データベースを用いた高齢者におけるインフルエンザワクチンの効果についての検討(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000814A
報告書区分
総括
研究課題名
データベースを用いた高齢者におけるインフルエンザワクチンの効果についての検討(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
柏木 征三郎(国立病院九州医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 林 純(九州大学医学部附属病院)
  • 鍋島茂樹(九州大学医学部附属病院)
  • 加地正英(久留米大学医学部医療センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
インフルエンザの流行は社会的に大きな影響を及ぼすが、その影響は、高齢者において特に大きい事が知られている。最近のインフルエンザ流行による死亡者は、80%以上が高齢者であると報告されている。現在多くの先進国では、高齢者は、ハイリスクグループとしてワクチン接種が推奨されている。しかしながら、本邦ではインフルエンザワクチンの効果についての理解が少ないためか、ワクチンの接種率は、著しく低下しており、インフルエンザ流行により、大きな社会的損害を蒙る事が懸念されており、特に高齢者が問題になると予測される。高齢者におけるインフルエンザ流行に対応するためのシステムの構築は、厚生行政上重要な課題である。高齢者を対象として、インフルエンザワクチンの効果及び副反応、至適接種方法、医療経済学的な効果について、詳細な検討を行ない、インフルエンザワクチンの効果と安全性についての社会的な理解を得る為に、活用可能な本邦での成績を得る事を目的とした。
研究方法
インフルエンザの流行は、年度によりその規模が大きく異なる。また流行したインフルエンザウイルスの生物学的特性により、感染者における臨床症状が異なる可能性も考えられる。そのために、インフルエンザワクチンの効果の検討には、複数年の観察が必要と考えられる。今回は、研究期間を3年間とし、柏木班では、60才以上の高齢者について、加地班では、脳血管障害やパーキンソン病などの神経疾患を有する高齢者を対象に、多角的検討を行った。また、柏木班では、過去のインフルエンザワクチンの接種成績についての後ろ向き検討も合わせて行った。インフルエンザワクチンの有用性が明らかにされている現状において、前向き研究の際に、対象者をワクチン群とプラセボ群に振り分ける事は、倫理面から問題があると考えられる。今回の研究では、予め準備したワクチン数に達するまでワクチン接種希望者をつのり、ワクチン接種を希望しなかった者及び予め準備したワクチン数に希望者が達した後に、試験に参加可能となった者を、コントロールとする事によって、倫理的な問題を回避した。また、参加者へのインフォームドコンセントを確実なものとするために、参加者本人または家族から文書による同意を条件とした。インフルエンザワクチンの効果については、各個体について過去のワクチン接種歴などの可能なかぎり情報を収集し、ワクチン接種によるHI抗体価の上昇を指標とした、免疫学的効果と、HI抗体価の4倍以上の上昇による罹患状況の観察から得られた予防効果について解析を行った。インフルエンザワクチンの副反応については、前向き研究では、調査項目を設定した調査を、後ろ向き研究では、患者の診療録の記載について調査を行った。医療費削減効果については、流行期間の診療記録並びに診療報酬の記録に関して調査を行ない、各流行期におけるインフルエンザワクチンのコストベネフィトについて検討を行った。さらに、流行期間のみならず非流行期の診療の内容、予後について詳細な調査を行ない、長期的な視点からの検討を行った。
加えて、高齢者のインフルエンザ罹患時の合併症および現行のインフルエンザの問題に関する検討の一環として、高齢者のインフルエンザ罹患時の筋合併症、インフルエンザワクチン低反応群の免疫学的検討を行った。
結果と考察
本研究は、1998年度から2000度までの3年間の期間で行われ、本年度が最終年にあたる。1998年度は、高齢者にインフルエンザワクチンの接種および流行期の観察を行い、研究成績を得るための準備を行った。1999年度は、高齢者におけるインフルエンザワクチンの効果について多角的な検討を行い、データの集積を行った。また、高齢者に再びインフルエンザワクチンの接種と流行期の観察を行い、更なる検討の準備を行った。本年度は、1999年度接種者のデータの解析を、1998年度、1999年度の研究成果を踏まえて、総合的に行った。柏木班では、前向き研究および後ろ向き研究から得られた、1992年から2000年に及ぶ期間のデータに基づき、インフルエンザワクチンの高齢者における免疫学的効果、感染予防効果、医療経済学的効果について検討を行った。
1999年度接種では、高齢者と同時に小児から成人層でのインフルエンザワクチン接種前後のHI抗体価データを収集した。高齢者におけるインフルエンザワクチン接種後のHI抗体価の上昇やHI抗体価40倍以上の割合は、若年者や一般成人と大きな違いはみられず、接種回数1回でも充分な抗体上昇効果が得られることが確認された。1998年度接種者の1999年流行時における臨床データの詳細な解析では、接種回数1回でも、インフルエンザ流行時の発熱患者がワクチン接種者で少ないことより、臨床的にもインフルエンザワクチンの1回接種が高齢者で有用であることが示唆された。医療経済学的な検討では、ワクチン接種者におけるインフルエンザ流行期の抗生剤の使用量および検査の回数が少なくなる等のインフルエンザワクチンの医療費削減効果は、ADLの低下した高齢者ほど大きいことが見いだされた。加地班では、脳血管障害やパーキンソン病などの神経疾患を有する高齢者にインフルエンザワクチンの接種を行ない、その効果および副作用について検討した。加えて、高齢者のインフルエンザ罹患時の筋合併症、インフルエンザワクチン低反応群の免疫学的検討を行った。その成績では、ワクチンの接種回数は1回でも80%以上の有効性を有し、その効果は半年以上持続するものの、翌年に感染防御水準を維持しているものは少なく、毎年の接種が必要と考えられた。インフルエンザワクチンの高齢者での副作用は、出現頻度が一般成人に比し低く、重篤な副反応もは見られなかった事から、神経疾患患者においても、積極的にインフルエンザワクチン接種を行なう事に問題はないことが確認された。さらに、高齢者のインフルエンザ罹患時には筋合併症が頻繁に見られることと、インフルエンザワクチン低反応者における免疫学的異常に関する手がかりが得られた。3年間の研究より、高齢者におけるインフルエンザワクチンの効果について、多くのデータの集積を行うことが出来た。これらのデータの解析において、高齢者に対するインフルエンザワクチンの接種は、血清免疫学的にも臨床的にも有用であり、高齢者では接種回数は1回でも効果があることが確認された。医療経済学的な面からは、ADLの低下した高齢者ほど有用性が高いと考えられた。
結論
1)インフルエンザワクチンは、高齢者においても一般成人と遜色のないHI抗体価上昇が見られる。2)高齢者において、接種回数1回と2回では、接種後のHI抗体価に有意の差は見られず、接種回数1回でも充分な抗体上昇効果が期待される。3)高齢者において、インフルエンザワクチンの1回接種は、2回接種とほぼ同等の感染予防効果と流行期の発熱患者の減少効果がある。4)高齢者に対するインフルエンザワクチンの接種では、重大な副作用は認められない。5)高齢者において、インフルエンザワクチンにより、流行期における抗生剤の使用量および検査の回数が少なくなるなどの医療費削減効果があり、その医療費削減効果は、ADLの低下した高齢者ほど大きい。6)高齢者のインフルエンザ罹患時には筋合併症が頻繁に見られる。

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