健康日本21計画の普及と評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000896A
報告書区分
総括
研究課題名
健康日本21計画の普及と評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
長谷川 敏彦(国立医療・病院管理研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 平尾智広(国立・医療病院管理研究所)
  • 近藤久禎(国立・医療病院管理研究所)
  • 松本邦愛(国立・医療病院管理研究所)
  • 藤田尚(国立・医療病院管理研究所)
  • 長谷川友紀(東邦大学医学部公衆衛生学教室)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
10,975,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
健康日本21の計画、特に地方計画に資するため、以下の課題を研究することを目的としている。研究の内容としては、地方計画策定の諸段階、すなわち戦略計画策定における問題の設定、ステーキホルダーの分析、優先順位付け等の指標を開発し、さらに健康関連グループや個人一人一人の健康実現のための計画策定の手法も同時に開発する。次いで計画の執行を評価するための事前・中間・事後の評価方法について評価項目、情報収集システム、それを支えるネットフレーム概念について分析をする。これらの研究を通して、健康日本21のすべての参加者が自ら計画を策定し、かつ自ら評価する方法を確立することができる。
研究方法
1.地方計画の策定
都道府県市町村は、地方の行政団体として健康日本21の地方計画を立てることが必要である。そこで最近策定された健康日本21の総論に基づいて、政策戦略計画やそのために必要な情報の収集、分析過程、執行の計画、さらには評価について研究し、策定を支援する。
1)戦略計画概念の確立
軍や企業で使われた戦略計画や概念を政府に応用する場合の基本的パターンについて、合理的策定プロサイクルを踏まえて、比較研究により新しい基本フォーマットを完成する。
2)問題設定
健康に関する状態やリスクや資源につき、全国的レベルのデータベース(人口動態統計、国民生活基礎調査、国民栄養調査、患者調査等)に基づいて標準的ベンチマーキングを設定する。分析に際しては年齢階級別の問題抽出以外にコホート別、あるいは所属場所、職場学校等の分析を加味する。コホートの問題分析については1歳階級コホート法などの新しい手法により、世代別のリスクの特徴や行動パターン、さらには過去のメディアや教育の影響を分析する。方法としてはライフイベント法を用い、過去の時代における様々な意見や変化を世代ごと、年齢ごとに抽出し、分析を試みる。
3)ステーキホルダー並びに資源分析
地方行政活動を取り巻くステーキホルダー、すなわち利害関係者を列挙し、そのグループ毎の関心度、影響力などについて分析し、健康日本21への参加や連携のパターンについて検討する。さらにこれらのグループや関連セクターに存在する資源を列挙し、健康日本21にいかに生かせるかを分析できるようにする。
4)方策の選択と優先順付け
科学的根拠に基づいて、問題を解決する手法を列挙し、その有効性を検証する方法を開発する。さらにそれを優先づける方法、例えばその重要度、効率性、効果等について判断する手法を確立する。
5)情報公開と住民参加法の確立
計画策定過程における住民との情報の双方向性の確保、意見の収集、決定への参加の手法について吟味し、その欠点・利点を分析する。
6)社会マーケティング手法の開発
地方政府レベルにおける住民への情報提供の方法論、インターネット、ラジオ、テレビ、雑誌、書物、CD-ROM等の特質の分析、さらに各計画参加者が所有する情報交換方法の同定をアンケートやインタビュー手法によって開発する。またコホート別に最適メディアを選定する方法を分析する。
7)執行計画策定法の確立と資源分析
地方行政主体が所有する資源を同定し、それらによる具体的な執行計画の策定方法を検討する。県においては情報収集のチャンネルや県レベルでのメディアの役割を分析し、市町村レベルでは新たな介護保険や医療保険、予防のための保健事業等の内容を見直し、健康日本21との連携をいかにはかるかを検討する。さらに具体的な各年毎の執行計画の立て方を確立する。
2.健康関連支援グループと個人個人の戦略並びに執行計画策定法の開発
地方行政主体による地方計画のみならず健康日本21に参加するすべての社会グループがそれぞれ政策計画と執行計画を持つことが望ましい。そこで保険者や専門家、或いはNPOやメディア、企業に関しても上記の研究プロセスを元に策定のプロセスや雛形について試考する。この場合、評価のプロセスはこの計画策定の中に組み込まれてデザインされる。さらにそれらを個人個人の健康実現のための計画、すなわち生涯をいかに設計していくかという戦略計画と、日々具体的に健康改善を行うための執行計画づくりを、統合させる方法論を開発する。具体的に健康実現を目指すグループを選定し、それらに自らの問題のアセスメントツールを開発して提供し、結果をモニターすることにより、より有効な戦略策定、政策計画並びに執行計画を確立する。
3.事前中間事後評価に関する研究
