SLEにおける難治性病態の早期診断と治療に関する研究

文献情報

文献番号
200000675A
報告書区分
総括
研究課題名
SLEにおける難治性病態の早期診断と治療に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
小池 隆夫(北海道大学大学院医学研究科分子病態制御学講座免疫制御学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 江口 勝美(長崎大学医学部内科学第一講座)
  • 住田 孝之(筑波大学臨床医学系内科)
  • 土肥 眞(東京大学医学部アレルギー・リウマチ科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
18,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
一般的なSLE患者の生命予後は本症の早期発見が可能となり、また治療法の大幅な進歩により著しく改善されきた。しかし、抗リン脂質抗体症候群、間質性肺炎、難治性ループス腎炎のような難治性の病態も存在し、患者のOQLや生命予後を著しく阻害している。抗リン脂質抗体症候群はSLEに最も多く併発し、特に脳梗塞に代表される動脈系の血栓症が約半数の患者に認められる。またSLE患者の流産の最大の原因ともなっている。間質性肺炎はSLE患者において肺高血圧や肺胞出血と同様に、患者の生命予後を左右する重大な肺合併症である。またループス腎炎の中にはあらゆる治療に抵抗し腎不全に進行する、極めて難治な一群が存在する。
本研究の目的は、多彩なSLEの病態の中から上記の抗リン脂質抗体に起因する病態(動・静脈血栓症、習慣流産、血小板減少及びCNSループスの一部)、間質性肺炎及び難治性ループス腎炎の3つの病態に焦点を絞り、それらの病因、早期診断及び新たな治療法を開発し、患者のOQLや生命予後の改善を計るものである。
研究方法
(1) 抗リン脂質抗体症候群:
・モノクローナル抗PS/PT抗体の作成:抗リン脂質抗体症候群患者末梢血より、磁気ビーズを用いてCD20陽性細胞を分離し、EBウィルスを用いて96穴プレートにて不死化した。抗PS/PT抗体産生細胞を含む細胞集団をSHMD-33細胞と細胞融合し、ハイブリドーマを作成し抗PS/PT抗体産生細胞を限界希釈法にてクローニングした。
・特異性の検討:作成したモノクローナル抗体の、フォスファチジルセリンに結合したプロトロンビン(PS/PT)と、酸素化プレートに固相化されたプロトロンビンへの反応性を固相酵素抗体法にて検討した。さらに、プロトロンビンをトロンビンで処理して作成し精製したフラグメント1へのモノクローナル抗PS/PT抗体の結合性を、フォスファチジルセリンを固相化したプレートを用いた固相酵素抗体法にて検討した。陽性コントロールとして、ヒトプロトロンビンを免疫して作成したポリクローナル抗ヒトプロトロンビン抗体を用いた。 精製したリン脂質、ファクターV、ファクターX、カルシウムよりなるプロトロンビナーゼ複合体による、プロトロンビンからトロンビンの生成に対する、モノクローナル抗PS/PT抗体、HG-4の影響を検討した。トロンビン生成量は合成基質を用いて測定した。
リコンビナント蛋白の作成:全長を含む6種類のリコンビナント蛋白(全長、d318, AA1-106、d594, AA1-198、d942, AA1-314、d1059, AA1-353、d1458, AA1-486)を作成するために、それぞれをコードしたDNAをPCRで作成し、pGEX-6p-1発現ベクターに組み込んだのち、BL21 E.coli に導入し、リコンビナント蛋白を発現させた。E.coliをsonication後、不溶性画分をSDS-PAGEにて展開し、リコンビナント蛋白をゲルより切り出し、BioRad社製Model422 Electro-Eluter にて精製した。精製蛋白はSDS-PAGEにて検定した。
