DALYによる国民疾病負担の再評価に関する研究

文献情報

文献番号
200000867A
報告書区分
総括
研究課題名
DALYによる国民疾病負担の再評価に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
吉田 勝美(聖マリアンナ医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 池田俊也(慶應義塾大学医学部)
  • 濱島ちさと(聖マリアンナ医科大学)
  • 岡本直幸(神奈川県立がんセンター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国の健康づくり運動として、健康日本21が本年4月より開始される。この運動の特徴は、国民の健康負担をて定量的に把握して、必要な保健サービスを提供することにある。保健事業の第一歩として、対象地区の健康負担の程度を定量的に把握する指標として、DALY(Disability-adjusted life years)が提唱されている。保健サービスを選択するに際しては、一定以上の疾病負担量が存在しているとともに、保健サービスの介入により疾病負担の改善が期待されるかが判断根拠になる。DALYは、Murrayにより提唱されたGlobal burden of diseases(GBD)を評価するための指標であり、損失生存年数(Years of life lost due to premature death)と障害共存年数(Years of life lived with a disability)を併せた複合健康指標である。DALYでは、死亡と障害を一つに指標として表現しているが、対象疾患の障害分類がわが国国内での疾病負担を把握する場合に問題になることが指摘されており、本研究ではわが国の疾病構造を考慮して保健サービスを提供する上で必要とされる障害分類について検討することを目的としている。
研究方法
本年度は、Murrayらにより開発されたDALY(Disability adjested life years)は、国際間での疾病負担を比較評価し、医療資源を配分する指標として有用視されている。しかしながら、DALYを構成する障害生存年については、障害分類による重み付けについて問題視議論されているところである。ことに、我が国のような先進諸国における疾病負担を考える場合には、現在のDALYによる障害分類では問題を表現できないことが指摘されている。
池田班員は、1. SF36を用いたDALY障害度スコアの回帰分析を行った。①身体機能(Physical Functioning, PF)、②日常役割機能(身体)(Role-Physical, RP)、③体の痛み(Bodily Pain, BP)、④全体的健康感(General Health, GH)、⑤活力(Vitality, VT)、⑥社会生活機能(Social Functioning, SF)、⑦日常役割機能(精神)(Role-Emotional, RE)、⑧心の健康(Mental Health, MH)の、8つの下位尺度が算出される。この8つの下位尺度を用いて、EuroQOLのタリフ値やVAS値への変換を回帰分析により試みた。濱島班員は、がん患者を対象としてEuroQOLによる疾病負担算出を試みた。ことに、quality of lifeに関連する年齢、手術時年齢、術後年数、性、Dukes分類、ストマ、同居家族数、学歴、就業、喫煙、飲酒、通院、通院頻度、年収、外出、旅行、性生活、全身症状、術後症状(主として消化器症状)、便通異常、排尿障害による影響を検討した。岡本班員は、地域癌登録の資料を用いてDALYを検証する手法の開発を検討した。神奈川県立がんセンターの院内がん登録を用いて、10年間の初発入院治療がん患者を対象として、重複がん発生の発生頻度を観察人年法を用いて算出した。また、地域保健事業として、基本健康診査に付随してDHQによる食生活調査、パーソナリティ、生活習慣、体脂肪率、骨密度等の調査を実施し、介入による疾病負担の改善を評価する体制を検討した。
結果と考察
DALYの障害分類は、専門家のperson-trade off法によって決定されたものであり、患者サイドのquality of lifeを考慮した指標から演繹することが可能であるか否かを検討した。
がん医療の進展や早期発見技術の開発・向上によってがん患者の生存率の延伸も計られているが、この生存率が上昇することによって、再発や第二、第三のがんに罹患する機会も大きく増大したと考えられる。この再発や重複がんの発生は疾病負担の割合を変化させ、医療資源に影響するものである。在宅乳癌患者に対して追跡調査を行い、生活習慣の相違による疾病負担割合を推測する目的で行った。
SF36からの障害度スコアの算出については、8つの要因からタリフ値に対して55.2%、VAS値に対して43.5%の説明力を得た。quality of lifeに関するデータから、障害度スコア算出の可能性が示された。また、EuroQOLによるがん患者の障害度算出をする場合、DALYにおける障害度を簡便法を用いて評価する際にも一定の治療後の安定した状態では障害度を細分化せずに想定・外挿し予測することも可能であると考えられた。
がん治療の進歩による重複癌患者の疾病負担を評価するため、重複がん罹患の発生頻度を求めたところ、初発がんと同時に診断された場合が人年法で5.5%で多かったが、10年を経過しても1.3%と存在しており、重複がんによる疾病負担評価における長期の観察が必要と考えられた。また、重複癌における障害度スコアの算出については、今後quality of life調査票を用いて検討していくことが望まれた。
生活習慣病に対する保健サービス介入による疾病負担軽減効果を観察するための調査方法を検討したところ、効果出現までの時間を考慮して5年間を検討することが必要と考えられた。
以上の成果より、保健サービスの効果的な提供を図るためには、対象とする集団の疾病負担を適格かつ定量的に把握する必要がある。国際的には、MurrayによるDALYが受け入れられているものの、先進諸国の疾病負担に適しているとは言えない。この点から、本研究はわが国の「健康日本21」の地方計画を立案する際に、適切な疾病負担の定量的な把握ができるよう、DALYの障害分類の適切な設定について検討を行った。
国内での比較に関して、わが国での疾病構造上、悪性新生物の疾病負担を定量的に把握することが望まれる。この点で、本年度は、外来癌患者を対象として、標準的なEuroQol EQ-5Dを用いて部位別癌と術式、術後期間が及ぼすquality of lifeの実態を把握して、わが国の癌患者の実態に即した障害分類を提案することにある。また、在宅癌患者を対象として、日常の生活態度、食品摂取状況、喫煙、運動習慣、エゴグラムを指標として、地域一般住民との比較を行い、疾病負担関連因子を明らかにした。
Murrayによる障害分類は、専門家によるperson-trade off法により決定されているが、一般臨床医の臨床感覚と乖離しており、わが国の疾病負担を把握する上でも新たな障害分類測定法が提案されることが期待される。
保健サービスを提供するためには、対象集団の疾病負担を的確に捉える必要があり、従来DALYの複合健康指標が採用されてきたが、慢性疾患が主体を占めるわが国においては従来の障害分類で疾病負担を定量化することは限界があった。
結論
健康日本21を中心とする保健サービス事業を展開するに際して、対象集団の疾病負担を定量的に把握する必要があり、本研究では専門家による障害度スコアのみでなく、患者のquality of life調査からの評価法について検討を行い、がん患者で安定期にある患者では、SF36やEuroQOLによる推計値算出の可能性が示された。また、がん治療による重複癌の疾病負担を算出するためには発生率の観点から長期の観察が必要であることが示された。
疾病負担の障害度スコアを算出する際には、患者を対象としたquality of life調査により、我が国の保健医療の現状を踏まえた疾病負担を把握することが可能であり、地方計画策定に際して客観性の高い指標を用いて検討できるものと期待される。

公開日・更新日

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