臨床検査有用性評価の標準化に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200001156A
報告書区分
総括
研究課題名
臨床検査有用性評価の標準化に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
菅野 剛史(浜松医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 河合忠(国際臨床病理センター)
  • 伊藤喜久(旭川医科大学)
  • 寺本民生(帝京大学・医学部)
  • 野村文夫(千葉大学・医学部)
  • 玉井誠一(防衛医科大学)
  • 尾崎由基男(山梨医科大学)
  • 小川善資(北里大学・医療衛生学部)
  • 神辺真之(広島大学・医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
4,730,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
今日、外部精度評価調査において、施設間の計測値の差は、著しく収束し、医療、健診の現場で共同で利用しあう基盤が出来つつある。しかし、現実には、基準範囲(いわゆる正常範囲)を取り上げても、記載者により、教科書などでも範囲はまちまちであり、算出根拠も明確にされていない。また、一方では、専門家集団が提唱する病態識別域と呼ばれる判定基準、診断基準が提案され、健診の現場などで、基準範囲との食い違いが問題とされている。本研究の目的はこれらの混乱を除くため基準範囲、正常範囲などの用語の不統一を整理し、基準範囲と、病態識別域の定義付けを行い、かつ、妥当性のある方法で、基準範囲、病態識別域が設定されているか否かを調査し、利用される目的ごとに臨床検査値が有効に利用される背景を整備するものである。
研究方法
文献的な検索、資料の調査を主体とし、確認のための実験を加え、国際的な視点から、国際臨床化学連合(IFCC)、米国臨床検査標準協議会(NCCLS)、世界標準機構(ISO)の考え方に沿って基準範囲および病態識別域を検証する。
結果と考察
研究は、トレーサビリティ連鎖の考え方に基づく臨床検査の計測値のあり方を十分に認識することで解析がスタートした。第一には、分担した課題の検査項目がトレーサビリティ連鎖の概念が適用可能であるか否かから始められ、専門家集団(国際的、国内の学会)より提案された水準の高い測定法(生体成分の計測であっても、干渉を受けない)が存在し、かつ、その測定法で値付けされた安定な標準物質が存在する場合には、連鎖の概念が容易に可能であることが明確にされた。この時点では、日本医師会、臨床衛生検査技師会の外部精度管理調査の年次推移が重要な資料となった。第二には、この概念が適切に適用されなくても、条件が整へば、適用可能である検査項目があることが、免疫化学領域、血液学領域で存在することが示された。この場合に、Commutability(相互互換性)の確認が重要であることが示された。しかも、この概念の適用には同一物質を測定するという考え方が重要であり、免疫学的測定では抗体の特異性まで吟味された測定法の組立て、血液学的領域の凝固系検査では試薬の性格を考慮した測定系の組立てが重要であることが示された。第三には、トレーサビリティ連鎖が確立され、施設間差が解消すると、有用性は基準範囲という観点からと、病態識別域という観点から規準が提示されることが明らかにされた。前者では施設間の全国的な協力体制と、後者では専門家集団の精力的な検査データの評価と解析が要求されるので、EBMに則った対応が要求される。一部の項目を除いて大部分の検査項目で今後の課題として協同作業が残されている。第四には、生理学的検査、形態学的検査の領域では、測定対象が明確にされたものを除き、何を計測するかという規格を明確にし、その点での標準化の規格と目的を明らかにする必要が認識された。以上の点から、生化学、免疫化学、血液学領域では、トレーサビリティ連鎖の概念に基づき施設間差の解消が、計測値を有効に利用するための基本であり、引き続き、基準範囲と、病態識別域の考え方から、有用性評価の規準を作成するアプローチがあり、評価が明確にされているものが少ないことが判明し、今後EBMに則った規準の作成に関する研究がより必要であることが示された。 
結論
現実のトレーサビリティ連鎖が確実に実施されている検査項目は意外と少ない。これを現実に
するためには、水準の高い測定法の提示(学会など専門家集団の任務)、この測定法に基づいた標準物質の作成と供給(学会と企業の任務)、その標準物質の監視と監督(行政の任務)が必要である。そして、施設間差の解消を具現化して、基準範囲の設定と、病態識別域の設定をEBMに立脚して実施し、この標準化手順に沿って検査の有効性を増加させることである。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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