介護保険導入による市区町村の保健福祉サービスの変容に関する行政学的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000886A
報告書区分
総括
研究課題名
介護保険導入による市区町村の保健福祉サービスの変容に関する行政学的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
近藤 健文(慶應義塾大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • なし
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成12年4月からの介護保険の実施により全国の市区町村の保健・福祉サービスがどのように変化していくかをプロスペクティブに調査し、行政学的に分析研究する。平成12年度は介護保険導入時の市区町村の保健・福祉サービスと介護保険の状況等を明らかにする。
研究方法
全国の全市町村及び東京都特別区に対して質問票を送付し、その回答を分析する。併せて厚生(労働)省「地域保健事業報告」の目的外使用許可を得て、市区町村の地域保健サービスと職種別職員数の関係を分析する。
結果と考察
Ⅰ.介護保険導入による市区町村の保健福祉サービスの変容に関する実態調査
951市区町村から回答を得た(回答率29.4% )。総要介護者数は、要支援状態を除き要介護状態区分が重くなるにつれて人数が減る傾向が見られた。また、在宅と施設の比は約3:1であった。一般会計歳出額に占める衛生費の割合は約11%、民生費の割合は約19%であった。地域保健事業費総額に占める母子保健事業費の割合は約13%、老人保健事業費の割合は約50%であった。市区町村の地域保健事業に関わる部門に所属する常勤職員の有無を職種別に算出すると、常勤職員を雇用している市区町村の割合が最も高い職種は保健婦(士)であり、常勤職員を雇用している市区町村の割合が15%を超えるその他の職種は、看護婦(士)、准看護婦(士)、管理栄養士、栄養士の4職種であった。また、各職種の活動時間を、母子保健事業、老人保健事業、およびその他の事業の3つに割り振った時に、母子保健事業のための活動時間が最も長い職種は、医師、歯科医師、助産婦、歯科衛生士、臨床検査技師、衛生検査技師の6職種であり、老人保健事業のための活動時間が最も長い職種は、薬剤師、保健婦(士)、看護婦(士)、准看護婦(士)、理学療法士、作業療法士、診療放射線技師、診療エックス線技師、管理栄養士、栄養士の10職種であった。保健・福祉部門に所属する保健婦(士)数は、人口規模が5千人未満の市区町村では平均2.3人、人口規模が20万人以上の市区町村では平均55.9人であり、全体では平均9.7人であった。保健・福祉部門に所属する保健婦(士)の活動時間の配分割合(%)を算出すると、老人保健事業が最も大きな割合を占めていた。「介護保険専従保健婦(士)」、「介護保険事業およびその他の老人福祉事業専従保健婦(士)」、および「介護保険事業以外の老人福祉事業専従保健婦(士)」のうち、少なくとも一職種を雇用している市区町村の割合は、約62%であった。また、「介護保険専従保健婦(士)」の活動時間のうち、6割以上が要介護状態の認定のための作業に費やされていた。高齢者における施設入所の状況を見ると、平成11年度末に比べ、平成12年9月30日現在の方が、介護老人福祉施設および介護老人保健施設ともに若干入所者数が増加している。平成11年度の高齢者1人当り老人福祉事業費の平均は、125,677円であった。平成12年度の高齢者1人当りの介護保険以外の老人福祉事業予算額の平均は、48,391円であり、高齢者1人当りの介護保険会計予算額と介護保険以外の老人福祉事業予算額の合計は、平均229,121円であった。介護保健業務に従事している職員としては事務職が最も多く、技術職の中では保健婦(士)が最も多い。
介護保険事業の実施が、「母子保健事業」、「老人保健事業」、「介護保険対象以外の老人福祉事業」に与えた影響は、次の通りである。実施した事業の量は、「母子保健事業」および「老人保健事業」では、「増加した」と回答した市区町村と「減少した」と回答した市区町村がほぼ同数であり、「介護保険対象以外の老人福祉事業」では、「減少した」と回答した市区町村に比べ「増加した」と回答した市区町村の方が多かった。事業の質は、いずれの事業でも、「低下した」と回答した市区町村に比べ「向上した」と回答した市区町村の方が多かった。担当常勤職員の実人数は、いずれの事業でも「増加した」と回答した市区町村に比べ「減少した」と回答した市区町村の方が多く、常勤職員の時間外勤務あるいは非常勤職員の就業時間は、いずれの事業においても「減少した」と回答した市区町村に比べ「増加した」と回答した市区町村の方が多かった。