総合的な地域保健サービスの提供体制に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000895A
報告書区分
総括
研究課題名
総合的な地域保健サービスの提供体制に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
北川 定謙(埼玉県立大学)
研究分担者(所属機関)
  • 長屋憲(埼玉県狭山保健所)
  • 黒田基嗣(和歌山県高野口保健所)
  • 岩間真人(静岡県中部健康福祉センター)
  • 仲宗根正(沖縄県北部保健所)
  • 宇治光治(福岡県嘉穂保健所)
  • 岡田尚久(島根県出雲保健所)
  • 高岡道雄(兵庫県和田山保健所)
  • 惠上博文(山口県柳井環境保健所)
  • 圓山誓信(大阪府豊中保健所)
  • 重本弘文(熊本県天草地域振興局保健福祉環境部)
  • 藤田信(静岡県志太榛原健康福祉センター)
  • 内野英幸(長野県大町保健所)
  • 平野かよ子(国立公衆衛生院)
  • 尾島俊之(自治医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
39,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、これらの具体的な問題点を分析整理し、各保健所等における事業推進及び人的資源の配置等のための参考に資することを目的としている。
研究方法
「地域保健モデル事業」(下記(1)~(12))では、12府県の分担研究者(主として保健所長)が、それぞれのモデル地域(原則として医療圏をベース)を選定し、地域保健に関する特定の課題を定め、その解決のための体制を構築し、具体的に事業を実施し、問題点を明らかにするものである。また、「保健婦の活動及び配置の在り方」(下記(13)~(14)では、地域保健対策を担う人的資源の中で、特に保健婦・士について、平成14年度に市町村にサービスの一部が委譲される予定である精神保健福祉対策に焦点をあて、市町村と保健所の役割と連携の方策について検討し、具体的な保健婦・士の活動と配置の在り方を明らかにするものである。
結果と考察
本研究は、具体的なシステムづくりを指向しており、各分担研究の概要については以下のとおりである。(1)小児救急医療確保のための管内各市及び民間医療施設を包括する連携システムに関するモデル事業:小児科の医療資源が極めて少ない都市型医療圏をモデルとして、核となる二次救急医療機能確保の方法論を確立した。詳細な地域医療情報を用いた保健所による行政介入は有用であった。また、病院の機能分担と地域開業医による当直医確保は、極めて限られた医療資源の効果的活用を可能とした。(2)小児難病の保健・医療・福祉の総合的ケアシステムの構築を目指したモデル事業:小児難病に対する保健・医療・福祉を含めた総合的なサービスを目指し、県子ども保健福祉相談センターを中心として、地域での療養を支援する総合的なシステムづくりについて検討を行った。小児糖尿病患児及び家族の療養生活を支援するための地域ケアシステムづくりにおいて保健所の役割として、教育現場及び地域住民への正しい知識の普及、心のケア、定期的な情報の提供、家族会の育成・充実が望まれた。(3)災害時における難病患者支援ネットワーク整備モデル事業:災害時における難病患者支援のために、患者・家族の会、消防、警察、保健所、市町村が一体となったネットワークを構築し、他の災害対策計画と有機的な連携を構築した。災害時における難病患者支援のために、災害時に支援すべき患者のリストを作成し、平常時から患者の状態・ニーズを把握しておくことが大変重要である。また、他機関との連携には保健所が地域難病対策のコーディネーターとして活動する必要があり、その効果は大きいと考えられる。(4)障害児の総合的な保健・福祉サービスの実態と今後の在り方に関するモデル事業:地域療育のあり方を関係者や当事者(保護者)を含めて検討し、新しい療育システムづくりを行った。当面人口10万人程度の規模で広域的な療育の支援体制をつくること、地域の動向に応じた体制を計画的に整備していくこと、保健所は市町村が地域療育支援事業を活用し身近な地域で療育を実施できるようシステム全般にわたって関わることなどが必要と考えられる。(5)心身障害児の療育システムに関するモデル事業:心身障害児に対する療育の拠点がない管内における療育システムの構築を目指
した。地域療育に関わっている機関との協議会を設置することにより地域における療育問題に関する共通認識を持つ第一歩となった。また、関係機関のスタッフは事例検討や障害児と関わるための様々な研修を望み、保護者は物理的・心理的負担や情報の伝達性の問題から十分な支援を受けられていないことが明らかとなった。(6)長期入院患者(社会的入院)の在宅支援推進モデル事業:精神障害者対策は入院中心ケアから地域社会でのケアという流れになっているが、長期入院患者の割合は減少しておらず、社会的入院患者を在宅に帰するために、地域の受け皿づくりや関係機関による長期入院患者の在宅支援ネットワークづくりのための検討を行った。退院し、地域生活を支援していくために必要な条件としては、地域での支援ネットワークの構築及び社会資源の整備が必要であることを確認した。また、長期入院者の退院に向けて個別の目標とプログラムの作成が必要であり、ケアマネジメントの手法を活用し、地域生活の支援を行っていくことが効果的と考えられる。(7)広域的障害児(者)ケアシステムの構築:障害児(者)のケア施設等の少ない西南但馬地域における新たなケア施設等の設置とケア資源の連携を目的とし、広域的な心身障害児ケアシステム(小児リハビリテーションシステム)及び精神障害者社会復帰支援システムの構築を目指した。心身障害児のケアシステムの構築においては、定期的・継続的にケアネットワーク会議を開催し、保健・福祉・医療・教育機関における情報の共有化、個別支援に必要なサービスの開発について内容の充実を図ることが必要である。