栄養活動から見た地域保健福祉活動の企画・評価に関する研究

文献情報

文献番号
200000893A
報告書区分
総括
研究課題名
栄養活動から見た地域保健福祉活動の企画・評価に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
薄金 孝子(神奈川県鎌倉保健福祉事務所)
研究分担者(所属機関)
  • 高松まり子(東京都板橋区保健所)
  • 押野栄司(石川県立中央病院)
  • 酒元誠治(宮崎県小林保健所)
  • 藤内修二(大分県佐伯保健所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
21世紀における「すべての住民が健やかに心豊かに生活できる社会」を実現するために、健康づくり運動が積極的に推進されることが求められている。栄養活動から見た地域保健福祉活動も、他の活動と同様に、行政のみならず、関係機関や団体、企業、ボランティア団体等との協働による体制づくり、住民参加の活動、科学的評価への取り組みが一層必要とされている。また、住民に身近なサービスが市町村に委譲されるに伴い、都道府県の業務は従来の方法では評価が困難になり、事業効果が表せる評価方法を検討する必要に迫られた。このことから申請者らは、ヘルスプロモーションの企画・評価の理論デルの一つであるグリーンらの「PRECEDE-PROCEED Mode」や、地域の食活動を食生態学の立場からとらえた足立の「人間・食物・地域lとのかかわり」のモデルに、実践活動に裏付けされた情報やデータを当てはめ、専門性・緊急性の高い栄養活動(以下(1)~(3))を選定し、「栄養活動から見た地域保健福祉活動 の評価票(以下「評価票」という)」を作成した。本研究は、作成した評価票を実態調査を基に精選するとともに、これに基づいた実践活動の展開から、活動の有効性を検証することを目的とする。
研究方法
平成11年度(研究1年目)は、個別事例や困難事例の把握に加えて全国調査を行い、先駆的事例の事業展開のポイント、促進因子や阻害因子の分析等を基に、「評価票」を精選し、これを基に、活動の到達状況等に応じた活動の方向性を提示することを試みた。平成12年度(研究2年目)は、作成した評価票を基に、全国の異なった地域で実践活動を展開した事例から、各評価項目について、実施のポイントやノウハウを具体化し、活動の有効性を検証した。また、全国で行われている栄養活動について、保健所所長や管理栄養士の意識ニーズや実施の意向、実現可能性についての意識について把握し、申請者らが選定した事業の優先順位ついても検討することを試みた。
結果と考察
(1)民間や産業保健との連携による活動評価:ア、産業保健との連携の活動評価:給食喫食者のQOLの実現に向けて、作成した3つの評価票、①集団給食施設指導事業の総合事業、②個別巡回指導の評価票、③施設を支援する評価票の中から、③の評価票を産業保健における栄養活動の自己チェック票として活用し、産業保健における生活習慣病予防対策の活動を評価した。さらに、施設の気づきにより自ら行う活動や、これらを支援する保健所の活動を明らかにし、評価票の有効性を検証した。その結果、この評価票を活用することにより、活動段階が評価でき、これに応じた支援活動ができることが明らかになった。まず、給食運営が労働安全衛生担当や厚生担当、委託給食会社と組織的に行われる段階、次に、労働強度や健康状態に適した食事や生活習慣病予防対策が検討される段階等の状況に応じて支援することができた。さらに、施設担当者が自己チェック票として活用することで、生活習慣病予防の視点で給食を認識し、望ましい栄養管理や栄養教育活動につながることが確認できた。イ、民間との連携の活動評価:健康づくり協力店事業から見た民間との連携活動評価票(栄養施策、健康教育、栄養教育、事業維持推進体制)と飲食店の役割評価票を活用して事業評価を行い、地域性を踏まえた実施ポイントと共通点を整理し、事業の企画から評価までの保健所の支援活動を評価し、その有効性を検証した。その結果、取り組み段階としての事業開始期、事業普及期、事業拡大期における支援のポイントが明らかになった。さらに、保健所
が地域の飲食店の特徴を的確にとらえることによっ て、一つの事業に留まらず、福祉の視点を盛り込んだ高齢者等にやさしい街づくりを 商店街自らが考えるなど、思わぬ波及効果が生まれた。このような事例からも事業展開の方法によっては、地域性を生かした、健康で活力ある街づくり事業に広がる可能性が示唆された。(2)保健・医療・福祉との連携による活動評価:ア、在宅療養者食生活支援の活動評価:在宅療養者、特に炎症性腸疾患(IBD)の病態に応じた療養生活のQOLの向上を目ざして、食生活支援の評価を試みたが、医療機関等との連携体制が課題であることが明らかになった。そこで、在宅療養者の支援システムと、食事療法指導連絡票を事例に基づき検討した。その結果、医療機関、市町村、ヘルパーやボランティア等の役割と、特に保健所においては、患者会等の自助グループの育成や支援する役割が明示された。