T細胞応答:患者末梢血単核球106/mlを精製したリコンビナント蛋白(10-50mg/ml)とともに10%FCSを含むRPMI1640メデイウムで4日間培養し、BrdU添加後24h後にOD値を測定しT細胞の増殖反応を検討した。5日目の培養上清中のIL-2濃度をELISAキットで測定した。
2) 間質性肺炎:
雄C57/Bl6マウスにBleomycin 0.1単位を生理食塩水40_lに溶解して気管内投与し、経時的に屠殺して検体を採取した。それぞれの検体について、KL-6/MUC1の肺における発現について検討した。加えて、傷害による肺の線維化の指標としてhydroxyproline量を、修復機序の指標として HGF/c-Met を用い、KL-6/MUC1の発現と比較検討した。
3) 難治性ループス腎炎:
免疫担当細胞のプロトタイプとしてBリンパ球系細胞株であるRaji 、Tリンパ球系細胞株であるJurkat、マクロファージ系細胞株であるU937を、activated charcolでステロイド分画を吸着させたFCSを10%含むフェノールレッド除去RPMI培地でstarveした後10-6Mの17_-estradiolを添加して48時間培養し、RNAを回収した。これらをClontech社Human I ・II DNA microarray systemによって特異的プライマーを作製し、同メンブレンとハイブリダイズを行った後専用ソフトで解析を行い、17_-estradiol添加、非添加サンプルの間で差を認めた遺伝子をリストアップした。発現変化を認めた遺伝子のうち免疫応答に関与することが認知されているものの一部について、フローサイトメトリーやウェスタンブロット法によって蛋白レベルでの発現の違いを検証するとともに、発現変化を認めた遺伝子群について広くその生理的意義を調査し、全体として免疫応答やSLEの病態に対する関与について考察を試みた。
長崎大学熱帯医学研究所施設内マウス専用MRI装置(SPECTROSPIN 400, 9.4T, Bruker社)を使用して、ループス腎炎のモデルマウスであるMRL/lprマウスの腎臓MRI撮影を行った。腎生検直前のループス腎炎患者の腎臓MRIをT1・T2画像にて撮影した(1T, GE Yokogawa社)。ループス腎炎患者5例の腎臓MRIを拡散強調画像で撮影した。各撮影条件における見かけの拡散係数 (apparent diffusion coefficient; ADC)を測定、正常者5例と比較した。
結果と考察
【研究結果】
抗リン脂質抗体症候群
1.抗PS/PT抗体の特異性
IgMクラスの抗PS/PT抗体産生細胞株を4クローン(HG-4, KE-6, KF-5, KF-6)樹立した。
4クローンのうち3クローン(HG-4, KF-5, KF-6)は、PS/PTのみに結合したが、KE-6は、PS/PTにも、酸素化ポリスチレンプレートに固相化されたプロトロンビンにも結合した。作成した全てのモノクローナル抗PS/PT抗体は、フラグメント1に結合せず、プロトロンビンのみに結合した。陽性コントロールとして用いたポリクローナル抗プロトロンビン抗体は、フラグメント1と、プロトロンビンの両者に結合した。
2.トロンビン生成に対する影響
作成したモノクローナル抗PS/PT抗体、HG-4の、プロトロンビナーゼ複合体によるトロンビン生成への影響を検討した。HG-4は、濃度依存性にプロトロンビンの生成を阻害した。プロトロンビナーゼ複合体作成のため添加したフォスファチジルセリンを増量するとこの阻害作用は弱くなった。
全長のプロトロンビンリコンビナント蛋白に対して細胞増殖反応を呈したのは3名(30%)であった。
T細胞エピトープの解析では、症例1が全長のリコンビナント蛋白に対してS.I.が1.8-2.4と細胞増殖反応を呈したが、fragment-1をコードするd594に対しては有為な増殖反応を示さなかった(S.I.=1.1)。このことは、症例1ではプロトロンビンのprethrombin-1上にT細胞エピトープがあることを示している。一方、他の二症例では、全長およびAA1-198 (fragment-1) に対して、S.I.3.0と2.5、および、S.I.1.7と2.8と有意な細胞増殖反応を呈した。以上の結果は、症例2と3では、プロトロンビンのfragment-1にmajor T細胞エピトープが存在している事を示している。
