シックハウス症候群に関する疫学的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000764A
報告書区分
総括
研究課題名
シックハウス症候群に関する疫学的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
飯倉 洋治(昭和大学医学部小児科)
研究分担者(所属機関)
  • 秋山一男(国立相模原病院臨床研究センター)
  • 勝沼俊雄(国立小児病院アレルギー科)
  • 田村弦(東北大学医学部第一内科)
  • 山本一彦(東京大学医学部アレルギー・リウマチ科)
  • 坪井康次(東邦大学医学部心療内科)
  • 櫻井治彦(中央労働災害防止協会)
  • 吉村健清(産業医科大学産業生態科学研究所臨床疫学)
  • 森本兼曩(大阪大学大学院社会環境医学)
  • 吉良尚平(岡山大学医学部公衆衛生学)
  • 岸玲子(北海道大学医学研究科予防医学講座公衆衛生学)
  • 宮崎豊(愛知県衛生研究所)
  • 長谷川友紀(東邦大学医学部公衆衛生学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
68,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
建築様式が進歩し、機密性の高い家屋が現代の住居となってきた。ところが、この家屋内環境の変化は、隙間風の問題を解消し、一見快適になったが、室内での化学物質の発生、混入に伴う健康被害の訴えが近年増加し、他の身体的疾患との鑑別面でも問題になってきた。このような家屋内の環境問題と健康の関係に関しての名称も微妙に異なるが、今回はシックハウス症候群と呼び、この範疇に入る患者さんが全国的にどのくらい存在するのかの疫学調査研究を行うことが最終目的である。しかし、シックハウス症候群の概念にまだ幾つかの論争点が存在することから、①比較的新しい名称である「シックハウス症候群」のとらえ方、②家屋内環境汚染化学物質の評価方法の検討、客観的指標の検討、③試験的調査用紙の作成と、実際の調査結果の検討、④個々の施設での本研究班事業に役立つ個別研究等を行った。
研究方法
今年度の研究に関しては大きく二つに分けて研究を行った。一つは班員全員でのシックハウス症候群に関する疫学的研究であり、もう一つは基礎研究による化学物質測定の簡便化及び精度化等に関する基礎研究を実施した。①疫学調査研究:疫学調査研究の調査用紙の作成に関して小委員会を設け、頻回検討会を行い、簡便な調査用紙と、明らかにシックハウス症候群とみなされた症例の詳しい調査用紙の、二系統を作成し、検討を行った。その検討方法は幾つかの異なる対応で検討した。一つの調査方法は、統一アンケート用紙を各研究者の地域を中心とした疫学調査、もう一方は事務労働者に対する室内勤務者の実態調査、大学内研究者の実態調査、また、特殊金属会社に勤務する社員の実態調査を行った。さらに、実際シックハウス症候群と考えられる被検者調査対象者を対象に、詳細なアンケート調査を行い、実態を把握する二次疫学調査に相当する調査を行った。②基礎研究に関して:化学物質の測定の精度改良は基礎部門の研究者が行った。また、患者さんからの血液が採取できた施設ではその施設の特性を活かしての基礎研究を実施。環境の実態調査の基礎研究として、一部の研究者はシックハウス症候群患者の自宅を訪問し、化学物質の測定と空気清浄器の運転の前後での室内環境変化を検討した。シックハウス症候群の鑑別診断に精神的な疾患との鑑別が重要である。そこで、心療内科グループはこの点の研究を実施した。
結果と考察
①調査用紙の作成に関して:調査用紙作成小委員会を設け、四回調査用紙を試作し、パイロットスタディーを行い、第四版の調査用紙を今回の調査に用いた。回答が得られ易い質問項目、質問用紙サイズ等を検討した結果、A4サイズの紙で調査を行った。また、シックハウス症候群とみなされる患者の調査用紙は別に作成し、詳しい検討事項を盛り込んだものを作成した。アンケート用紙の配布から回収までの期間が短かかったこともあり、回収率が高く、最も回収率が低い調査地点でも81%であった。②疫学面の結果に関して:今回の疫学調査は多くの施設が、一般診療外来、病院関係者、開業の患者さん等に10日間(平成13年3月1日~3月10日)の期間で調査を行った。解析は家庭の改築、新築と職場・学
