食品残留農薬検査の超迅速化に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000713A
報告書区分
総括
研究課題名
食品残留農薬検査の超迅速化に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
佐々木 久美子(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 外海泰秀(国立医薬品食品衛生研究所・大阪支所)
  • 永山敏廣(東京都立衛生研究所)
  • 中澤裕之(星薬科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
14,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
食品衛生法では2001年3月現在214農薬に対して農作物中の残留農薬基準が設定されており、食の安全性確保に貢献している。これらの農薬を試験するために110通りの試験法が告示されている。しかし、多数の農薬を告示試験法で検査するには多大な労力と時間を要するため、特に行政検査において一斉分析法や簡易スクリーニング試験法の開発が切望されている。本研究では食品中残留農薬検査の迅速化を目的として次の分担研究、4課題を実施した。(1)超臨界流体抽出(SFE)、GC/MSによる一斉分析法、(2)SFE、LC/MSによる一斉分析法、(3)LC/MSによる定性及び定量、(4)酵素免疫測定法(ELISA)。
研究方法
(1)「SFE、GC/MSによる一斉分析法」では、水分の多い野菜を対象に、アセフェートなどの高極性農薬を含む159農薬のSFEのための試料調製法を検討した。さらにSFE条件を最適化し、添加回収試験を行った。
(2)「SFE、LC/MSによる一斉分析法 」では、農薬に対するLC/MSの適用性、定量性を検討し、18農薬、6作物について、SFEによる抽出、ミニカラムによる精製及びLC/MSによる一斉分析法を検討した。同一検体についてGC/MSでの測定を行い、LC/MSとの優劣を比較した。
(3)「LC/MSによる残留農薬試験法」では、N-メチルカルバメート系14農薬を含むスルホニルウレア系農薬など計27農薬について、LC/MSにより一斉に検出する方法を検討し、3作物に対する添加回収実験を行った。
(4)「農薬イムノアッセイと機器分析の比較評価」では、①ペルメトリンハプテンに種々のタンパク質を結合させた抗原をウサギに免疫して得たポリクロナール抗体を用いて8種類のコーティング抗原をスクリーニングし、アッセイ系を最適化した。他の合成ピレスロイドの交差反応性を調べた。②イマザリルに対するモノクローナル抗体を用いてイムノアフィニティークリンナップカラムを作製した。カラムの性能評価、イマザリルの溶出挙動、精製効果を調べ、柑橘への添加回収試験を行った。③ダイアジノン、アルジカルブ及びクロルピリホス測定用の市販ELISAキットの有用性を共同比較試験で評価した。
結果と考察
(1)果実、野菜中の残留農薬のSFEによる多成分分析法について、159農薬を用いて検討した結果、アセフェートやメタミドフォスなどの高極性農薬の抽出には、試料調製時にNa2HPO4 / NaH2PO4 (7:1)混合物を乾燥剤として用いる方法が有効であることを見いだした。また、試料とセライトと乾燥剤を2:2.4:1.5の割合で混合することにより良好な結果が得られた。更に、アセトンをモディファイヤーに用いることにより、乾燥剤の添加により回収率の低下する低極性農薬の回収率の改善を図ることができた。確立した方法で得られたSFE抽出液は、有機溶媒抽出法に比較して夾雑物が少なくクリーンアップ操作なしでGC/MSで定量することができ、また、試験溶液の調製時間も1検体当たり1時間程度で、有機溶媒抽出法より操作が大幅に簡略化され、分析時間が短縮された。これまでに検討した穀類、茶葉に加え、野菜、果実についてもSFEが抽出手段として有用であり、クリーンアップ操作が不要であることが証明され、さらに従来SFEで回収率が低かった高極性農薬への適用も可能になったことから、SFEは簡便且つ有効な抽出法として実用が期待される。
