呼吸不全に関する調査研究

文献情報

文献番号
200000635A
報告書区分
総括
研究課題名
呼吸不全に関する調査研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
栗山 喬之(千葉大学医学部呼吸器内科)
研究分担者(所属機関)
  • 西村正治(北海道大学医学部第一内科)
  • 飛田渉(東北大学医学部第一内科)
  • 福地義之助(順天堂大学医学部呼吸器内科)
  • 山口佳寿博(慶應義塾大学医学部呼吸循環内科)
  • 永井厚志(東京女子医科大学第一内科)
  • 久保恵嗣(信州大学医学部第一内科)
  • 米田尚弘(奈良県立医科大学第二内科)
  • 白日高歩(福岡大学医学部第二外科)
  • 堀江孝至(日本大学医学部第一内科)
  • 本間生夫(昭和大学医学部第二生理)
  • 宮川哲夫(昭和大学医療短期大学理学療法部)
  • 西村浩一(京都大学大学院医学研究科呼吸器病態学)
  • 三嶋理晃(京都大学医学部附属病院理学療法部)
  • 木村謙太郎(大阪府立羽曳野病院呼吸器科)
  • 別役智子(北海道大学医学部第一内科)
  • 山谷睦雄(東北大学医学部老人科)
  • 白澤卓二(東京都老人総合研究所分子遺伝学部門)
  • 縣俊彦(東京慈恵会医科大学環境保健医学教室)
  • 福原俊一(東京大学大学院医学研究科国際交流室)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
呼吸不全関連疾患(若年性肺気腫・肥満低換気症候群・肺胞低換気症候群)を対象として、その病因・病態を探求・究明し、同時に新たな治療法を模索・開発することである。また、病因の追求および治療法の開発につながる臨床研究課題、及び原因的治療法を確立するための基礎研究課題をとりあげ、研究を推進することにある。
研究方法
対象疾患に対する、臨床的・疫学的・病理学的・分子生物学的解析を施行し、発症機序の解明・Evidence-based medicineに基づく治療法の確立に関して多方面からのアプローチを行う。
結果と考察
1. 肺気腫の疫学
日本において初めての、COPDの診断基準を定めた上での、病院受診患者を対象とした、全国規模の疫学調査を、疫学調査研究班との共同研究として施行した。一次調査の回収率は45%であり、COPDの型別の患者数は、慢性肺気腫15万人、慢性気管支炎14万人、混合型9万人と推定された。アジア太平洋地域におけるCOPDと_1AT欠損症の疫学に関するワークショップを開催した。この地域における_1AT欠損症症例の登録の必要性、_1AT遺伝子多型の共同研究、共通のCOPD診断ガイドラインの必要性が認識された。
2. 肺気腫の治療(臨床的検討)
呼吸理学療法に栄養療法を加えて在宅治療を施行した結果、よりよい改善が認められ、運動療法と栄養療法の併用の重要性が認識された。また、運動療法中にNPPVを施行することにより、運動耐容能の改善が認められ、補助換気と運動療法の併用の必要性も認識された。
重症肺気腫への呼吸リハビリテーションを含む最大限の包括的内科治療の効果と限界、特に薬物療法の最大効果を明らかにすることを目的として、全国19施設における前向き共同研究が進行中である。
外科的治療としてのVRS施行後4年までの成績を評価した結果、喫煙指数1000以下で両側手術例が長期的に呼吸機能を維持できる可能性が示唆された。
今後は、低肺機能に陥る前の手術開始時期に関する検討も必要と考えられた。
3. 肺気腫の治療(基礎的検討)
肺気腫を含めた、広く呼吸不全に対する分子生物学的研究をすすめている。慢性呼吸不全における、末梢臓器の組織低酸素状態を改善させる方法として、組織への酸素運搬能を担うヘモグロビン分子を、低酸素親和性に変異させる方法が考えられる。分子生物学的手法により、低酸素親和性ヘモグロビン症の一つであるPresbyterian型ヘモグロビンモデルマウスの作成に成功した。このマウスの筋組織の検討より、このマウスは組織へ効率よく酸素を運搬・供給できる能力を獲得したことが証明された。また、このマウスに、急性の低酸素暴露を施行した。Wild型マウスと比較して、組織酸素分圧と酸素消費量が高いことが認められ、低酸素環境下での組織の酸素化の改善が認められた。
