内分泌かく乱物質等、生活環境中の化学物質による健康影響及び安全性確保等に関する研究(生活環境中の化学物質のin vitro及びin vivo エストロゲン様活性検索)

文献情報

文献番号
200000699A
報告書区分
総括
研究課題名
内分泌かく乱物質等、生活環境中の化学物質による健康影響及び安全性確保等に関する研究(生活環境中の化学物質のin vitro及びin vivo エストロゲン様活性検索)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
片瀬 隆雄(日本大学生物資源科学部)
研究分担者(所属機関)
  • 井上正(日本大学生物資源科学部)
  • 森友忠昭(日本大学生物資源科学部)
  • 上田真吾(日本大学生物資源科学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
生活環境中の化合物について,化学構造などに基づいて,プラスチック等の工業製品,医薬品成分および天然物成分化合物についてエストロゲン様活性検索することを目的とした。化合物のエストロゲン様活性検索は組換え酵母系及びヒト乳癌由来細胞系による二系のin vitroとラット膣スメアテストのin vivo で実施し,各測定系の結果の相関を求めることとした。これらの測定系によるエストロゲン様活性検索結果をもとに,内分泌作用攪乱の影響をどのような尺度で評価するのか基本的な考え方を例示し,それに基ずいて現状の様子を評価し,今後の課題を提示することを目的とした。すなわち,これまでのDodds らのエストロゲン薬効実験,Wischiらの性誘導実験,ジメチルスチルベストロ-ルの薬禍などにより,エストロゲン様合成化合物が生物の性分化に影響を与えることは明らかな事実である。従って,今後,必要な検討課題は,ヒトを含めた自然や生活環境がエストロゲン様活性化合物で影響を受けるに十分な摂取許容量あるいは残留量に達しているのか。合成化合物の使用を抜きにして現代の生活を維持することは不可能であるから,現在はどの程度の段階であるのかを明確にする方法を求めることとした。市販製品のなかにはフタル酸エステルやアジピン酸エステルなどの同族化合物や異性体の混合物として使用されることがあり,混合物の成分のエストロゲン様活性が異なることが判明した。従って,重要な化成品の場合,その成分を分けることによって危険性を低下させることができる可能性を示すこも本研究の目的とした。すなわち,混合物のどの化合物にエストロゲン活性があるのかを明らかにする目的で,アジピン酸エステルやノニルフェノ-ルの各分画成分を薄層クロマトグラフ(TLC),及びガスクロマトグラフ(GLC) で分離し,質量分析計(MS)及び核磁気共鳴スペクトル計(NMR) で同定後,高速液体クロマトグラフ(HPLC)で分取した各画分のエストロゲン様活性を組み換え酵母系で検索することとした。エストロゲン様作用を有する合成化合物のうち,ノニルフェノ-ル(NPH)やビスフェノ-ルA (BPA)は,実験中に使用したプラスチック器具から溶出していたことが契機で,その後,プラスチックの安全性に強い関心がもたれた。すなわち,エストロゲン活性のin vitro細胞培養実験中に,NPH がポリスチレン製試験管から,BPA がポリカ-ボネ-ト製フラスコから,それぞれの溶出し,それらがエストロゲン様活性も有する化合物がプラスチックに含まれていることが偶然に明らかにされた。そこで,これらの溶出物に関連するプラスチックの食品衛生上の安全管理の方策を考察する。
研究方法
(試料)37種類の市販化合物を使用した。(測定系)<組み換え酵母系スク-ニング>ヒトエストロゲンリセプタ-遺伝子及び大腸菌LacZ遺伝子を組み込んだ酵母はDr. Sumpter(Brunel University,UK) より分与された。エストロゲン様物質によって誘導されたβ-ガラクトシダ-ゼの活性は,Chlorophenyl red- β-D-galactopyranoside (CPRG) の呈色を測定することによって行った。分析は以下のように行った。全ての検体はジメチルスルフォキシド(DMSO)に溶解し,DMSOで段階希釈したのち96-well のマイクロプレ-トリ-ダ-を用いて,540nm と620nm の吸光度を測定し,その差を誘導されたβ-ガラクトシダ-ゼの活性とした。活性測定に際しては,溶媒(DMSO)のみから得られた値を差し引いた。また,陽性対象として17βエストラジオ-ルを用いた。<ヒト乳癌由来細胞系スク-ニング>ヒ
ト乳癌細胞株MCF-7 は北里研究所臨床医学センタ-坂部貢博士より分与された。培養液は10%ウシ胎児血清(FCS) 添加Minimum Essetial Medium(MEM)を用い,37℃,5%CO2 存在下で培養した。細胞の継代は1週間に2度,0.1 %トリプシン加0.02%EDTA添加リン酸緩衝生理食塩水(PBS) を用いて細胞を剥離させ,もとに細胞の1/3 ~1/4 量の細胞を新しいフラスコにまくことにより行った。培養液は,フェノ-ルレッド(PR)フリ-のPR(-)MEMを用いた。また,FCS はチャコ-ル・デキストランT70 で処理し,エストロゲン等のステロイドホルモンを除去したCD-FCSを用いた。アッセイ用培地は10%CD-FCS添加PR(-)MEMを用いた。<ラット膣スメアテスト>膣スメアテストは,Dodds らの標準化法に準じて実施した。すなわち,市販品の供試化合物(表1)を,各濃度に調整し,実験動物のラットの頚部皮下に投与した。ウイスタ-系雌ラットを7週齢(体重約170~200g)になったところで,エ-テル麻酔下で左右の卵巣を摘出した。テスト結果は,Doddsらの判定に準じて行った。<ノニルフェノ-ルの分画>市販のノニルフェノ-ル(東京化成,No.300 )(約2g)を分取し,エストロゲン様活性実験に供した。本分離・分取操作の概略を図2に示す。また,操作及び分析条件を以下に示す。HPLC(1) : Pegasil silica充填カラム(250mmx20mm,id)中,ヘキサン/酢酸エチル(30/1) 混合溶媒を流速(4ml/min )で走行(画分3,4,5 及び6 の4画分分取)HPLC(2) :Pegasil silica充填カラム(250mm x 10mm,id)中,ヘキサン/酢酸エチル(30/1) 混合溶媒を流速(4ml/min )で走行(画分5の再画分5-0,-1,-2,及び-3の4画分分取)。アジピン酸エステルは昨年度の分画物を用いた。
