国立病院療養所におけるコンピュ-タネットワ-クを用いた糖尿病の二次予防・三次予防に関する多施設前向き研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000909A
報告書区分
総括
研究課題名
国立病院療養所におけるコンピュ-タネットワ-クを用いた糖尿病の二次予防・三次予防に関する多施設前向き研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
大石 まり子(国立京都病院WHO糖尿病協力センター)
研究分担者(所属機関)
  • 中原俊隆(京都大学医学部)
  • 山本和利(札幌医科大学)
  • 森川博由(福井大学)
  • 谷川博美(国立療養所東佐賀病院)
  • 成宮学(国立西埼玉中央病院)
  • 能登裕(国立金沢病院)
  • 大星隆司(国立大阪南病院)
  • 山田和範(国立京都病院)
  • 加藤泰久(国立名古屋病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
5,550,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年増加し続けている糖尿病の二次予防・三次予防対策は急務となっているが、これら対策の効果評価の基礎となる疫学成績はほとんどないのがわが国の現状である。
本研究は国立病院療養所の糖尿病ネットワークを生かして、新規に糖尿病治療を開始する2型糖尿病患者を対象に以下の点について調査検討することを目的とする。①診断から治療開始に至る患者の受療行動の実態を調査し、治療の遅れ、放置の問題点を明らかにし、解決策を探る。②糖尿病の治療開始時から前向きに合併症発症の実態調査を行い、日本人2型糖尿病の合併症罹患率を明らかにする。早期発見早期治療の有用性を検証する。③データの送受信、検索、情報の閲覧のためのコンピュータ通信を用いた糖尿病データべースネットワークシステムを構築する。④無作為化比較対照試験(RCT)により糖尿病初期治療における血糖管理の合併症の発症進展に及ぼす影響を明らかにし、糖尿病治療薬の有用性の評価と初期治療の標準化を目指す。⑤RCTにより糖尿病初期治療における血圧管理の合併症発症進展に及ぼす影響を明らかにし、降圧目標の妥当性と降圧薬の種類による有効性の差を検討する。
研究方法
本研究のため、国立病院療養所29施設に属する35名の臨床医(JDNR Group)および2名の疫学専門家と1名の情報工学専門家で研究チームを組み国立京都病院糖尿病センターに管理センターを設置した。JDNR Groupに初診で来院した20歳以上の未治療2型糖尿病患者を対象とした。患者には説明文書を用いて説明し、インフォームドコンセントの得られたものを対象として登録した。①疫学調査:本研究のために作成したデータベース票により、初診時データおよび年1回の追跡データを収集した。調査票は郵送にて管理センターに収集し管理、統計解析を行った。今年度は初診から1,2,3年目の成績についてまとめた。②血糖管理RCTおよび高血圧RCTは,RCT検討委員会により研究計画を検討し、対象患者、割り付けの時期と条件、治療薬調整法に関するフローチャートを作成した。登録は各施設からFAXにて管理センターに報告、管理センターは、無作為割り付けを行った上で管理目標、治療薬の割り付け結果を1両日中にFAXにて当該施設に連絡する。無作為割り付けは、昨年度森川が作成したISLANDに付加されたRCT機能を用いて行った。本年度から患者登録を開始した。③糖尿病データベースネットワークシステムは、臨床疫学研究と独立して森川が構築した。
結果と考察
結果=①登録患者の臨床像 : 未治療初診2型糖尿病患者の登録は今年度で1657名となった。登録症例をその発見契機と受診契機により5群に分けた。健診により発見され、3年以内に受診した早期発見治療群(A群)は32.5%、健診発見後4~9年に受診したB群は5.9%、自覚症状により発見され9年以内に受診したC群は15.5%、他疾患を契機に発見され、9年以内に受診したD群は34.8%、発見契機にかかわらず10年以上経過後受診した放置群(E群)は11.1%であった。平均発症年令53.2歳、初診時の平均罹病期間2.8年であった。