侵入動物及び侵入ベクターのサーベイランスシステム構築に関する研究

文献情報

文献番号
200000756A
報告書区分
総括
研究課題名
侵入動物及び侵入ベクターのサーベイランスシステム構築に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
内田 幸憲(神戸検疫所)
研究分担者(所属機関)
  • 倉根一郎(国立感染症研究所)
  • 鈴木荘介(名古屋検疫所)
  • 高橋央(国立感染症研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
今年度も世界各地で人獣共通感染症の脅威が報告された。アメリカ合衆国では1999年からの西ナイル脳炎が定着し疾病コントロールにもかかわらずニューヨーク州から周辺の4州に患者発生が拡大し、感染蚊及びセンチネルバード(見張り鳥)の西ナイル脳炎感染の拡大も確認されている。また、台湾では腎症候出血熱(ネズミ族由来)による患者死亡例がハンタ肺ウイルス症候群として報道され市民はパニック寸前の状況となった。
(EU諸国では、恐牛病、口蹄疫、でその経済損失は計り知れない状況となっている。)我が国においては1999年4月より感染症法が新たに施行されているが侵入動物・侵入ベクターの確認方法や病原体保有状況の検査システムは確立されていない。昨年度の研究成果をふまえ、侵入動物の代表ともいえる全国港湾地域で捕獲したネズミ族の遺伝学的検討、今後強く懸念されるデング熱ウイルス・感染蚊の侵入に対する検査方法・調査システムの実践的応用(侵入ベクター対策)およびクリミア・コンゴ出血熱(CCHF)の検査法の確定を主目的に2年目の研究活動を行った。また、世界各国における人獣共通サーベイランスシステムのアンケート調査にもとづき各国政府に直接聞き取る調査等を行い最終年度に行う予定の我が国におけるサーベイランスシステム提言の基礎資料とすることを目的とした。
研究方法
侵入動物サーベイランスのために、検疫法で定められた全国主要港の政令区域内で捕獲したネズミ族の遺伝学的検査(染色体数:ミトコンドリアDNA検査)を用いて対象地域を拡大して検討を行った。侵入ベクターサーベイランスのためには、その代表モデルとなるデング熱感染蚊の採取方法及び感染蚊の確認検査法のあり方を昨年のone stepRT-PCR法を用いて実践応用に向けた検討を行った。マダニを媒介ベクターとするCCHFウイルスの同定検査方法は昨年の基礎検討をもとに動物血清においてその精度、感度について検討した。世界各国における人獣共通サーベイランスシステムの検討は侵入ベクターサーベイランスを行っているシンガポール、ニュージーランド、ドイツの各国政府担当者に直接聞き取り調査を行うとともに、韓国マラリアのコントロール状況についても現地調査を行った。
結果と考察
ネズミ族の遺伝学的検討において、今年度も新たに大阪港、名古屋港、神戸港志布志港の4港において外来性(侵入)ハツカネズミが確認された。昨年、小樽港において侵入・定着が確認されたクマネズミ(染色体38本)はオセアニア系クマネズミであるが、その分布は広く、今年度の検討からは極東ロシア地区からのものと判定してよいかと思われた。2年間の調査で全国の主要港の状況が整理できたが、6港において外来性ハツカネズミの侵入・定着が、1港において極東ロシアからクマネズミの侵入・定着が確認された。外部形態だけでは外来性(侵入)ネズミの判定が困難なこともあるが、多少でも異常があるネズミに関しては遺伝学的検査を是非とも行うべきと思われた。そしてこれらの侵入ネズミ族に関しては、その生息地域で問題となっている感染症情報をもとに、病原体保有の有無についても十分検討を行う必要があると思われた。来年度のテーマとしたい。また、東京都内で多数捕獲されている胸部に大きな白斑をもつドブネズミは日本古来の生息種であることが遺伝学的検査で確認された。胸部白斑は近親交配による特然変異的なものと思われた。侵入ベクターの検討は蚊族を中心に行った。