食品中化学物質の相互作用等に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000702A
報告書区分
総括
研究課題名
食品中化学物質の相互作用等に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
広瀬 雅雄(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 白井智之(名古屋市立大学)
  • 井上達(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 小野宏(食品薬品安全センター)
  • 大野泰雄(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 豊田正武(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 吉池信男(国立健康・栄養研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
44,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我々は、食品、化粧品や飲料水を通じて長期間にわたり低濃度、かつ多様な天然・合成の化学物質に同時に暴露されている。これらの中には、発がん性・発がんプロモーション作用のみでなく種々の毒性、アレルギーさらにホルモン様作用を有するものがある事実も明らかにされてきた。本研究班では食品添加物、残留農薬など食品中化学物質の複合暴露や相互作用の実態を総合的に調査、研究する目的で以下の研究を行った。
研究方法
【広瀬】亜硝酸とp-aminophenol (PAP)、p-aminobenzoic acid (PABA)あるいはactaminophen (AAP) の複合影響を中期多臓器発がん試験法を用いて検討し、MNNGでイニシエーションを行ったラットを用い、亜硝酸とascorbic acid (ASA)の胃発癌に対する用量相関性を検討し、さらに亜硝酸とヘテロサイクリックアミンであるPhIPの複合投与によるラット乳腺発癌に対する影響を検討した。【白井】ラット肝中期発がん試験法を用いて、亜硝酸とアミンでありタバコや加熱食品中に多くみられるharman (0.05%)、norharman (0.05%)、または農薬のamitrolをそれぞれ単独あるいは複合で6週間投与し、肝発がんに対する影響を検討した。【井上】内分泌かく乱物質をスクリーニングするためのラット子宮肥大試験を用いて、o,p'-DDTおよびMethoxychlorのエストロジェニック相互作用を検討した。【小野】農薬等の食品中化学物質相互のアレルギー増強作用の有無を検討するためのin vitroモデル系を用いて、含窒素系農薬であるクロロニトロフェン(CNP)及びニトロフェン(NIP)と環境化学物質であるジブチルフタレート(DBP)との複合作用について、マウス由来肥満細胞からの脱顆粒反応への影響について検討した。【大野】ゴムの老化防止剤として使用されている2-mercaptobenzimidazole (MBI) の毒性と代謝との関連性を解明し、またヒトでの影響を推定するため主にヒト肝ミクロソーム酵素系を用いてMBIの代謝とその阻害作用を検討した。不可逆的阻害によりCYP3Aを阻害することが知られているマクロライド系抗生物質を用いin vitroの阻害試験結果からin vivoでの相互作用を予測し、実際の結果と比較した。即ち、ヒト肝ミクロソームを用いて、阻害形式を考慮した代謝阻害試験を行い、CYP3Aによるmidazolamのα位および4位水酸化代謝に対する阻害のkinetic parameterを算出した。このparameterと各薬物の体内動態parameterの報告値を生理学的フローモデルに代入し、in vivoの相互作用をシミュレーションした。【豊田】厚生省通知の迅速スクリーニング法または一斉分析法を用い、農作物中の複数農薬の残留実態を調査した。26種有機塩素系農薬、19種ピレスロイド系農薬、65種有機リン系農薬及び117種含窒素系農薬等はECD、FPDまたはFTDを装着したガスクロマトグラフを用いて測定し、確認はGC/MSで行った。15種N-メチルカーバメート系農薬はポストカラム高速液体クロマトグラフで測定した。【吉池】学校給食における季節変動に関する予備的検討を行ない、また、より系統的な暴露評価システムの確立を目指して、“暴露評価"という観点からどのような食品項目を把握すべきかの検討を行った。さらに、「非可食部の除去による影響の考慮」に対応するための基礎データとして、個々の農作物における廃棄部位及び廃棄率(重量比)に関して系統的な検討を加えた。
結果と考察
【広瀬】中期多臓器発がん試験法では、PABA単独で甲状腺腫瘍の増加が認められたが、NaNO2の複合ではいずれ
の臓器においても腫瘍発生の増加は認められなかった。現時点では亜硝酸による複合作用の発現にはかなり化合物との構造相関性があると考えられる。亜硝酸とアスコルビン酸の複合実験では、発癌の促進には、亜硝酸0.1%以上及びアスコルビン酸1.0%以上の高用量が必要であり、腺胃発癌においては亜硝酸及びアスコルビン酸の複合影響はみられなかったことから。ヒトへの直接の外挿は困難であろう。さらにPhIPに亜硝酸を複合投与すると、PhIPによる乳腺発癌が抑制されたが、MeIQxでは肝発がんが促進されることが知られているため、亜硝酸はヘテロサイクリックアミンの種類によって異なった発がん修飾作用を示すことが明らかになった。