間質性肺炎
1)投与後3日目より、肺胞腔内に好中球を主体とした炎症細胞が浸潤し始め、1週間でピークを迎えた後、漸減した。2) hydroxyproline量は、経過とともに投与12週まで漸増した。3)HGFとc-Met レセプターの肺での発現も、傷害の進展に対応して増強し、投与2~4週でピークを示した後、漸減した。4)mRNAレベルでは、KL-6/MUC1の発現の経過は、 HGF, c-Metの発現と同様の傾向を示した。5)免疫組織化学的な検討では、MUC1蛋白は、線維化を生じた傷害部のすぐ近傍に位置し、活発に再生していると考えられる肺胞上皮細胞に強く発現していたが、健常部における発現は弱かった。6)肺傷害の程度が軽減するにつれて、修復機転の発現も低下した。以上より、KL-6の発現は、修復システムであるHGF/c-Met 系と連動する事が明らかとなった。
ループス腎炎
多くの遺伝子発現の変動が観察され、エストロゲンが免疫応答に対して多彩かつ複雑な影響を与えている可能性が推察された。これらの中で免疫応答の成立に重要な役割を果たしていることがすでに明らかとされている遺伝子として、Bリンパ球系細胞株RajiにおいてCD40の発現がestradiol添加に伴って減弱するのが認められた。この現象はフローサイトメトリーとウェスタンブロットによって蛋白質レベルでも確認され、抗CD40抗体とIL-4による刺激への反応性の低下も認められた。またマクロファージ系細胞株U937においては、CD4リンパ球の初期分化に関連すると報告されているearly growth response gene-1 (hEGR-1)の発現が減弱することがウェスタンブロットで確認された。また、すでにエストロゲンによって発現が誘導されることが知られているhsp27も比較的強く誘導される結果が得られた。全体の遺伝子発現の変動は必ずしも免疫応答に対する作用において一定の傾向を示しているものではなかったが、炎症反応とapoptosisに対しては抑制的に作用し(IL-1、caspaseの発現減弱)、自己抗原性を指摘されている遺伝子発現の誘導(hsp60、topoisomerase Iなど)が認められ、このような結果をもとにSLEの疾患成立や難治化に対してどのように関与するかについて考察を行った。
麻酔下生存マウスにおける腎臓MRIでは、腎皮質と腎髄質の区別はついたが、腎皮質病変の描出は困難であった。その原因として、呼吸性移動、心拍のアーチファクトの影響が大きかった。フロリナート中の腎臓MRI像では、MRL/lprマウス、Balb/cマウスともに、組織染色のスライスに匹敵する解像度が得られた。
ループス腎炎患者の腎臓MRIにおいても、腎皮質と腎髄質の区別はついたが、腎皮質病変の描出は困難であった。その原因として、呼吸性移動、MRI自体の解像度の問題が大きかった。
傾斜磁場係数(gradient factor)=500 [sec/ mm2]にてループス腎炎患者は正常者に比べ、ADC値が有意に増加していた。
【考察】
抗リン脂質抗体症候群
作成したモノクローナル抗PS/PT抗体の多くが、酸素化ポリスチレンプレートに固相化されたプロトロンビンに結合しないこと。モノクローナル抗PS/PT抗体の内1クローンは、両者に結合したこと。また、これまでの報告では、抗PS/PT抗体と抗PT抗体の抗リン脂質抗体症候群の臨床像との関連性が異なることより、プロトロンビンに対する抗体は、抗PS/PT抗体と、抗PT抗体、および抗SP/PT抗体と抗PT抗体の両者の性質を持った抗体とに分けることができると考えられた。これら3群の抗プロトロンビン抗体の臨床的意義を今後検討していく必要がある。
現在、抗プロトロンビン抗体として、酸素化プレートに固相化されたプロトロンビンに対する抗体が測定されることが多い。しかし、抗PS/PT抗体が、抗PT抗体より、有意に抗リン脂質抗体症候群の臨床像との関連が深いことが報告されており、臨床の場において、抗PT抗体とは異なる自己抗体群と考えられる抗PS/PT抗体も測定する必要があると考えられる。抗PS/PT抗体と抗PT抗体の両者の性質を持った抗体と、抗PS/PT抗体の性質のみを持った抗体の、臨床的意義の異同については今後の検討課題と考えられる。