校の新築、改築に分けて検討した。実際各施設の特徴的項目と、今後の検討事項に関する問題点を検討した結果、年齢を問わず、女性に多く、小児から成人まで幅広く症状を訴えていた。次に、自宅の改築・新築で体の不調、粘膜症状があると答えた者は、63%、58.8%、47%、等と、少ない調査結果でも47%台で、新築・改築により健康障害と考えられる訴えを起している者が非常多いことが判明した。次に症状惹起の原因調査に関してであるが、壁、床、建材等の新築・改築に非常に関係が深い事項より、訴えが多かった項目は「エアコン」で、二番目が新建材、ペットが三番目にランクされ、ファンヒーター、塗料、防虫剤と続き、家庭内環境での色々な問題と健康との結び付けは非常に検討する事項が多いことが判明した。アレルギー疾患の有無の区別では、アレルギー疾患があると答えた率は63%、72%で、アレルギー疾患を有する人が多かった。改築後の症状は順に目、鼻、皮膚、気道、咽喉、不定愁訴の順で、これらの症状が非常に頻度が多く、次は消化器症状,筋肉・関節症状であったが、これらの頻度は比較的少なかった。職場・学校の改築、新築と臨床症状の訴えの検討では、女性:男子=53%:47%で、環境が異なる場でも女性がより多く、シックハウス症状群様症状を訴えていた。アレルギー疾患の有無で比較すると、あり:なし=55%:45%で、アレルギー疾患保有者群で訴えが多かった。原因物質の検討では、塗料、建材より多く訴えのあった項目は「エアコン」でった。特殊金属会社での調査結果でも女性47.2%、男子37.2%で、有意差はないが女子に多く、訴えた項目数に関しては女子が有意に男子より多かった(p<0.001)。研究室での調査結果は、訴えのあった者が46.3%で、そのうちのアレルギー症状を起こしやすい者が75%と、アレルギー疾患患者は多くの部署で問題が起き易い状態であると推察される。また、ある政令都市職員の無作為抽出3,000人の調査結果では、精神神経症状17%、眼の症状7%、鼻症状9%、咽喉の痛み12%、皮膚症状11%で、受動喫煙4時間を越える者が4割であった。このことは、職場では、環境汚染物質に喫煙の問題も重要な要素であるといえる結果であった。このような結果を総合すると、シックハウス症候群は「家庭内の各種物質による健康被害」と仮に定義しても、必ずしも改築・新築に限らぬ背景での健康被害を検討する必要がある結果であった。③基礎研究結果に関して:シックハウス症候群の原因と推定される化学物質の精巧測定方法に関しては、9種類が検討され(ベンゼン、トルエン、o,m,p-キシレン、エチルベンゼン、スチレン、p-ジクロロベンゼン、ナフタレン)、豚に投与しての回収率は97.3%~100%であった。これらの物質検査の方法を色々検討した結果、最も最適な測定法は、安定同位体内部標準法を用いるGC/MS測定法を組み合わせた、HS- GC/MS法であることが判った。基礎研究の中で、実際に症状を訴えた家庭のホルムアルデヒド濃度を測定した結果、平均0.13ppmで、必ずしも新築直後でない家屋がかなりあった。札幌での調査での環境調査結果の検討で、15軒中13軒が住宅の換気不足(本来は強で運転すべき換気システムを弱で運転するなど)が、指摘された。また、ホルムアルデヒドはシックハウス症候群の時に問題になる一般的な物質である。そこで、基礎研究として、ヘパリン採血の末梢血にホルムアルデヒドを添加し、血流速度を比較したところ、健康な人ではホルムアルデヒドの影響を強く受けるが、シックハウス症候群と考えられる人の多くは、ホルムアルデヒドを添加しても血流時間に影響は見られなかった。このことは、頻回にホルムアルデヒドの影響を受けていると人では、反応が鈍くなるためとも考えられ、今後の研究に一つの検討事項として注目すべき検査といえる。
結論
今回はシックハウス症候群の疫学を調査する目的で研究を開始したが、色々な文献での疾患定義がはっきりしていない面があり、従来の調査で指摘されてきた「新築・改築」に着目し、これらの内容を中心にアンケート調査用紙を作成し調査した。その結果、シックハウス症候群様症状は、改築5年以上でも
症状を訴える人がいること、また必ずしも新築・改築でなくても家の中で健康に悪影響を及ぼす要因が存在することが判明した。今後はシックハウス症候群は「家庭に於ける各種背景因子による健康被害」と認識し、調査用紙を再度作成し直し、より多くの人数での検討を行なっていくが、解析の段階で基礎疾患を有する群と否とで区別するといった検討も必要である。また、客観的指標の確立に向けた検討を進めることも重要であり、今後はこのような基礎研究を平行して実施していく。

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