特定疾患の疫学に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000654A
報告書区分
総括
研究課題名
特定疾患の疫学に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
稲葉 裕(順天堂大学)
研究分担者(所属機関)
  • 田中平三(東京医科歯科大学難治疾患研究所)
  • 中村好一(自治医科大学)
  • 玉腰暁子(名古屋大学大学院)
  • 川村 孝(京都大学保健管理センター)
  • 永井正規(埼玉医科大学)
  • 簑輪眞澄(国立公衆衛生院)
  • 中川秀昭(金沢医科大学)
  • 佐藤俊哉(京都大学大学院)
  • 縣 俊彦(東京慈恵会医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
40,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
特定疾患に関する疫学研究の目的は、人口集団内における各種難病の頻度分布を把握し、その分布を規定している要因(発生関連/予防要因)を明らかにすることを通じて、難病患者の発生・進展・死亡を防止し、患者の保健医療福祉の各面、さらには人生および生活の質(QOL)の向上に資するための方策をあらゆる疫学的手法を駆使して確立すること、および難病の保健医療福祉対策の企画・立案・実施のために有用な行政科学的資料を提供し、難病対策の評価にも関わることである。以下のプロジェクトを研究目標とし、分担研究者および研究協力者が複数のプロジェクト課題に関わりながら、各臨床研究班と緊密な連携のもとに疫学研究を推進する。
研究方法
①発生関連要因・予防要因の解明:患者対照研究を実施する。②医療受給者の臨床調査票による患者実態調査とその体系的利用:都道府県から各臨床班主任研究者に送付された調査票の分析を行う。③難病患者の保健医療福祉ニーズ把握:患者団体(ベーチェット病、パーキンソン病および炎症性腸疾患)に質問票の送付を依頼し、集計解析を実施した。また、全国606保健所を対象とした調査を実施する。④医療受給申請時の調査票のコンピュータ入力システムの開発:医療費公費負担受給申請時に提出される臨床調査個人票を電子入力するための検討を行う。⑤特定の難病の全国疫学調査:一次調査と二次調査を実施し、患者数の推計と疾病の臨床疫学像を明らかにする。⑥1997年度医療受給者の全国調査資料の分析集計:1997年度の医療受給者の全国調査の解析を行う。⑦地域ベースのコホート研究の実施:1998年度にスタートした研究で現在35の保健所が参加して、受給者の調査を実施している。⑧特定の難病の予後調査:過去に実施した調査票に基づくフォローアップを住民票調査の形式で行う。⑨行政資料による難病の頻度調査:ICD10と治療研究対象特定疾患以外研究対象疾患との対応を行う。⑩定点モニタリング・システムの運用と新たな疾患についての検討:レックリングハウゼン病(NF1)と特発性大腿骨頭壊死症の定点モニタリングシステムについて検討する。
結果と考察
プロジェクト①は炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎とクローン病)については臨床班と協力し、全国14施設の協力を得て症例対照研究を開始した。特発性肺線維症については臨床班と協力し、25施設の協力を得て平成13年6月から調査を開始する。後縦靱帯骨化症については、現在4病院の協力を得て遺伝子多型と生活習慣などの調査を開始した。いずれも当該施設の倫理委員会の承認を得て調査研究をしている。結果については次年度に報告予定である。②は都道府県から各臨床班主任研究者に送付された調査票の様式が異なることなどから、入力作業を終えたのは少数の班であった。クロイツフェルト・ヤコブ病は男53人、女103人の解析を行い、1999年の発病が最も多く、最も経過の長いのは1986年発病者で、年齢別では60歳代が最多、40歳未満は6人であった(中村ら)。強皮症では10月末までに入力した男735人、女5389人の都道府県別、年齢群別の表を作成し、今後解析を継続する(森ら)。プロジェクト③はニーズ調査に患者団体を使用することについて疫学的な視点から議論があったが、患者団体の位置付けをある程度明確にすることとした。ベーチェット病では保健・福祉のサービス利用はあまり活発でなく日常生活に不自由しない者の割合が高かった(松葉ら)。パーキンソン病では3515名