また、支援体制充実のために、研修体制を確立し療育施設の充実及び地域スタッフの資質の向上を図ること、保健所において実施している集団療育事業の対象者について発達レベル別・地域別などにより新たな通園事業施設との役割分担を行うことなどが必要である。精神障害者社会復帰支援システムについては、地域の関係者の理解を得るためにもボランティアの養成を行うことが必要である。(8)地域リハビリテーション連携システムの整備支援モデル事業:在宅医療・介護の推進及び医療・介護保険の安定的な運営に資するため、全国一高齢化町を抱える管内において、地域リハビリサービスの連携システムの整備を支援した。訪問リハビリサービス基礎調査から、当該サービス及び関連サービスの提供者における連携意識と連携行動との乖離を把握するとともに、専門職員の確保・定着が最も重要な課題であることが明らかとなった。(9)保健所の企画調整機能の評価に関するモデル事業~地域づくりと地域リハビリテーションシステムの構築を目指して~:健康づくり施策や地域リハビリテーションシステム事業等を通して、保健所における企画調整機能を評価し、あわせて、市町村をはじめとした地域の保健、医療、福祉等の関係機関のネットワークを構築するための保健所の果たすべき役割について研究を行った。健康づくり(防煙教室)は概ね順調に推移しているので、喫煙防止教育を継続実施し、その評価分析を行うことが必要である。地域リハビリテーション事業では、「回復期リハビリテーション病院連絡会」を立ち上げたが、患者の病院間の移動を速やかにするための責任者の会(医師のみ)という正確が強く、今後は理学療法士等の参加も含めたよりきめ細かな連携体制づくりが必要であるとともに、サービスの受け手側の意見を反映していく必要もあると考える。(10)痴呆対策を主眼としたサービスの提供体制に関するモデル事業:県内でも最も高齢化が著しい地域おいて、痴呆予防のための疫学研究と事業の効果測定を通して、痴呆に対する総合的なサービスの提供体制の構築を図るとともに管内町村への普及システムの開発を目的とした。痴呆対策の知識普及は進んでいるものの、情報の内容が検討課題である。また、若い世代を中心に意識を持って健康づくりが実践できるように働きかける工夫が大きな課題でもある。モデル町への普及システムの改善を通して、町と協働して町が行う独自事業としての組み立てを考え、痴呆老人への支援ネットワーク作成
の可能性を探る必要があると考える。(11)児童・生徒の防煙対策の焦点を明らかにするモデル事業:管内の学校と共催し、調査を通して、防煙対策を実施する上での課題、問題点、対策の焦点を明らかにして、施策を提言した。管内の児童・生徒とその保護者に対して行った喫煙に関する調査から、喫煙開始年齢・喫煙継続の意思・健康に関わる他の行動・周囲の喫煙環境・周囲の者の喫煙に対する考え方などについて、喫煙経験児童と非喫煙児童との間に相違があることが明らかとなった。(12)思春期の望まぬ妊娠・性感染症予防のためのモデルプログラム開発と評価に関するモデル事業:21世紀を担う若者が思春期の時期に望まぬ妊娠・性感染症を予防するための行動に繋がるような教育のあり方を考えるためのモデルプログラムを開発し、保健教育での連携や実践を行い、効果的な教育技法の確立を目指した。種々なアプローチによるニーズ調査をした課程で、関係者の誰もが性の重要性を認識しているにもかかわらず、地域の閉鎖性から、若者に対して性に関する正しい情報提供や相談・対応が十分に行われていないことから、信頼関係づくりのプロセスが重要であること明らかとなった。(13)これからの地域保健福祉対策に従事する保健婦の活動の在り方に関する研究:平成14年度から市町村に精神保健福祉対策の福祉サービスが委譲されることをふまえ、精神保健福祉対策における市町村と保健所の役割と連携方策及び保健婦の活動について検討を行った。保健所の役割としては、地域で生活する精神障害者の病状の変化への総合的な対応や、思春期問題やアルコール・薬物などに関する専門的な生活・医療相談への対応、さらには、市町村に対するスーパーバイズや研修への対応を担うものと考えられる。また、市町村の役割としては、精神保健福祉の普及・啓発を推し進めることや、市町村の総合相談窓口などの保健事業から精神保健福祉に関する問題を早期に発見することなどが考えられる。また、精神保健福祉に関するニーズが多様化していることから新たな地域の精神保健福祉対策の体制整備が必要であるとともに、市町村保健婦に対してはケアマネジメントの視点をより強化し地域全体で対応する地域保健活動を展開する力量を向上させる必要性が示唆された。(14)これからの地域保健福祉対策に従事する保健婦の配置の在り方に関する研究:地域保健福祉関連対策の現状と課題をふまえ、精神保健福祉対策における必要保健婦数及び地域保健福祉対策全体における保健婦の配置のあり方を検討した。また、これからの地域保健福祉対策にかかる人的資源を算定する方法論を明らかにした。大半の市町村において既に精神保健福祉業務を実施しているが、人口の大きい市町村ほど実施割合は低い傾向にある。また、地域で生活していると推計される精神障害者等の数に比して、現在提供されている保健サービスは圧倒的に少ない状況にある。
結論
この研究は3年計画ということで進められているものであり、3年計画の初年度では、前述に示したとおり、各々の地域における実践的研究のための組織づくり、基本的計画の策定と現状分析や基盤整備等を展開したところである。今後は、具体的な事業展開とその評価を加え、分担研究者ごとに事業を進めるとともに、各研究者の情報共有化を図りまた、研究班会議を必要に応じて開くことにより総合的な地域保健のモデル事業として発展をさせていく計画である。

公開日・更新日

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