ソーシャルマーケティング理論を応用した、生活者・消費者主体の地域保健事業のあり方に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000853A
報告書区分
総括
研究課題名
ソーシャルマーケティング理論を応用した、生活者・消費者主体の地域保健事業のあり方に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
中原 俊隆(京都大学大学院医学研究科社会医学系専攻社会予防医学講座公衆衛生学分野)
研究分担者(所属機関)
  • なし
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
保健所と市町村を中心とした新しい地域保健の体系を構築していく上での基本理念である「生活者・消費者主体」に関する具体的な方法論として「ソーシャルマーケティング理論」が有用であるが、我が国ではその考え方はほとんど普及していない。本研究は地域保健活動をソーシャルマーケティングの視点から評価し、生活者・消費者主体の地域保健活動の発展・展開の方法論を提供することを目的とした。
研究方法
(1)健康教室の現状を把握しソーシャルマーケティングの手法を用いて解析すべく全国の598の保健所に対して郵送法にてアンケートを行った。アンケートは高血圧教室、骨粗鬆症教室、糖尿病教室、禁煙教室、エイズ教室に対する設問を設定した。(2)若年男性労働者の予防的保健行動と日常生活における店舗・施設の利用状況との関連を明らかにし、ソーシャルマーケティングにおけるPlace(場所)に焦点を当てた健康支援の方策を検討した。対象は、鎌倉市内の某電化製品メーカーに勤務する39歳以下の男性社員とした。対象者500名に対して、平成12年10月23日から11月6日の期間で自記式調査票による調査を行った。調査項目は、現在の予防的保健行動(塩分の多いものを食べ過ぎないようにしている、お酒を飲み過ぎないようにしている、煙草は吸わない等)の実施の有無、過去半年間の店舗・施設(ラーメン屋等の飲食店、パチンコ店等の娯楽施設)の利用の有無、年齢、労働時間、睡眠時間、同居者(妻・子供)の有無等であった。予防的保健行動の実施、店舗・施設の利用の有無については、有りに1点、無しに0点を配点し、予防的保健行動の実施と店舗・施設の利用との間の順位相関係数を算出した。そして予防的保健行動の実施の有無を従属変数、店舗・施設の利用の有無、年齢、労働時間、睡眠時間、妻の有無、子供の有無を説明変数としたロジスティック回帰分析を行った。
結果と考察
(1)424の保健所から回答があった(回収率70.9%)。保健所の内訳は県型保健所が80.0%、中核市・特別区・指定都市の保健所が13.0%で、記載の無かったものが7.1%であった。高血圧の講演会(連続性のない講演会)を開催しているのは県型保健所で6.9%、中核市・特別区・指定都市の保健所で20.4%であった。開催回数は年間、県型保健所で2.3±2.0回、中核市・特別区・指定都市の保健所では6.9±10.0回であった。高血圧の健康教室の開催は県型保健所で5.5%、中核市・特別区・指定都市の保健所で51.0%であり、開催していない保健所で今後の開催予定のある保健所は、県型保健所で1.1%、中核市・特別区・指定都市の保健所で5.9%であった。骨粗鬆症の健康教室の開催は県型保健所で14.0%、中核市・特別区・指定都市の保健所で74.0%であり、開催していない保健所で今後の開催予定のある保健所は、県型保健所で0.8%、中核市・特別区・指定都市の保健所で11.1%であった。糖尿病の健康教室の開催は県型保健所で15.6%、中核市・特別区・指定都市の保健所で83.7%であり、開催していない保健所で今後の開催予定のある保健所は、県型保健所で1.8%、中核市・特別区・指定都市の保健所で14.3%であった。禁煙の健康教室の開催は県型保健所で16.0%、中核市・特別区・指定都市の保健所で88.2%であり、開催していない保健所で今後の開催予定のある保健所は、県型保健所で5.6%、中核市・特別区・指定都市の保健所で11.7%であった。エイズに関する講演会を全く開催していないのは県型保健所で26.6%、中核市・特別区・指定都市の保健所で47.2%であった。一般に対する講演会を開催しているのは県型保健所50.7%、中核市・特別区・指定都市の保健所35.
8%であった。年間の開催回数は、県型保健所で8.6±76.9回、中核市・特別区・指定都市の保健所で7.9±16.0回であった。企業等の要請で行っているのは県型保健所30.8%、中核市・特別区・指定都市の保健所32.1%であった。依頼件数は年あたり県型保健所で3.2±3.5回、中核市・特別区・指定都市の保健所で5.3±11.1回であった。エイズ教室を開催しているのは県型保健所で15.8%、中核市・特別区・指定都市の保健所で8.5%であった。開催回数は1年当たり、県型保健所で2.4±2.6回、中核市・特別区・指定都市の保健所で3.6±2.9回であった。県型保健所が中核市・特別区・指定都市の保健所より健康教室の開催が多いのは禁煙教室であった。開催時刻・曜日は県型保健所と中核市・特別区・指定都市の保健所の間にほとんど差はなかった、しかし、教室で見ると夜間(午後5時以降)にも開催されているのは禁煙教室のみといって良い状態であった。金額的には無料が多かった。広報としては、中核市・特別区・指定都市の保健所では「個別に郵送等」が多く、健診等でのフォローアップの要素が強いが、県型保健所では「市町村の広報誌」が多く、より広範囲の参加者を対象にしていることが伺われた。県型保健所、中核市・特別区・指定都市の保健所ともに今後の健康教室のあり方を模索中であることが伺われた。(2)回答者は462名、回収率は92.4%であった。焼き肉・ホルモン焼き屋、ラーメン屋、ファミリーレストラン、居酒屋、ファーストフード店、パチンコ店、カラオケボックスを利用している者は、属性に関わらず、食、飲酒、喫煙に関する予防的保健行動を実施していない傾向がみられた。焼き肉・ホルモン焼き屋を利用している者は塩分、脂肪、コレステロールの摂取について留意していなかった。居酒屋(チェーン店)を利用している者は塩分、コレステロール、間食の摂取と、適量飲酒について留意していなかった。パチンコ店を利用している者は野菜の摂取について留意しておらず、喫煙をしていた。
結論
(1)保健所における健康教室も現在その開催方法等を検討している段階である。今後、市町村との健康教室の分担等検討していく必要があると考えられた。(2)予防的保健行動を実施していない若年男性就労者が多く集まっている焼き肉・ホルモン焼き屋、ラーメン屋、ファミリーレストラン、居酒屋、ファーストフード店、パチンコ店、カラオケボックスにおいて、健康支援を実施することは有効であるが、それぞれの店舗・施設の利用者の保健行動特性に応じた支援が必要である。

公開日・更新日

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