抗PS/PT抗体は、トロンビンのフラグメント1に結合しないことより、そのエピトープは、トロンビンの酵素活性部位があるプレトロンビン1上にある可能性がある。抗PS/PT抗体が、トロンビンの生体内での活性・機能を変化させ、血栓傾向を惹起する可能性が考えられる。
HG4が、トロンビン生成をリン脂質の濃度依存性に阻害することより、抗PS/PT抗体がループスアンチコアグラント活性を持つことが示唆された。ループスアンチコアグラントは、SLEによくみられる抗リン脂質抗体症候群の病態と関連した重要な抗体であるが、定量的な検出方法がなかった。抗PS/PT抗体かを測定することにより、ループスアンチコアグラントの一部が定量的に測定できる可能性が示唆された。
プロトロンビンのT細胞エピトープもB細胞エピトープと同様に、fragment-1あるいはprethrombin-1に存在していると推察される。特に一症例では、T細胞エピトープとB細胞エピトープが同じprethrombin-1に存在していることから、T細胞、B細胞が認識するエピトープは近傍に存在している可能性が示唆された。今後、合成アミノ酸を用いたT細胞エピトープのマッピングを進めていく。T細胞が認識するT細胞エピトープがアミノ酸レベルで解析されれば、そのアナログペプチドを介した、抗プロトロンビン抗体産生の特異的制御も魅力的な治療戦略として期待されよう。
間質性肺炎
KL-6産生は、その時点での傷害に対する修復機転(肺胞上皮細胞の増殖)を反映している可能性が考えられ、同時に、修復機序を起動させる元となった、背景にある傷害の存在を示唆していると考えられた。従って、間質性肺炎症例で認められる血清 KL-6の上昇は、単に傷害を受けた肺組織から放出されて血中で上昇している事を意味しているのでは無い。 前述した様に、KL-6 は、肺傷害そのものの指標というよりは、むしろ修復機序を通して傷害を反映していると考えられる。
一方、 KL-6/MUC1そのものに修復作用があるかについては明らかではない。KL-6そのものには、線維芽細胞に対する遊走活性がある。この事は、通常の組織修復においては、 KL-6/MUC1が正常の組織への修復にかかわる可能性を示唆しているが、間質性肺炎においては、むしろ肺胞腔内の線維化を促進する可能性も考えられる。このことは、線維芽細胞自身が修復因子であるHGFを産生することと対照的である。すなわち、傷害を促進させる因子と修復因子とは、独立した事象ではなく、生体内で互いに関連した複雑なネットワークを形成していると考えることもできる。
以上の検討によって、KL-6は、胸部写真や呼吸機能検査、動脈血ガス分析などの検査では異常を示さない段階での、早期の肺傷害を検出できる可能性が示唆される。今後、膠原病そのものによる病変に加えて、薬剤性、日和見感染など種々の原因により引き起こされる間質性肺炎で、潜在性の肺傷害の早期診断にもとづく早期治療が可能となることが期待される。。
ループス腎炎
エストロゲンは自己抗原を誘導しapoptosisを抑制することより、自己反応性リンパ球や自己抗体産生細胞の生存を維持することによってSLEの病態の維持や持続に関与する可能性が予想され、これまでになされてきたいくつかの報告に合致するものであった。いっぽう昨年までのわれわれの研究や近年の報告を併せて考えると、急性期炎症応答やそれに伴う免疫系の活性化に対しては、エストロゲン自身は一部の例外を除けば抑制的に作用すると考えられたことより、SLE発病や急性期の病態に対しては性周期や生殖活動に伴う血中濃度の変動がむしろ関与すると推測した。今後さらに研究を進めて、さらに多数の遺伝子での解析を行い詳細なプロフィールを作製するとともに、性ホルモンの生理的血中濃度変動や他の性ホルモンの関与などを考慮に入れたアプローチも必要と思われる。
