内分泌かく乱化学物質の水道水中の挙動と対策等に関する研究

文献情報

文献番号
200000748A
報告書区分
総括
研究課題名
内分泌かく乱化学物質の水道水中の挙動と対策等に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
国包 章一(国立公衆衛生院)
研究分担者(所属機関)
  • 相澤貴子(国立公衆衛生院)
  • 安藤正典(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 伊藤禎彦(京都大学)
  • 金垣康雄((財)水道技術研究センター)
  • 亀井 翼(北海道大学)
  • 髙木博夫(国立環境研究所)
  • 西村哲治(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 米沢龍夫((社)日本水道協会)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
40,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
内分泌かく乱作用の疑いのある化学物質の中で、水道原水や水道水中に比較的高い頻度で検出されるものとしては、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、フタル酸ジ-n-ブチル、ビスフェノールA及びノニルフェノールの4物質と農薬類がある。本研究では、これらの化学物質を対象に、以下のようなことを目的として実施するものである。1)これらの物質の浄水処理過程における挙動を明らかにするとともに、その除去及び制御技術につき検討する。2)これらの物質の水道管等水道用資機材からの溶出特性を明らかにするとともに、その防止対策につき検討する。3)水道原水や水道水の内分泌かく乱作用の評価手法を確立するとともに、その適用可能性を明らかにする。
研究方法
浄水処理過程における挙動及び除去対策に関して、1)東京都水道局玉川浄水場及び大阪市水道局柴島浄水場の実験プラントを用いて昨年度と同様な浄水処理実験を行い、各処理工程ごとの試料水を採取して、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、フタル酸ジ-n-ブチル、ノニルフェノール及びビスフェノールAの濃度を測定した。これらの実験は、玉川浄水場では平成12年11月の1回だけ、柴島浄水場では平成12年11月と同13年1月の2回の都合3回行った。2)農薬の使用実態とその水道水源等における検出状況に関して、環境省(旧環境庁)SPEED98に登載されている農薬のうち登録農薬20種を取り上げ、1992-2000年度の全国出荷量データを整理してその経年変化につき検討した。また、水道水源等の汚染状況に関する最近のいくつかの調査結果に基づき、上記の各農薬の検出状況につき整理した。水道用資機材からの溶出特性及び溶出防止対策に関して、配水管7種14品目からのフタル酸ジ-2-エチルヘキシル、フタル酸ジ-n-ブチル、ノニルフェノール及びビスフェノールA溶出量の経時変化を調べるための実験を昨年度に開始し、本年度もこの実験を継続して実施した。2年度目に当たる本年度は、通水開始後6ヶ月間を経過した平成12年8月、及び、同1年間を経過した13年2月の2回にわたって溶出試験を行った。水道水等の内分泌かく乱作用の評価に関して、1)東京都水道局玉川浄水場及び大阪市水道局柴島浄水場の実験プラントにおいて、浄水処理実験を行った際の各浄水処理過程におけるエストロゲン様活性の変化につき、蛍光偏光度法を用いて検討した。2)酵母Two-Hybrid法による水道水等のエストロゲン様活性の評価に関して、S9mix添加による代謝活性化の効果等につき検討するとともに、塩素処理によるエストロゲン様活性の変化につき酵母Two-Hybrid法を用いて検討した。3)遺伝子導入ヒト乳がん由来細胞を用いたMVLNアッセイ法によるエストロゲン様活性の評価に関して、適切な試料前処理・濃縮方法につき検討するとともに、フミン酸溶液の塩素処理によるクロロフェノールの生成特性につき検討した。4)東京都水道局玉川浄水場及び大阪市水道局柴島浄水場の実験プラントにおいて、浄水処理実験を行った際の各浄水処理過程におけるビスフェノールA塩素処理副生成物の濃度変化、並びに、蛍光偏光度法によるビスフェノールA塩素処理副生成物のエストロゲン様活性についても検討した。また、ノニルフェノールの塩素処理副生成物について、化学分析法及び分子軌道法により検討した。
結果と考察
浄水処理過程における挙動及び除去対策に関して、1) 2つの浄水場の実験プラントを用いた4物質の添加実験等の結果、前塩素処理-凝集沈澱-砂ろ過による通