(2)農作物中の18農薬についてSFE、LC/MSによる分析法を作成した。ExtrelutRNTとBond ElutRC18でSFEからの抽出物を捕集し、ミニカラム(RFlorisilと PSA)で精製した後、LC/MS(SIM)で定性、定量した。18農薬の回収率は一部を除いて概ね60%以上であり、また、基準値レベル以下の検出が十分可能であったことから、本法はスクリーニング法として有効であると考えられた。但し、たまねぎ、オレンジ等妨害物が極端に多い作物ではいくつかの農薬には適用困難であった。一部再現性の悪い農薬については、GC/MSを利用することにより良好な結果が得られた。18農薬をLC/MSで分析するには3種の条件で測定しなければならないが、昨年度検討したHPLCによる方法に比べ、試験溶液調製時間の短縮を図ることができた。
(3)昨年度は、キャピラリーカラムを用いたN-メチルカルバメート系農薬の一斉分析法を検討し、高感度化と分離条件の最適化を試みた。今年度は内径2.0mmのカラムを用いて、玄米、ぶどう、ピーマンで検討した結果、アルジカルブ、オキサミル及びカルバリルなどのN-メチルカルバメート系農薬は、ほとんど前処理を行わなくても一斉分析できることがわかった。しかし、スルホニルウレア系農薬の一部は保持時間の変動が見られた。今後その原因の把握と解決に向け更に検討加える必要がある。 
(4)①ペルメトリンのELISA開発を目的に研究を行い、得られた抗体はシアノ基を強く認識することが明らかとなった。その結果、本抗体を用いることでタイプⅠ、タイプⅡピレスロイドのタイプ別一斉分析の可能性が見い出され、合成ピレスロイドのスクリーニング分析への応用が期待される。ELISAはサンプル処理能力が高いため、機器分析にかける検体数を減らすための初期スクリーニング法として有用である。②作製したイマザリル分析用イムノアフィニティークリンナップカラムは、柑橘試料中に残留するイマザリルを保持するのに充分な保持容量を有し、約30回の繰り返し利用が可能であった。また、本カラムの精製効果は従来の前処理法に比べて優れており、各種柑橘類からの添加回収試験の結果も良好であった。イムノアフィニティーカラムと機器分析をリンクさせることにより試料調製の迅速化並びにクリーンアナリシスを達成することが可能となった。数種類の抗体若しくは類似構造農薬に対し広い交差反応性を有する抗体を用いたカラムによる多成分一斉分析法の開発が期待される。③複数の機関でダイアジノン、アルジカルブ及びクロルピリホスを農作物に添加し、市販ELISAキットで分析した結果、これらのキットは問題点はあるが、スクリーニング法として利用するにはほぼ妥当との結論を得た。市販ELASAキットは品質保証期間が比較的短く、高価である。また製品により、操作に習熟が必要、感度が低い、交差反応性を示す農薬が多いなど一長一短があった。キットの使用に際しては農作物によっては感度や交差反応性を考慮すべきであるが、特定の残留農薬を測定する目的であれば、スクリーニング法として有用な手段となり得るものと考えられる。
結論
農作物中の残留農薬迅速分析に関する下記の研究を実施した結果、残留農薬分析の迅速化、自動化、分析精度向上、スクリーニング分析にとって有用な研究成果を得た。
(1) 超臨界流体抽出(SFE)、GC/MS(SIM)による野菜、果実中残留農薬の一斉分析法
(2) SFE、LC/MSによる米、野菜、果実中残留農薬の一斉分析法
(3) LC/MSによるN-メチルカーバメート系及びスルホニルウレア系農薬等の一斉分析
(4) 酵素免疫測定法(ELISA)の応用
①ピレスロイド系殺虫剤ペルメトリンのELISA開発
②イムノアフィニティーカラムクリンナップ/HPLCによる柑橘類中イマザリルの分析
③残留農薬の市販ELISAキットによる分析の検討
上記の各研究成果を実用することにより、あるいはさらに発展させることによって、農作物中残留農薬の迅速試験法が確立できる。さらに、SFE及びELISAによって分析に使用する有機溶媒量が削減でき、労働衛生上及び環境保全上も好ましいと考えられる。

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