マウスおよびループス腎炎患者の腎臓MRIの検討では、腎皮質の詳細な変化を画像上とらえることは、困難であった。そこで今回、腎臓MRIの拡散強調画像を利用して機能的に評価できないか検討した。一般に正常腎では、水分が豊富で水の運動制限が少なく血流も豊富であるのに対し、慢性腎不全では線維化が生じるため、水分が比較的少なく水分子の運動制限は大きく血流も低下する。急性腎不全では細胞内浮腫のため水分子の運動制限を生じ、血流低下も生じる。これらの影響により、見かけの拡散係数 (ADC)値は、正常、急性腎不全、慢性腎不全の順に低くなる。まだクレアチニンの上昇がみられないループス腎炎患者5例の検討では、傾斜磁場係数500において、正常者に比べ、ADC値が有意に増加していた 。早期ループス腎炎患者において腎血流の増加はないことから、腎皮質内の拡散運動が増加している可能性が考えられる。今後、早期ループス腎炎患者に加え、腎不全をきたしたループス腎炎患者も検討、症例を増やし、なぜADC値が増加するか考察したい。
臨床への応用として、たとえば、SLE患者に定期的に侵襲のない腎臓MRIを施行、腎皮質部のADC値が上昇してきたら、ループス腎炎発症を考え、腎生検、および治療を行う。また、経過中正常者の値より低い値がみられれば、腎不全へ進行している可能性も考えられる。
結論
【結論】
全身性エリテマトーデス(SLE)は、多彩な自己抗体の出現と腎や中枢神経系をはじめ、多臓器障害を特徴とする、代表的な自己免疫疾患である。近年、早期診断や早期からの積極的な治療により、本症の生命予後は著しく改善したが、あらゆる治療に抵抗する難治性の病態も依然として存在する。本研究ではその中から血栓症と習慣流産を伴う抗リン脂質抗体症候群、間質性肺炎及び難治性腎炎の3つの難治性病態に焦点を絞り、それらの病因を明らかにし、早期診断法を確立し、治療法の開発を試みた。
抗リン脂質抗体症候群に関する研究では、抗プロトロンビン抗体は、プロトロンビンとフォスファチジルセリンの複合体を認識する抗体(抗PS/PT抗体)、酸素化プレートに固相化されたプロトロンビンを認識する抗体(抗PT抗体)、両者の性質を持った抗体に分けることができる。抗リン脂質抗体症候群の臨床像と抗PS/PT抗体の関連が示唆されており、今後、抗PS/PT抗体を測定することが重要と考えられた。
抗PS/PT抗体と、抗PT抗体の両者の性質を持った抗体と抗PS/PT抗体の性質のみを持った抗体の臨床的意義に違いがあるのか否かについては、今後の検討課題と考える。また、ループスアンチコアグラントの一部は、抗PS/PTであることが示された。
また、プロトロンビンのT細胞エピトープはfragment-1あるいはprethrombin-1に存在することもあきらかになった。
間質性肺炎に関しては、 KL-6の増加は、肺に対する傷害と、それに対応する生体の修復機転の活性化を反映していると考えられた。今後、臨床的に潜在性の間質性肺炎の早期診断に有用であると考えられた。
ループス腎炎に関しては、代表的女性ホルモンであるエストロゲンは、自己抗原の誘導やapoptosisの抑制によって、自己免疫病態の維持に関与していることが予想されるが、急性期免疫応答に対しては抑制的に作用するため、SLEの急性期や免疫応答活性化を伴う状況に対しては、性周期などに伴う血中濃度の変動が重要である可能性があり、特に若年女性患者においてはこのような二面性をもってSLEの病態や難治化に関与していると推測された。これらをさらに明らかにしていくことによって、低用量ホルモン製剤やテストステロン誘導体などを用いてホルモン変動を安定化することによってSLEの難治化や病状の遷延を抑制できる可能性もある。
ループス腎炎の画像診断に関しては、今後、MRI機器の解像度の向上を待たなければ、画像上でのループス腎炎患者の腎病変の描出は困難と考えられた。腎臓MRI拡散強調画像の腎皮質部のADC値の上昇が、ループス腎炎の早期診断に有用である可能性が示唆された。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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