【白井】亜硝酸とHarman、NorharmanあるいはAmitroleを複合投与したが、肝発がんを促進するような働きは無く、相互作用が無いことが判明した。昨年の研究ではMeIQxと亜硝酸ではそれぞれ単独に比してより強い肝癌発生過程の促進作用があったことから、亜硝酸との反応を引き起こす物質には一定の化学構造を持つ必要があることが示唆された。
【井上】陽性対照物質E2とo,p'-DDT、あるいはE2とMethoxychlorとの組み合わせでは、エストロジェン作用に相加性がみられたが、o,p'-DDTとMethoxychlorとの組み合わせでは、拮抗性がみられ、本研究により複数の農薬等化学物質による相互作用を検討する一つの方法が得られたと考えられた。
【小野】マウス由来肥満細胞からの脱顆粒反応は、含窒素系農薬であるクロロニトロフェン(CNP)及びニトロフェン(NIP)と環境化学物質であるジブチルフタレート(DBP)単独でも認められたが、複合による増強作用が観察された。一方、それらの物質間の免疫系における複合作用をNC/NgaおよびBALB/cマウスを用いたin vivoの実験系で調べた結果、一部の測定項目でNIPおよびCNP単独で免疫抑制作用が認められた他に、DBPとの複合作用が認められた。以上の結果から、本研究で開発した試験法を用いることにより、含窒素系農薬とフタル酸エステルの免疫系における相互作用を明らかにできることが示唆された。
【大野】MBIのヒト肝ミクロソームでの代謝にはフラビンモノオキシゲナーゼ(FMO)が寄与することが示唆された。一方、MBIの代謝に対応してCYP3A4等が関与するTestosteroneの代謝活性を強く阻害した。これらのことからこの化合物はヒトにおいても他の薬物の代謝を阻害あるいは代謝活性の促進によりする薬物相互作用を起こす可能性が示された。また、漢方抽出物画分がCYP3A活性を阻害すること、およびそれがインペラトリンを含むフラノクマリンゲラニル誘導体であることが明らかにした。更に、不可逆的阻害によりCYP3Aを阻害することが知られているマクロライド系抗生物質を用いin vitroの阻害試験結果からin vivoでの相互作用を予測し、実際の結果と比較した結果、 midazolamのAUCはerythromycinの併用により約 3.0倍、clarithromycinの併用では約2.1倍上昇するのに対し、azithromycinの併用ではほとんど変化がないことが予測され、in vivoにおける報告値とほぼ一致した。臨床においての毒性の発現を防ぐために、あらかじめin vitroデータから阻害形式を考慮したモデルを使って、相互作用の程度を定量的に予測し、把握してゆくことは極めて重要である。
【豊田】複数農薬の検出率の高かった個別の国産及び輸入農産物等について、代謝物も含め242種農薬の残留実態調査を実施した。その結果、未成熟えんどうから6~10種農薬、大葉から4種農薬、きゅうり、ケール、小松菜、ネクタリン及びおうとうから3種農薬、ピーマンから5種農薬、ぶどうから4~5種農薬、日本なしから3~4種農薬、りんごから3~9種農薬、いちごから3~8種農薬、レモン及びグレープフルーツから3~4種農薬、オレンジから3~5種農薬が同時に検出されることが明らかとなった。使用農薬は国により特徴があり、各生産者が様々な農薬を使用していることが示唆された。
【吉池】学校給食及び家庭における農作物の摂取量と季節変動に関する検討では、小麦より米の比率が高くなり、サトイモ類やキャベツなどが過小評価されていた。国民栄養調査における2001年(平成13年)からの食品番号体系の検討では、codexが作成した食品番号体系(216食品)の内、従来の国民栄養調査の食品番号体系が対応できているものは103食品に過ぎず、半数以上の113食品についてはデータリンケージが困難であった。非可食部の除去に関する系統的なデータベースを作成した。
結論
実験的研究では、亜硝酸はアミン、フェノール系化合物やアスコルビン酸など他の食品中化合物との複合により、発がんの促進、抑制という複雑な作用を示すが、化学構造に依存し、標的は限られ、高用量が必要である。また、エストロジェン様作用を示す農薬においても相互作用が観察された。アレルギーに関しては2種のモデルを用いることにより、クロロニトロフェン(CNP)及びニトロフェン(NIP)と環境汚染化学物質であるジブチルフタレート(DBP)との複合による増悪作用を捉えられる可能性が示唆された。ゴムの保存剤として使用されているMBIは主にヒトFMO-3により代謝され、ヒトP-450薬物代謝酵素活性をも強く抑制し、ヒトにおける他の薬物等の毒性を増強する可能性が示唆された。このような阻害活性はセリ科の植物や漢方薬などでも認められ、医薬品や農薬の代謝を不可逆的に阻害し、相乗毒性を起こす可能性がある。調査研究では、一斉分析法を用いて、複数農薬の検出率の高かった個別の国産及び輸入農産物等186試料について、代謝物も含め242種農薬の残留実態調査を実施した結果、3~10種類が同時に検出され、今後の農薬の安全性評価において相互作用を検討することの重要性が指摘された。また、残留農薬の曝露評価の精密化を図るため、曝露評価に特化した新たな食品摂取量データベースを開発した。

公開日・更新日

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