高齢期等居住移動者の保健等ニーズと地域保健医療福祉の供給に関する研究

文献情報

文献番号
200000892A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢期等居住移動者の保健等ニーズと地域保健医療福祉の供給に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
豊川 裕之(社団法人エイジング総合研究センター理事(学術担当))
研究分担者(所属機関)
  • 中原俊隆(京都大学医学部公衆衛生学教室教授)
  • 渡辺武(社団法人エイジング総合研究センター委嘱研究員)
  • 武村真治(国立公衆衛生院衛生行政学部)
  • 吉田成良(社団法人エイジング総合研究センター理事)
  • 薩摩林康彦(社団法人エイジング総合研究センター)
  • 東川薫(社団法人エイジング総合研究センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国の保健福祉問題では、「健康日本21」及び介護保険サービス等に見られるように、地域社会を基盤とする保健福祉供給体制づくりが益々重要視されている。
また一方、住民側の地域保健福祉に対する関心も急速に高まり、高齢者の居住移動や居住選択地域の医療環境や保健福祉サービスの状況が係わるので、その度合いを明らかにすることを意図した。具体的には高齢者の居住行動の実態調査を実施して、高齢社会における、①満足感、孤独感による定住性の判別関数、②満足感、孤独感に関する横浜市3地区間の格差、③居宅類型、介護者の有無、収入、職の有無の要因としての役割を明らかにすることを意図した。
この実態調査を通して、今後に求められる「高齢者対策に必要な地域保健医療福祉供給」に資することを目的とする。
研究方法
平成12年3~5月の2カ月間に横浜市に転入、市内移住した高齢者:2,500名を対象とし、質問表を郵送し、1,410名(回答率56.4%)の回答を得た。調査は無記名調査とし、プライバシーに配慮した。調査項目は以下に示す22項目:①性、②年齢、③転居前・後の住所、④本人の生誕地域、⑤配偶関係、⑥現在の職業の有無、⑦生活費の源、⑧転居前・後の世帯主、⑨転居前・後の同居者等家族構成、⑩随伴移動者、⑪転居前・後の住居、⑫日常生活行動、⑬健康状態、⑭社会参加活動、⑮要介護者の有無(同居者)、⑯介護必要の有無(本人)、⑰介護者・介護支援者の有無、⑱移動理由、⑲定住希望、⑳転居前・後の状況比較及び移動後の生活環境変化、等の各項目(質問項目は22項目)である。
結果と考察
判別関数によると、満足度の充足に係わっているのは、①IADLが高いこと、②健康状態が良い、③医療サービスを利用すること、④介護人がいる(特に、肉親・知人・他人の区別なく)、⑤社会活動に積極的(ボランティア活動、学習活動、旅行・スポーツなど個人的活動のいずれか/全部)等が強い影響を持つが、その他にも⑥自宅に住む(施設等ではなく)、⑦実態調査地の横浜市内の3群間で見ると第3群→第2群→第1群に居住継続希望が高い。
また、「居住継続希望」は諸々の条件に対する高齢者の評価の表れであるから、これを多変量解析による判定量的に検討すると、全市レベルでは①就業の有無と、②現・満足感で83.3%判別でき、「現・満足感」は健康状態と現・孤独感によって80.0%判別できた。
これらの高齢者のニーズを充足することは必ずしも行政だけの努力で出来るものではなく、 当事者の自己実現の意欲と地域社会の協力がなければならないが、そのための行政側の環境づくり施策が望まれる。そして、地域自治体では、今後増大する高齢者の居住移動に伴うサービス供給(量及び内容)に対応した在り方が課題となる。
結論
高齢者の居住移動に係わる要因、すなわち住み続けたいと希望する要因と居住移動を促す要因について、横浜市の高齢者について調査した結果、つぎのように推論することができる。
現状に満足していること(現満足感あり)が現在孤独感がないこと(現孤独感なし)と高い正相関があることから、高齢者にとって両者が密接に関与していることがわかる。また、住み続けたいという希望も現満足感と高い正相関関係にあり、これら三者は高齢福祉にとっては極めて重要である。
日常生活に満足感を感じている人の傾向としては、①孤独感を感じない、②移転して良かったと思う、③不安感を感じない、④現住所に住み続けたい、⑤健康状態が良い、⑥移転して便利になったと思う、⑦潜入的活動を行っている、⑧介護者がいる、⑨持ち家の人が多い、⑩行動レベルが高い、⑪学習活動や社会的活動を行っている、などが見られた。
健康状態との関係を見ると、これも明らかに健康な人が満足感を感じる傾向が強く、現住所に住み続けたい希望との関連でも、大変満足している人は殆ど全員が現住所に住み続けたいと感じているのに対し、大変不満に感じている人の40%が移転を希望している。
また、福祉サービスを利用することで、満足感が減り、孤独感が増大する要因となっているので、福祉サービスの質が高齢者のQOLを高め自己実現への意欲を高めるものである必要がある。
次年度では、介護保険実施下での保健福祉供給格差による移動形態と必要となる保健・福祉サービスについて究明する。

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