また若い療養者に対しては、職場や学校における食事内容の検討等、食環境整備の必要性が認識されたことで、集団給食施設指導を通じた支援の重要性が確認された。さらに、食事療法指導連絡票を活用することにより、医療機関との連携が深まった。(3)健康日本21市町村計画策定の企画・評価:ア、市町村計画策定の支援~糖尿病分野編~:健康日本21市町村計画を策定する際、保健所と市町村がヘルスプロモーションの理念を共有しつつ、計画策定を支援するためのツールとしてワークシートを策定した。このワークシートは、健康日本21の9分野のうち、対象を絞り込み「糖尿病分野編」とすることにより、協働作業の視点を明確にした。また、作業の繁雑さを避けるために国または都道府県が策定したビジョン(戦略計画)を活用することで、糖尿病対策に関しての行動(執行)計画を策定することとした。さらに、PRECEDE-PROCEED モデルを活用することで、住民参加の視点や、評価の視点を持てるように配慮した。その結果、計画策定の負担軽減が図れ、QOLを性別・年代別に抽出することで、対象者に適した施策を立案できることが示唆された。また、計画に基づく活動実施後の経過評価、影響評価、結果評価に至る評価指標についても、モニタリング指標を取り入れて評価を行いながら、実施方法等を修正することが可能である。策定した形式はワークシートのため、マニュアルと異なり、策定に携わるマンパワーの差が出来上がった行動計画の良否に大きく影響されると推測される。イ、栄養・食生活の計画策定の企画・評価:事例を基に4つの側面から作成した地域栄養計画の評価票(①地域栄養計画書、②地域栄養計画書活用、③地域栄養計画策定プロセス、④市町村支援)のうち、③の評価票を再度事例に当てはめて修正した。評価票の中でも、住民や関係者等が参加して企画段階から一緒に計画策定を行うことが、その後の事業展開につながることが確認され、その重要性を認識したことからである。参加型で計画が策定できるよう、策定作業のポイントを丁寧にチェックし、その手続きに合わせた評価項目をワークシート形式で策定し協力の得られた保健所及び市町村担当者に評価票の記入を依頼した。その結果策定経過のポイントが押さえられた、地域住民の意見を聞いていなかったのがわかった、担当者だけで活動していた等、自己チェックによる気づきが確認された。また、栄養・食生活の計画策定だけでなく、他分野にも活用でき、さらに、普段の仕事の仕方のチェックにも有効であるとの意見が寄せられた。(4)栄養活動における保健所職員の意識等の実態:これまで、申請者らは保健所の栄養活動の企画・評価について、栄養担当者等から意見聴取しながら評価票の改良を重ねてきた。その過程で、都道府県ごとや地域ごとに保健所栄養活動が以前にも増して異なっていることが指摘された。そこで、今後の保健所栄養活動として、選定した32項目の取り組みについて保健所長と管理栄養士にニーズ、実施の意向、実施可能性、必要な基盤整備の意識調査を行った。その結果顕著であったものは、管理栄養士は「市町村事業への支援」についてのニーズを低く評価し、実施の意向も少なく、「市町村の栄養活
動の企画」については事業の企画への支援に重点をおいていることが明らかになった。また、栄養活動の取り組みのために必要な基盤整備として所内のコンセンサスが挙げられていたが、既に実施しているにも関わらず所長が認識していない取り組みも見られ、所内の調整やコンセンサスづくりの重要性が確認できた。
結論
保健所長と管理栄養士に対する意識調査で、ニーズ評価、実施の意向、実施済みとも1位であった事業は、法的裏付けのある集団給食施設との連携事業(集団給食施設指導)であった。この事業の評価票の新しい視点は、従来の行政側の評価票の視点(栄養管理や衛生管理)に、喫食者の生活習慣病予防や食べる意欲等健康状態やQOLを評価の視点に加えていることである。また、集団給食施設との連携事業以外は、全国的に先駆的事業であるが、在宅療養者の食生活支援事業を除いてはニーズ評価、実施の意向とも上位を占めていた。一方、在宅療養者のニーズ評価が32項目中21位なのは、各保健所管内では他の業務に比べて頻度が低いためと考えられる。今回、民間や産業保健との連携による活動評価票は、これを用いて経年的な事業評価を行った結果、成果の見られることが確認できたことにより、新たに事業展開を行う場合のマニュアルとして活用できることが明らかになった。また、保健・医療・福祉との連携による活動評価票は、連携状況の不十分さをチェックでき、健康日本21市町村計画策定のワークシートは、栄養士が仕事を進める際の自己チェック票にも活用できることが示唆された。さらに、行政栄養担当者だけでなく、企業担当者や飲食店業者、ホームヘルパーや医療機関従事者、計画策定に参加する人等が活用することで成果が見られる可能性が見え、研修会等にも活用できる。

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