組換えヒトP450酵素の代謝反応を利用した医薬品等の評価方法の開発

文献情報

文献番号
200001021A
報告書区分
総括
研究課題名
組換えヒトP450酵素の代謝反応を利用した医薬品等の評価方法の開発
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
山崎 浩史(金沢大学薬学部)
研究分担者(所属機関)
  • なし
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
実験動物との種差の問題から、ヒト由来の組織、培養細胞又はヒト酵素遺伝子発現系を用いてヒトにおける代謝反応を明らかにすることが必要となっている。薬物代謝反応のはじめの段階に重要な役割を果たすP450(以下CYPまたはP450)には多くの分子種があり、それらの肝での発現量に著しい個人差があることが医薬品の薬効・毒性の個人差の一因となることを、我々は指摘してきた。ヒトP450遺伝子発現系試薬も市販されているが、P450遺伝子を発現させた系(リンパ芽球、酵母、昆虫細胞、大腸菌等)によって、P450に電子を伝達し、薬物酸化活性に必須な酵素であるP450還元酵素量などに大きな違いがある。新規経口糖尿病薬トログリタゾンのように、用いた発現系の触媒活性の違いにより、ヒトP450による代謝を受けないと誤って報告された新薬もあり、医療現場での薬物相互作用等の評価や予測時における問題となっている。発現機構が未解明である薬物相互作用の一つにフェニトインとテガフールがある。抗てんかん薬フェニトインと抗癌剤テガフールを併用することによりフェニトインの血中濃度が上昇し、意識障害などのフェニトイン中毒と思われる臨床症状が現れることが報告されている。そこで本研究では、これらの薬物相互作用の発現機序を解明するために、ヒト肝ミクロソームと組換えヒトP450によるテガフールとフェニトインの代謝について検討を行った。
研究方法
ヒト肝に存在する薬物代謝型の主要分子種であるCYP1A2、CYP2A6、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP2E1、CYP3A4およびCYP3A5について、NPRとの共発現pCWプラスミドを大腸菌に導入し、超遠心分離法によりその膜画分を調製した。さらに大腸菌膜を用いたP450共発現系にさらにNPRやチトクロームb5(b5)を添加して触媒活性の至適条件を検索した。市販のバキュロウイルスを用いたP450発現系の典型的な薬物代謝反応の条件の整理を行い、至適条件を明らかにした上で、本研究に用いた。
結果と考察
様々な含量のP450をもつヒト肝ミクロソームと組換えヒトP450酵素を用いて、ヒトにおけるテガフールからの5-FU生成には主にCYP1A2、CYP2A6およびCYP2C8が関与し、これらのP450の役割はヒト肝サンプルによって異なり、個人差の一因となるという考えを支持するいくつかの結果を得た。第一に、CYP1A2は特に低い基質濃度におけるテガフールからの5-FU生成に関与した。ヒト肝ミクロソームの5-FU生成活性はフェナセチンO-脱エチル化酵素活性やCYP1A2含量と相関しなかったが、組換えCYP1A2は5-FU生成活性に対して高いVmax/Km値を示し、抗CYP1A2抗体は5-FU生成活性の高いサンプルにおいて阻害作用を示した。P450阻害剤を用いた検討では、フラフィリンとフラボキサミンが同じサンプルにおいて100 オMテガフールからの5-FU生成活性を効果的に阻害した。第二に、ヒト肝ミクロソームのパクリタキセル6a-水酸化酵素活性は5-FU生成活性と相関し、その相関係数(r)はテガフール1 mMにおいて高かった。クエルセチンと抗CYP2C8抗体は2つの肝ミクロソームの5-FU生成活性を異なる程度に阻害した。これらの結果はテガフールからの5-FU生成におけるCYP2C8の寄与を示唆している。最後に、CYP2A6は5-FU生成に関与する重要な酵素であることが確認された。組換えCYP2A6はテガフール100 オMおよび1 mMにおいて高い触媒活性を示した。ヒト肝ミクロソームの5-FU生成活性は、クマリン7-水酸化酵素活性およびCYP2A6含量と有意に相関した。さらに、クマリンと抗CYP2A6抗体は、ヒト肝ミクロソームの5-FU生成活性を効果的に阻害した。組換えCYP2A6のKm値は、HG3ミクロソームのKm値とほぼ同じであった。本研究ではヒト肝P450がテガフールから5-FU生
成への代謝的活性化を触媒していることを明らかにした。ヒト肝において、定常血中濃度 (100 オM) 付近のテガフールからの5-FU生成は主にミクロソーム画分の酵素 (P450) によって触媒され、テガフール濃度が高い場合にはサイトゾル画分のチミジンホスホリラーゼにより触媒されることを示した。
ヒト肝ミクロソームによるフェニトイン酸化酵素活性は肝サイトゾルの添加によって増加し、サイトゾル存在下の3ユ,4ユ-diHPPH (5-(3ユ,4ユ-dihydroxyphenyl)-,5-phenylhydantoin)生成活性は主代謝物である4ユ-HPPH (5-(4ユ-hydroxyphenyl)-,5-phenylhydantoin)生成活性と同レベルであった。4ユ-HPPH生成には主にCYP2C9、一部CYP2C19が関与した。一方、3ユ,4ユ-diHPPH生成には主にCYP2C9、CYP2C19および CYP3A4が関与しており、これらのP450の寄与の程度はヒト肝P450の組成比に依存して個人差が認められることを明らかにした。ヒト肝ミクロソームのフェニトイン代謝研究は、個々の肝サイトゾル存在下で行わなければならないことを提唱した。サイトゾル存在下の3ユ,4ユ-diHPPH生成活性は、主代謝物である4ユ-HPPH生成活性と同レベルであり、一次代謝物からの3ユ,4ユ-diHPPH生成にはCYP2C9、CYP2C19および CYP3A4が関与していることが明らかとなった。さらに、これらのP450分子種の関与はヒト肝サンプルによって異なり、P450分子種の含量の個人差が主に代謝に関与するP450分子種を決定している可能性が示された。
結論
フェニトインとテガフールの薬物相互機序に関して、テガフールからの5-FU生成およびフェニトインの代謝に主に関与するヒト肝P450分子種は異なることが明らかとなり、これらの薬物相互作用がテガフールによるP450を介したフェニトイン代謝の直接的な阻害によるものではないことを明らかにした。今後両薬物の酵素誘導と代謝酵素活性の関係を追求する必要がある。ヒト組換えP450酵素の十分な触媒活性をもとに、ヒト肝での代謝を予測する方法について、十分に検討した組換えP450の触媒活性に、免疫化学的に求めた各P450分子種含量を発現系の反応速度パラメータに乗じる方法と、ヒト肝ミクロソームとヒトP450発現系と典型的な薬物酸化反応との相対比から各P450分子種含量を推定する方法が考案されている。ヒト肝ミクロソームと組換えP450を組み合わせることで、さらに他の医薬品の代謝に関する十分な検討を進める予定である。

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