受診までの経過が長かったB、E群は発症年令が各々49.7歳、44.8歳と他群が52歳以上であったのに比べて若く、特にE群では72.8%が男性であった。また両群の糖尿病家族歴を有する割合は各々51.1%、54.5%と他群38.4~41.9%に比し高い傾向がみられた。②合併症有病率 : 初診時の合併症は全体で網膜症15.2%、腎症21.6%、末梢神経障害20.4%、自律神経障害11.7%であった。高血圧36.7%、高脂血症47.1%、虚血性心疾患3.6%、脳血管障害2.9%、ASO 2.2%であった。細小血管障害は、早期発見早期治療(A)群で最も少く、放置(E)群で最も高率であった。(有病率A群 vs E群、網膜症6.8% vs 36.4%、腎症19.2% vs 35.8%、神経障害11.5% vs 43.6%)。高血圧はA群で低率であったが、高脂血症、虚血性心疾患、脳血管障害、ASOは、群による差は明らかでなかった。③合併症進展率 :網膜症1次予防群で年平均6.4%、2次予防群21%、腎症1次予防群は9.5%、2次予防群15.5%であった。光凝固実施率は年2.6%で、1~3年で差はなかった。④イベント発生率 :虚血性心疾患1.6%、脳血管障害1.0%、ASO0.7%の新規発生を認めた。心筋梗塞は男性に多かったものの、その他のイベントは男女差はなかった。3年間で13名0.6%(男9名、女4名)の死亡を認めた。死因の1位は癌(膵癌3名、大腸癌2名)、2位虚血性心
疾2名、腎不全2名、3位脳梗塞1名、肝硬変1名であった。⑤治療成績 : 血糖管理、血圧管理は3年間ほとんど変化がなく、各々平均6.7%、130/76と良好であった。治療開始後減少した体重は年を経る毎に増加傾向はみられるものの、3年間を通して初診時より低く保っていた。非薬物治療の割合は年々低下し、A群でも1年目62%から2年目46%に低下、E群では30%から23%に減少した。インスリン治療、多剤併用例も経過年が進むにつれ増加した。⑥糖尿病データベースネットワークシステム : 各施設からのデータの送受信、データ処理、デ―タの検索、情報の閲覧を可能とする、WWW-DB連携システムを構築した。⑦血糖管理RCT : 血糖管理RCTの登録を開始し、53例が登録された。食事療法開始1ヵ月後に薬物治療を要する(空腹時血糖値200mg/dl)患者は10%と少なく、食事療法3ヶ月後に薬物治療を要する患者は37.5%であり、半数以上の患者は食事療法のみで血糖管理目標を達成できていた。臨床の場でRCT研究を実施する体制は整備された。⑧高血圧RCT : 高血圧RCTの登録を開始したが、登録は13名にとどまった。高血圧RCT研究を推進するための研究計画の見直し、検討を行った。
考察=①糖尿病と診断された後、治療開始まで平均3年が経過しており、特に比較的若年発症した男性が放置しやすい傾向がみられ、この層の職場での健診後指導の強化が二次予防対策として重要と考えられた。本発生率研究により、日本の2型糖尿病の初診時有病率、治療初期の合併症出現率、進行率、イベントおよび死亡に関する成績が集積されつつある。②本研究班において、データの送受信、データ処理、検索、閲覧を可能とする糖尿病データベースネットワークシステムを構築した。現在インターネット上のデータ送受信のセキュリティが確保されていないため、データは郵送にて収集しているが、この問題が解決されれば実際に運用可能となっている。情報ネットワークを用いた本システムは他の臨床研究に応用でき、多施設共同大型研究の推進に役立つのみならず医療担当者、患者への情報提供にも応用でき、医療におけるITの利用推進に益する。③RCT研究は開始したところで結果を得るまでには至っていないが、日常臨床の場で、エビデンスとなる臨床研究を行う基盤ができた。RCT研究を進める上での障害とその解決策を検討し、研究をさらに進める予定である。
結論
本研究により糖尿病発見後、治療開始に至る受療行動に関して二次予防対策に有用な成績が得られた。更に糖尿病治療初期の合併症、イベント、死亡に関して日本における糖尿病臨床の基礎的資料となる疫学成績が得られた。大規模多施設共同研究を支える糖尿病データベースネットワークシステムが構築でき、今後の多施設共同大規模研究の推進と共に情報提供ツールとして日常診療にも役立つと考えられる。

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