結果と考察
生活環境中の化合物のエストロゲン様活性を,エストラジオ-ルの活性に対する比強度(R)で表わすと,in vitroの組み換え酵母及び乳癌細胞の二検出系の測定結果によい相関があった。また,今回のin vivo ラット膣スメアテストとDodds らの測定結果も類似の結果を得た。組み換え酵母系とDodds らの測定結果によい相関のあることはすでに,報告した。そこで,組み換え酵母系で測定したエストロゲン活性の比強度(Ryeast)を用いて,in vivoでの影響を作用強度 (E)を求め,化合物の安全摂取量 (A)を評価するための式を導いた。
そのために,活性を持つ化合物数nの決定が必要である。しかし,単独の場合や,限定した条件のもとで,この式をもとに,各種化合物の安全性を考察した。すなわち,本実験で測定の結果,医薬品成分化合物については安全度を遥かに越えていたが,治療行為とする異なる判断因子が加味される。したがって,避妊薬ピルなどの使用するエチニルエストラジオ-ルなどの使用のさいに徹底した管理が必要である。プラスチックなど化成品の活性は,ほとんどが弱いエストロゲン様活性物質であったが,活性化合物総数nが決定していない状態で使用している現状を理解することが必要である。エストロゲン比強度を有する化合物のビスフェノ-ルA, i- ノニルフェノ-ル (NPH),BHT, トリフェニルエチレン,フタル酸エステルのBBP,DBP 及びDIBPが,生活環境中で,かりに 8種類が共存すると,共存化合物の総計の安全許容量はすでに環境汚染の測定値に近いオ-ダ-であることも計算された。天然物成分化合物のゲニステインはラット膣スメアテストを含めて 3種の測定系でエストロゲン様活性を示した。スチルベストロ-ル構造を有するレスベラトロ-ルはin vitroでゲニステインと同程度かそれ以下の活性であったが,in vivo で測定限界以下であった。測定した 8種類のフタル酸エステルの活性強度は異なっていた。プラスチック手袋から同定されたエステルで,DEHP(最大,材質当たりの重量で15%)は活性をほとんど有しないが BBP(同,3.6 %)は弱いエストロゲン様活性物質のなかではかなり活性のあることが分かった。したがって,プラスチックに添加する可塑剤の選択によって危惧を回避することができる。日常生活で使用されているノニルフェノ-ル混合物をHPLCで分取して得られた画分のエストロゲン様活性は異なっていた。各画分は単一のNPH 異性体ではなく,未だ複数の異性体の混合物であることがわかった。これらをさらにGLC で分画し,特定の異性体構造にのみ活性が局在するならば,その異性体を取り除くことにより,NPH 全体の活性を低下させることができる可能性がある。最後に,現行の食品衛生法によるプラスチック添加化合物の規制方法を考察し,その結果,安全性の確保のために改善する方策の一つとして,食品用プラスチック添加剤を基本的に非意図的な"食品添加物"の扱いにする必要であることが示唆された。
結論
内分泌かく乱物質等,生活環境中の化学物質による健康影響および安全性の確保等に関してプラスチック製手袋・食品包装用ラップフィルム抽出物。ノニルフェノ-ル分画物に関連する化合物及び医薬品・プラスチク等工業的生産による化成品・天然物成分などの合計37種類の化合物を検体として,in vitro(組み換え酵母系及び乳癌細胞系)及びin vivo (ラット膣スメアテスト)でエストロゲン様活性を定量的に測定した。酵母系測定によるエストラジオ-ルに対する比活性濃度(Rnyeast )を用いて,これらの化合物の測定結果を評価するための式を立てた。一般的に,式中の n番目の作用物質の酵母系で測定した比活性濃度 (Rnyeast )で, n番目の作用物質の作用強度 (En) を計算し,エストロゲン様活性物質の数nを決めると, n番目の作用物質の安全許容量 (An) が求められる。しかし,Anは互いに関連し合うので,単独の場合に限って決定することができる。この式を用いて,医薬品,プラスチック等の化成品及び天然物成分化合物の現状の影響評価と今後の課題について考察した。日常生活で使用されているプラスチク等の化成品や天然物成分にはエストロゲン様活性を有する化合物があり,その活性は極めて弱いといえるがその総数を考慮すると,さらに検討を重ねる必要のあることが示唆された。また,本実験結果に基づいて,プラスチック等市販化成品のエストロゲン様作用による危険性の回避の方法を考察した。その結果,可塑剤フタル酸エステル類の種類や界面活性剤ノニルフェノ-ル混合物の画分には活性強度の差異があり,それらを選択することによって危険性を軽減できる可能性が示唆された。最後に,現行の食品衛生法によるプラスチック添加化合物の規制方法を考察した。その結果,安全性の確保のために改善する方策の一つとして,食品用
プラスチック添加剤を基本的に非意図的な"食品添加物"の扱いにする必要が示唆された。                                         

公開日・更新日

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