空港、海港におけるコンテナ調査では、昨年同様病原体媒介ベクターの採取効率は悪く、むしろ食品害虫が多く採取された。個別のコンテナ調査は平時においては調査効率が悪く、とくに飛翔能力のある蚊族の採取は不可能に近いと思われた。むしろコンテナヤード周辺の環境状況をよく検討して周辺調査が大切かと思われる。ただし、コンテナ積み込み地におけるベクター媒介感染症の流行多発時にはコンテナ消毒などの個別対応が必要であろう。港湾地域での蚊族採取にはライトトラップの設定時間、設定場所、トラップの形式(ドライアイスの使用等)など目標とすべき蚊族の特性を十分理解したうえで、定点ポイントをしっかり定めて行うことが重要であることが再確認された。オビトラップ法についてもその有用性が確認された。また、感染蚊検査において生存したままの蚊の採取が必要であれば研究班で考案した炭酸ガス粘着トラップも有効であろうと思われた。感染蚊のウイルス検査同定法については異種の蚊族が混入していても1匹の感染蚊に対して100匹一緒に検査を行っても検出が可能なこと、採取された後すみやかに-80℃で凍結すれば10日間室温放置しても
ウイルス検出が可能なこと、デング熱ウイルス検出以外でもフラビウイルス属であればone step RT-PCR法で同定が可能なことを確認した。今後は、ライトトラップ内で自然死した感染蚊からの同定の可否、他の昆虫混在(蛾のりん粉等)の影響についても検討を進め、確実な実践応用に供するシステムを確立し検疫業務で活用する予定である。また、ネッタイシマ蚊、ヒトスジシマ蚊の発生地域判別のPCR法での判定は、可能かと思われる結果が得られた。CCHFウイルス抗体検査法について、昨年は人血清について、今年は中国5地域のヒツジ血清について検討した。ヒツジ血清については検出感度は80%とやや低下したが、精度は100%と十分高く、ヒツジ血清における疫学的研究に有用であると思われた。感染マダニからのCCHFウイルス同定も可能かと思われるが、陽性コントロールとなる感染マダニの入手は困難であり、かつP4施設が使用できないため、研究の目途は立たない。諸外国のベクターサーベイランスシステムについては直接聞き取り調査により以下の結果が得られた。ニュージーランド、シンガポール、ドイツ、韓国の4ヶ国は地理的状況、社会構造、産業形態、政治システムの相違によってシステムの構築がなされていた。共通点として、1)新興再興感染症のサーベイランスが特に強化され公衆衛生上必要な侵入動物・ベクター感染症につき国レベル、地域共同体レベルで強化されつつあった。2)関係機関の業務を連絡調整する機構が設置され、より実効的なサーベイランスと対応策の実施が目ざされていた。
今後は、日本に必要とされる侵入動物・ベクターのサーベイランスシステムの内容と形態を検討し、あわせて既存のサーベイランスを評価していく作業が必要と思われた。
結論
①遺伝的検討において小樽港、横浜港、名古屋港、大阪港、神戸港、志布志港、那覇港において外来性ネズミ族の侵入または定着を確認した。東京都下の形態異常のドブネズミは突然変異によるものと判断された。侵入動物(ネズミ族)の遺伝学的検査の有用性が確認され、今後、病原体保有状況の検査も必要であると思われた。②侵入ベクター対策として蚊の採取方法、感染蚊の検査方法及び感染蚊の遺伝学的検査方法がほぼ確立され、次年度の実践的検討の基盤が確立された。③CCHFウイルス抗体検出方法は、動物(ヒツジ)においても有用であることが証明されたがその媒介体であるマダニの検査法については陽性コントロール入手が困難であり、検討は困難のように思われた。④諸外国のベクターサーベイランスシステムの直接聞き取り調査から、各国ではその国の状況に応じてサーベイランスシステムの強化が計られ関係機関の業務を連絡調整する機構が設置されていた。
以上のことを参考にして我が国に必要なサーベイランスシステムの構築と具体的実践計画を最終年度に報告する予定である。

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