常処理においては、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、ノニルフェノール及びビスフェノールAの3物質はいずれもほぼ100%除去されたが、フタル酸ジ-n-ブチルだけは全く除去されないことがわかった。また、凝集沈澱-砂ろ過-オゾン処理-生物活性炭処理-砂ろ過、及び、中オゾン処理-砂ろ過-後オゾン処理-生物活性炭処理による高度浄水処理においては、これらの4物質がほぼ100%除去されることがわかった。単位処理プロセスごとの除去性能を見てみると、フタル酸ジ-2-エチルヘキシルは凝集沈澱、砂ろ過及び生物活性炭処理で、フタル酸ジ-n-ブチルは砂ろ過(前塩素処理なしの場合に限る)及び生物活性炭処理で、ノニルフェノールとビスフェノールAは前塩素処理、砂ろ過及びオゾン処理で、それぞれ良く除去されることがわかった。以上のような本年度の実験結果は、昨年度の実験結果とほぼ同様であった。2)内分泌かく乱作用の疑いのある登録農薬20種の全国出荷量につき整理したところ、1992-1999年度の年間出荷量の最大値に対する2000年度の出荷量は、6農薬が20-40%、7農薬が50-60%、4農薬が70%台に減少していることがわかった。また、水道水源等の汚染状況に関する最近のいくつかの調査において、これらの農薬の内で検出頻度が高いのは、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)、カルバリル(NAC)、シマジン(CAT)、ベノミル及びメソミルの5農薬であり、ケルセン、ジネブ、シペメトリン、フェンバレレート、ペルメトリン、マンゼブ、マンネブ及びメトリブジンの8農薬は全く検出されていなかった。水道用資機材からの溶出特性及び溶出防止対策に関して、昨年度に引き続き、配水管7種14品目からのフタル酸類等4物質の溶出量の経時変化を調べた結果、フタル酸ジ-n-ブチル、ノニルフェノール及びビスフェノールAの溶出が認められた管が6ヶ月後にはそれぞれ1種1品目ずつあったが、1年後にはいずれの管でもこれらの溶出が認められなくなった。また、フタル酸ジ-2-エチルヘキシルについては、6ヶ月後及び1年後のいずれの場合も、全ての管でこれらの溶出が認められなかった。水道水等の内分泌かく乱作用の評価に関して、1)2つの浄水場の実験プラントでの浄水処理過程におけるエストロゲン様活性の変化につき、蛍光偏光度法により評価した結果、昨年度と同様に、オゾン処理及び生物活性炭処理による活性の減少が顕著に認められた。2)水道水等の酵母Two-Hybrid法によるエストロゲン様活性の評価においては、そのままではエストロゲン様活性が認められなくても、S9mixを添加して代謝活性化を行えばエストロゲン様活性が認められる場合があること、塩素処理によって17β-エストラジオール、ビスフェノールA及びノニルフェノールはその化学形態が変化するため、エストロゲン様活性を示さなくなること等を明らかにした。3)MVLNアッセイ法による水道原水のエストロゲン様活性の評価においては、試料水のpHを2に調整して吸着樹脂OASIS-HLBに通水し、ジクロロメタンで溶出した後、エタノールに再溶解する方法が適当であることを明らかにした。また、フミン酸の塩素処理によって生成するクロロフェノールは、時間経過に伴ってその化学形態が変化することを明らかにした。4) 浄水場の実験プラントを用いて行った浄水処理実験のうち、平成11年11月の東京都水道局玉川浄水場における通常処理系凝集沈澱水から、2,2'6,6'-テトラクロロビスフェノールA等4物質をいずれも低濃度で検出したが、その後の砂ろ過水ではこれらの4物質は全く検出されなかった。また、ビスフェノールAの塩素処理副生成物である2-クロロビスフェノールA、2,2'-ジクロロビスフェノールA、2,2',6-トリクロロビスフェノールA及び2,2'6,6'-テトラクロロビスフェノールAは、蛍光偏光度法によるエストロゲン様活性がビスフェノールAよりも高いことを明らかにした。このほか、ノニルフェノールの塩素処理によって、モノクロロノニルフェノール、ジクロロノニルフェノール、トリクロロノニルフェノール等が生成されることを確認した。
結論
内分泌かく乱作用の疑いのある化学物質のうちフタル酸ジ-2-エチルヘキシル、フタル酸
ジ-n-ブチル、ビスフェノールA及びノニルフェノールの4物質と農薬類を主に取り上げ、その水道水中における挙動と対策等に関する研究を昨年度に引き続いて実施した。浄水処理実験プラントを用いた標準物質添加実験等により、フタル酸類等の4物質が通常の浄水処理及び高度浄水処理のいずれによってもよく除去されることを確認した。凝集沈澱、砂ろ過、オゾン処理、生物活性炭処理等、個々の単位処理プロセスによるこれらの除去性能についてもほぼ明らかにすることができた。また、内分泌かく乱作用の疑いのある農薬20種につき、過去約10年間にわたる出荷量と水道水源等での検出状況を整理した。水道用配水管7種14品目からのフタル酸類等4物質の溶出量につき昨年度に引き続いて調査し、通水開始後1年間を経過した時点では、いずれの管からもこれらの4物質が溶出しなることを確認した。水道水等の内分泌かく乱作用の評価に関しては、蛍光偏光度法、 酵母Two-Hybrid法及びMVLNアッセイ法につき基礎的検討を引き続いて行うとともに、ビスフェノールA等、エストロゲン様作用の疑いのある化学物質を塩素処理することによって、その化学形態とともにエストロゲン様活性も変化することを明らかにした。以上のような本年度までの研究結果から、水道水中のフタル酸ジ-2-エチルヘキシル、フタル酸ジ-n-ブチル、ビスフェノールA及びノニルフェノールに関しては、仮に原水がこれらによって汚染されていても浄水処理によって良く除去され、また使い初めの水道管からこれらの溶出が認められる場合でも、ある程度の時間が経過すれば溶出が認められなくなることなどから、これらによる水道水の汚染が特に重大な問題となることはないと考えられる。しかしながら、ビスフェノールA、ノニルフェノール等に関しては、塩素処理に伴ってエストロゲン様活性を示す新たな化合物が生成されることから、この点については今後さらに詳しく検討する必要がある。

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