ダイオキシンの健康影響と規制手法に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000727A
報告書区分
総括
研究課題名
ダイオキシンの健康影響と規制手法に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
中西 準子(横浜国立大学)
研究分担者(所属機関)
  • 中井里史(横浜国立大学)
  • 西垣隆一郎(東邦大学)
  • 林邦彦(群馬大学)
  • 松尾昌季((株)住友化学中央研究所&大阪大学)
  • 吉田喜久雄(資源環境技術総合研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
35,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ダイオキシンは、ほとんどすべての食品に含まれていることからわかるように、どこにでも存在しうる汚染物質であることから、いつ爆発するか分からぬようなあやうい問題になっている。ダイオキシンのリスクの大きさをできるだけ正確に評価し、それに基づいて規制などの措置をとることが重要となってくる。しかしダイオキシンの毒性研究は多いが、社会的にどうすればいいかという研究は少ない。ダイオキシンは、現在のバックグラウンドレベルでの曝露でもリスクがあるとされているので、リスク評価を行うためには通常の化合物以上に正確な、人体内動態についての情報が必要となる。特に、ダイオキシン類は同族体の数が多く、それらの動態が大きく異なることから、同族体を区別して、動態解析をすることが必要となる。本研究は、このような観点からダイオキシンの人体内動態を同族体別に明らかにし、得られた結果等をリスク評価までつなげて健康影響をできるだけ正確に評価することで、ダイオキシン規制をより合理的なものにすることを目的とする。
研究方法
以下の(1)~(3)の3班に分かれて研究を行った。また(1)のPBPKグループについてはさらに3つのサブグループに分かれて研究を行った。まず昨年度構築した経口曝露によるPBPKモデルを基に、吸入曝露による17同族体のPBPKモデルについて、10コンパートメントからなるモデルを作成し、平成10年度環境庁ダイオキシン類緊急全国一斉調査による大気中濃度などを用いてパラメータの設定をおこなった。ラット母体から胎児への移行に関するPBPKモデルに関しては、Andersenらの開発した血流を律速としたperfusion limitedモデルを採用し、検討した。必要な生理学的パラメータおよびTCDD負荷後の体内濃度値時間推移は、Medlineにより検索した。肝臓分画化モデルに関しては、昨年収集したTCDDのPBPKモデルに関する文献の中から関連する文献を抽出し、検討することとした。(2)疫学研究は、魚食を中心とした食物摂取及び職業曝露(農薬曝露)による曝露影響評価を調べる地域住民を対象とした血液中ダイオキシン濃度調査と、リプロダクティブヘルスの観点から、女性を対象として、血液および母乳中濃度測定を実施している。本年度は、これらの濃度分析結果を、食事や生活習慣を調べた調査票データも加味して検討するとともに、これらの調査に基づく新たな調査を計画、実施した。(3)ダイオキシン類のリスク評価を行う際は、体内負荷量を基準にしてリスク評価を行うことが多い。体内負荷量は、ダイオキシン類の摂取量(経時変化等を考慮)と半減期(体外への排出による体内濃度の半減期、以下排出半減期と呼ぶ)をもとに推定することになる。しかしTCDDを除き、Co-PCBを含む多くの異性体の半減期に関する報告は多くないのが現状である。そこで、異性体ごとに排出半減期をコンパートメントモデルを用いて推定することとした。モデルでは、対象者の性や年齢による代謝能力の差を表現し、かつ計算の過程で代謝能力などが変動する非定常モデルを構築した。
結果と考察
ヒトについての吸入曝露によるPBPKモデルであるが、吸入曝露に起因する体内濃度は食物摂取に比べてかなり低く、2~26%程度であることが推定された。経皮吸収に関しても検討する必要があるが、モデルにさらに改良を加えることで、より現実的なダイオキシン類異性体の人体内動態を推定できるようになると考えられる。ラット母体から胎児への移行モデルに関しては、受精後15日(GD15)にTCDDを経口投与した場合の、GD16(投与24時間後)、GD21(6日(144
時間)後)を中心にした濃度推移をシミュレーションした。肝臓中、脂肪中濃度については、実測値との差は50%程度で、ラフな数値を代入した例としては比較的よく一致していた。肝臓分画化モデルの検討に関しては、現在文献トレース中で、検討中である。今後は、検討結果に基づき、ヒトでの血液中濃度データ、環境中濃度等の実データを用いてモデルの検討を行い、新たなモデル構築を試みることとしている。地域住民(新潟県の一市で50歳代の男性を対象として実施)を対象とした血液中濃度分析結果であるが、血液中ダイオキシン類濃度は、漁業従事者>対照群>農業従事者であった。さらにCo-PCBによる差が顕著であり、魚食の影響が考えられた。農薬散布の影響は認められなかった。しかし、同一地域集団であるにもかかわらず、個々人間では濃度差が認められていた。そのため、これらの結果に基づき、体内動態研究やリスク評価への応用を考慮し、ダイオキシン類の体内動態や発がんメカニズムに関与していると考えられている薬物代謝酵素P450(CYP1A1)の遺伝子多型を調べることとした。現在調査・分析が進行中である。女性を対象とした血液および母乳調査であるが、現段階では2名の、しかも一時点での分析が終了しているのみであるが、いずれも血液中濃度よりも母乳中濃度の方が高い値を示していた。授乳中の女性におけるダイオキシン類体内動態の基礎資料とするために、出産後の血液中および母乳中濃度の経時変化を検討していく。排出半減期に関しては、2,3,7,8-TCDDで半減期は6.0年(5.5年-7.0年)、PCDD/Fsで最も半減期の長いもので11年(1,2,3,6,7,8-PCDD)と推計された。報告値が少ないCo-PCBについてはnon-ortho体では半減期が非常に短く、最も短いもので#77の0.5年長いものでも#126の4.5年であった。mono-orthoも含めた全てのCo-PCBでは0.5年~17.5年の間であった。推計した半減期および構築した動態モデルは、半減期の推定の際とは異なる対象集団についてシミュレーションを行うことでその信頼性を検証した。このシミュレーションの結果、モデルで計算した予測値と実測値はよく一致しており、結果はある程度信頼できるものと考えられる。
結論
各研究分担分野に関して、一定の成果を得ることができたと考えるが、まだ個々の研究間の連携ができているとは言い難い状況にある。最終年度である次年度では、これらのいわば断片的な研究結果をよりよく統合していくとともに、できるだけ多くの現実データを収集し、現実に即したリスク評価手法を提案していく予定である。

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