個別の再分配については、格差縮小効果が小さいものもあった。また、生涯ベースでみると再分配効果が減殺されていることも明らかになった。共同研究4「公的年金のfoundationに関する比較研究」では、2001年度にはイギリス・アメリカ・ドイツの年金研究の専門家と研究交流を行い、日本の公的年金制度の客観的な特徴づけを多角的に行った。各国とも一方で現役世代の負担の増加を抑制しながら、他方で高齢者に意味のある給付をし続けられる制度として存続させる道を探っている。ドイツの場合は年金制度に外付する形で任意加入の個人老齢保障制度(企業年金又は個人年金)を導入し、スウェーデンの場合は年金制度全体を経済変動や人口高齢化に対して中立的な制度に変えた。アメリカの制度(OASDI)は1983年以降、被用者、自営業者、公務員、等を適用し、12.4%の保険料率で運営されているが、このままでは2040年頃から約束している給付の約72%しか払えなくなるため、年金制度内に任意加入の個人退職勘定を導入する案を中心に年金改革が議論されている。The President's Commissionが提案した3案のうちより変化の大きい第2案と第3案について、年金制度全般に占める個人退職勘定のウェイトを保険料率ベースで計算するとそれぞれ32%、26%になる。共同研究6「家族の社会保障機能が社会保障の発展に及ぼす影響に関する研究」では、2001年度はマイクロ・データの使用申請および外国における既存研究の文献調査を行った。さらに、発展途上国の中でもWTOに加盟した中国の社会保障改革の動向は、発展途上国における社会保障の役割の変化とその効果の変化を探る一つの事例となるので、主として年金制度改革と高齢者の就業・引退行動を対象に実証分析を行った。その成果は、2001年12月に中国社会科学院が主催した「移行経済における中国の労働市場の変化に関する国際比較セミナー」において報告を行った。
結論
経済の成熟化とグローバル化、人口の少子高齢化、財政状況の深刻化などにともなって、今日、先進諸国は福祉国家の再構築という大きな課題に直面している。先進諸国はそれぞれの国ごとにその置かれた状況の中で社会保障改革を行っているが、一方で他国の経験を参考にしたり、他国の改革の方向を自国の改革の選択肢に加えるなど、改革の理念や改革の土台となるエビデンスを共有しようという動きが活発になっている。ベルテルスマン財団の社会保障改革情報ネットワークの構築はその一例である。先進国の中で最も深刻な少子高齢社会を迎えると予想されている日本にとって、福祉国家の再構築は最も緊急性の高い政策課題である。日本が他の先進諸国から学ぶものは個別の制度改革もさること
ながら、その背景にある改革の理念や改革の土台となっているエビデンスであろう。そのためには2国間で研究機関同士が共同研究を実施・継続していくことが必要である。共同研究には多くの困難も伴うが、このようなプロセスを経てはじめて有意義な比較が可能となる情報が得られる。1999~2001年度の研究を通じて共同研究を継続することの意義も明らかになった。
ながら、その背景にある改革の理念や改革の土台となっているエビデンスであろう。そのためには2国間で研究機関同士が共同研究を実施・継続していくことが必要である。共同研究には多くの困難も伴うが、このようなプロセスを経てはじめて有意義な比較が可能となる情報が得られる。1999~2001年度の研究を通じて共同研究を継続することの意義も明らかになった。
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