(回答率63.8%)からの回答が得られ、医療受給者75.4%、身障者手帳保有者53.9%、介護保険申請者47.9%という結果であった(山路ら)。炎症性腸疾患では患者の身体的、精神的、社会的ニーズの実態が明らかにされるとともに、サポートグループ支援の重要性、援助提供システムの整備が課題として抽出された(片平ら、前川ら)。全国606保健所を対象とした調査は現在集計解析中である(松下ら)。プロジェクト④は現在の調査票が疾患毎に、また都道府県毎に内容が異なっていることから診断基準の自動チェックや重症度基準の自動チェックを実施できるようにすることを目的として作業を開始した。臨床班との協力による診断基準・重症度基準の見直しも始められている(佐藤ら)。⑤は2000年1月に実施した慢性閉塞性肺疾患(COPD)(縣ら)、先天性水頭症急性膵炎(玉腰ら)の一次調査が主たるもので、他に臨床班中心に別個の手法で実施した膵嚢胞線維症(林ら)の一次調査、摂食障害(藤田ら)の疫学・臨床像調査、1999年1月に実施した特発性心筋症(中川ら)、アミロイドーシス(中川ら)、門脈血行異常症(廣田ら)および1998年に実施した副腎ホルモン産生異常症(中川ら)の二次調査の解析結果が報告された。慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、9月現在での推計で肺気腫11-13万人、気管支炎9-11万人、混合型6-8万人と推定された。当初の予想と異なり気管支炎が多いことが注目された。先天性水頭症では出生前診断患者が720-820人、出生後診断患者が560-690人と推定された。調査法が少し異なるが1993年の全国調査では前者が700-1100人、後者が3200-3500人と推定されており、かなり減少している可能性がある。400床以上の病院の小児科を対象とした膵嚢胞線維症の調査では過去1年の受療者が12-18人、10年間では17-24人と推定された。二次調査結果は各疾患の臨床疫学像の記述であり、各臨床班の貴重な資料である。⑥は昨年度の基本的集計に続いて別冊の報告書(その2、受療動向に関する集計)が発刊された(渕上ら)。⑦は今回はベースライン調査のうちQOLに関するもの(川南ら)と公的サービス利用状況など(新城ら)の集計結果が報告された。QOL尺度の評価では、脳・神経・筋疾患の得点の低いことが認められ、公的サービスの利用も多かった。⑧は天疱瘡とベーチェット病について実施した(黒沢ら)。生存・死亡の確認のみという限界はあるが、天疱瘡では、237人中195人(82.3%)が確認され、死亡例42人をもとに病型別、検査値別の生命予後がある程度明らかにされた。ベーチェット病では、776例中661例(85.2%)の生死が確認されたが、死亡例は22例と少なく、結果は参考程度と考えている。予後調査の手法について今後検討が必要である。⑨では昨年度はICD10と治療研究対象特定疾患名との対応が報告されたが、今年度はそれ以外の研究対象疾患との対応が報告された。目的外利用の申請を提出し、次年度に解析が予定されている(川南ら)。⑩ではレックリングハウゼン病(NF1)(縣ら)は患者数の増減を知ることを、特発性大腿骨頭壊死症(田中ら)は記述疫学特性の経年変化を見ることを目的として、継続的に観察を続ける予定である。新しい疾患については現在のところ臨床班からの連絡はなく、次期の課題と考えている。なお、臨床班と疫学班の両方に連絡担当者を置いて連携をはかる体制は継続しており、次年度以降さらに密接な連携をはかっていきたい。その他各個研究として、大野班から継続研究となった「突発性難聴と生活習慣の関連」(中村ら)の結果や臨床班との共同研究「原発性胆汁性肝硬変に対するベザフィブラートの臨床研究」(縣ら)の計画・進捗状況の報告もあった。
結論
個人情報保護への関心が高まり、倫理委員会の判定を求めたり、一部の研究が予定より遅れているが、全体としては順調に進行している。来年度の成果に期待したい。 

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