評価を計画前の事前、計画途中の中間、計画終了後の事後に分けて、評価の特徴を確定する。事前は計画そのものの策定のために行うことが多く、いわば戦略計画並びに執行計画策定の過程をなす。中間評価は計画を進行させ、改善するために行われ、通常執行者と共同で評価することが望ましい。事後評価は次の計画に反映させるために行うものとされている。従ってそれらの目的に応じて、評価項目を選定し、当初目的そのものをベンチマーキング法による評価や、執行過程における様々なプロセスの達成度を定量的に分析する手法を確立すると同時に、定性的な評価の手法を開発する。事後評価は健康日本21の最終評価であると同時に、次期の計画への分析として大項目や中項目の総合的な評価が必要であり、その構造について統計的かつ理論的手法を用いて分析する。
結果と考察
(1)健康概念の整理と基本概念の提唱
世代や年齢ごとに健康の概念は異なっており、またこれからの日本はさまざまな異なった価値観を持つコホ―トから成立するいわば世代連邦国家の様相を呈すると考えられる。従って、健康の基本概念としては、それぞれ自らが、その健康観を発見し、身の回りの資源を利用し、生涯に渡る自らの健康を設計して、実現してゆくという考えが必要である。一方、一人で健康を実現することは不可能で、社会的な諸グループ、古典的には健康専門家や保険者、地域、職域、家庭の場における支援、新たには、NPOやメディア、さらには企業などの支援によって実現可能となることが、分析され、提唱され、これが重要であることが判明した。
(2)健康問題の定量的分析
区間死亡確率(LSM)を指標として用い、県別の主要疾患、がん、心疾患、脳卒中など14疾患につき、65歳以下の区間死亡確率を算定した。さらに、患者調査から年齢階級別の総患者数や退院回数を算出、国民栄養調査から、健康リスクである、高血圧、肥満、高脂血症、喫煙、飲酒などの割合を算定した。さらに、国民生活調査から健康行動や主観的健康観を算出した。これらをそれぞれの項目に渡って、比較分析し、47都道府県の順位を選定した。これらにより、地域別に疾病のパターンやリスクの現状が分析された。次いで、各世代ごとのリスクについて、国民栄養調査を用いて、喫煙や飲酒、高血圧や肥満、羸痩の歴史的変化を分析し、若い女性の羸痩、若い男性の肥満、若い女性の喫煙が近年急増しており、重要であること。さらには、それらの持つ社会的背景を各世代が共有している歴史的な体験とともに分析した。職域の分析では、農業が自殺や事故とともに他の職業よりも多く、また若人並びに女性の管理職の死亡が一般住民より高いことが判明した。民族の分析でも、日本に在住する韓国人の死亡率が他の民族に比しても高く、男性の場合、日本の約1.7倍を示していた。
(3)ソーシャルマーケティング
高リスクではなく、集団アプローチの方法として、社会マーケティングの手法が提案され、その方法論について、企業などで使われる狭義のマーケティングではなく、法律、教育や技術などの社会装置などを含めたマーケティングで直接行動変容を目指すものではなく、本人の気づき、いわゆる、エンパワーメントに執するマーケティングの手法が提案された。方法論的には、世代ごとの特質を世代が経験した歴史的イベントを食事や喫煙や運動等の項目に分けて抽出し、特徴付けた。
(4)計画策定論
軍事や経営で使われた、戦略計画を「健康日本21」計画に応用した場合、分野の同定、関係者の分析、そして問題の設定などによる健康問題の状況分析を経、優先順位を設定、さらには、資源の確保、そして執行評価とつながる戦略サイクルのフォーマット化が完成した。自治体においても、支援グループにおいても、あるいは個人においてもこのような戦略計画とそして具体的な活動計画(執行計画)を持つこと、自らそれを評価しなおして、もう一度計画につなげることの重要性が確認された。
(5)海外健康政策分析
新公衆衛生運動をレビューした結果、 英米の国民健康計画は、この運動の影響を  受けていることが判明した。米国は「Healthy People 2010」が完成し、新たな目標を提案しており、英国の「Our Healthier Nation」では、労働党政権の成立とともに、NHS改革の変更をともなって、地域の目標の立て方の変更が見られた。ニュージーランドの場合、英米のごとく国ぐるみの独立した政策として健康政策を策定していないが、10の目標が設定され、戦略が立てられていることが判明した。
シンポジウムやグループ討議の結果、アメリカの「Healthy People」は比較的権限の弱い中央政府が地方政府や民間団体を巻き込んで健康政策を浸透させるために目標を中心に開発したことが判明した。特に、「Healthy People 2010」では国民全体にメッセージを送ることを目指している。マクギニスの評価によると「健康日本21」は最も寿命の長い日本を背景としており、特にコホートに基づく健康政策のあり方は国際的に見ても全く新しい発想であるとの評価を得た。
結論
以上の研究成果をふまえ、「健康日本21」には従来の政策にはない以下の新たな10の特徴を基本概念として提出できた。
①策定:専門家により根拠に基づいて作成
②背景:近代3度目の舵取り、超高齢少子社会支える、個を支える社会づくり
目的:健康増進は古い考え⇒健康実現が目的早死、QOL,自分の健康観の実現
理念:住民参加は古い考え⇒参加ではなく自らが主役、グループが支える
支援:保健医療外分野の重要性、健康の決定要因と参加グループ
範囲:健康づくりから生きがいづくり、その為の社会づくり町づくり
目標:目標の共有、その為の新しい指標。9分野55、69(60の目標)、97数値目標
手法:高リスク(健診)アプローチではなく、集団(一次予防)アプローチ。その為の社会マーケティング(エンパワーメント、社会装置づくり)。健康教育は古い考え⇒自らの健康学習とそれへのグループ支援必要
世代:ライフステージ(年代)からコホート(世代)へ
戦略:戦略計画と行動(執行、活動、実行、推進)計画を分けて

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