常勤職員の担当業務は、「増加した」と回答した市区町村の方が「減少した」と回答した市区町村よりも多かった。このことから、介護保険の導入により、職員の負担は増加したことが示唆された。ただし、これら職員の負担に関する質問に関しては、「変化なし」と回答した市区町村も相当数ある。また、介護保険の導入によって、もっとも影響を受けた事業として、「老人保健事業」あるいは「介護保険対象外の老人福祉事業」を挙げた市区町村が多く、それぞれ全体の約45%を占めていた。介護保険導入以前に市区町村による介護を受けていた高齢者1人当りの介護量の変化として、「やや増加」を挙げた市区町村が全体の半数以上を占めており、「ほぼ変化なし」と回答した市区町村とあわせると約84%となる。また、介護保険導入以前に市区町村による介護を受けていた高齢者に対する介護の質の変化として、「やや向上」および「ほぼ変化なし」を挙げた市区町村が約90%を占めている。介護保険の導入によって、介護を受ける高齢者数が「増加した」と回答した市区町村は約60%であり、「減少した」と回答した市区町村は約4%であった。介護保険の導入による保健と福祉の有機的連携の変化として、「やや向上」もしくは「ほぼ変化なし」を挙げた市区町村が約85%、「やや低下」あるいは「非常に低下」を挙げた市区町村が約10%であった。
Ⅱ.地方自治体が提供する地域保健サービスの事業量と職種別職員数との関係
A.市区町村の人口と保健部門に所属する職員数の関係
各市区町村の人口規模と保健部門の職員数との関係について、平成10年度厚生省「地域保健事業報告」に報告された市区町村データをもとに考察を行う。常勤職員を雇用している市区町村の割合が最も高い職種は保健婦(士)であり、保健婦(士)以外で常勤職員を雇用している市区町村の割合が15%を超える職種は、看護婦(士)、准看護婦(士)、管理栄養士、栄養士の4職種であった。なお、常勤職員を雇用している市区町村の割合は、前記の質問票による調査結果と近似していた。各職種の常勤職員(実人数)と非常勤職員 (常勤職員換算)の平均合計人数は、保健婦(士)が 6.2人で最も多い。また、常勤職員を雇用している市区町村の割合が15%を超える職種について、人口規模別の平均職員数(常勤職員数(実人数)に非常勤職員(常勤職員換算)数を加えた職員数の平均値)を見てみると、人口規模が大きくなるにつれて雇用される職員数も増加している。しかし、人口1万人当たりの職員数で見てみると、いずれの職種においても、人口規模が大きくなるにつれて職員数が減少する傾向が見られた。
B.共分散構造分析による地域保健サービス事業量と職種別職員数との関係
1.目的
地方自治体(市区町村)が提供する地域母子保健サービスのインプットとアウトプットの関係を、厚生省「地域保健事業報告」に報告された各市区町村のデータをもとに分析する。具体的には、地域母子保健サービスに投入されるマンパワーと地域母子保健事業の実施量との関係を共分散構造分析(構造方程式モデリング)を用いて定量的に分析する。
2.使用するデータおよび方法
1) 使用するデータ
平成10年度厚生省「地域保健事業報告」の「市町村の報告表(政令市及び特別区を含む)」によって報告された各市区町村のデータを、目的外使用許可を得て使用する。
2) 統計手法
地域母子保健事業と地域母子歯科保健事業におけるインプットとアウトプットの関係を、共分散構造分析(構造方程式モデリング)を用いて分析する。地域母子保健事業におけるアウトプットとインプットの関係を示す因果モデルを、パスダイアグラム(パス図)を用いて構築し、SPSS社より提供されるAmos ver4.0を用いて解析を行う。なお、母数の推定方法は、最尤推定法(ML法)とする。
3.結果および考察
1) 地域母子保健事業における1歳6か月児健診、3歳児健診、電話による保健指導、未熟児への訪問指導等の事業量の増加が、市区町村の職員に対する負担の増加に特に強い影響を与える。
2) 保健婦および栄養士・管理栄養士の雇用量が、市区町村の母子保健サービスの供給能力に対して特に強い影響を与える。
3) 市区町村における母子保健サービスの供給能力は総じて硬直的であり、保健サービスの事業量によってマンパワーが変動するのではなく、マンパワーによって保健サービスの事業量が規定されるという傾向が見られる。
結論
本調査研究により介護保険実施直前及び直後の全国市区町村の保健・福祉サービスの現状と介護保険導入の状況を概ね把握することができた。今後は介護保険が定着して行くと考えられる平成13年度の状況を、市区町村に対するアンケート調査と地域保健事業報告の目的外使用申請による分析により研究し、本研究の最終報告としたい。

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