4. 肺気腫の発症機序
(1) 基礎的検討:成熟マウスに喫煙を6ヶ月間継続されることにより、肺気腫モデルの作成に成功した。肺凍結組織標本から、Laser capture micro-dissection systemを用いて、終末細気管支上皮細胞を選択的に採取して、total RNAを抽出した。 そして、その極微量total RNAを均等に増幅させうる技術の開発を行った。
(2) 好中球の関与:気腫病変のある喫煙者では、肺胞上皮から産生・放出される上皮特異的マーカーであるCK-19(cytokeratin-19 fragment)の増加が認められた。好中球エラスターゼは、肺胞上皮細胞からCK-19を放出させることが知られており、肺気腫の発症初期において好中球が関与し、上皮細胞を刺激していることが示唆された。
(3) アポトーシスと細胞増殖の関与:VRSにより得られた肺組織の組織学的検討により、肺胞壁細胞において、アポトーシス促進性のBax蛋白が過剰に発現しており、アポトーシスの増加が観察された。また、アポトーシス細胞の割合は、一秒率と逆相関関係にあった。一方、細胞の増殖マーカーであるPCNA抗原も気腫化肺組織において増加していた。これらのことより、細胞の死と増殖の不均衡が肺気腫の発症と関係していることが示唆された。
(4) ウイルス感染の関与:非喫煙者、喫煙者、肺気腫患者のいずれにおける肺組織学的検討でも、アデノウイルスE1Aの存在が認められたが、同一肺葉内の分布は不均一であった。今後、肺気腫病変形成におけるアデノウイルス潜伏感染存在と上皮細胞からのIL-8産生との関係について検討する。
肺気腫の急性増悪時に、上気道分泌液よりインフルエンザウイルス・ライノウイルスなどが検出された。同時に、血中IL-6・ヒスタミン・ECP・可溶性ICAM-1の上昇、尿中LTE4の上昇を認め、呼吸器ウイルス感染と炎症性・気道収縮性物質との関係が示唆された。
(5) 内因性因子として、HOおよびCathepsin Sに関する遺伝子多型・変異に関する研究:HOは抗オキシダント作用を持つ。HOの誘導はHO-1遺伝子の上流に位置するGT反復配列で制御され、長いGT反復配列をもっていると、誘導の抑制がかかり、喫煙中のオキシダントに対する防禦能力が低下すると考えられる。肺気腫患者においては、長いGT反復配列をもつLの割合が高く、オキシダントによる細胞傷害を受けやすいことが示唆された。
好中球elastaseと同等の蛋白分解能力を有する肺胞マクロファージ由来のCathepsin Sに関する遺伝子変異を解析し、HRCTによる気腫病変との関係を検索した。変異のない野生型遺伝子を有する人が喫煙感受性群であること、遺伝子変異の強い人は喫煙非感受性群であることが認められ、Cathepsin S遺伝子変異は肺気腫における喫煙感受性を規定する内的因子の一つとして作用することが示唆された。
5. 肺気腫における病態評価
低酸素負荷時の換気抑制に、延髄孤束核における抑制性アミノ酸であるGABAが関与していること、このGABAergicな機構が機能するためには、頸動脈体からの刺激が必要であることが示された。GABAを介する機構は、COPDにおける高炭酸ガス血症の機序とも関連する可能性がある。
治療および病態評価として、疾患特異的健康関連QoLであるChronic Respiratory Disease Questionnaire(CRQ)およびSt. George Respiratory Questionnaire(SGRQ)を使用して、一般的QOLとしてSF-36を使用して、その評価を行った。治療効果・運動能力は、一部QOLの評価に反映してくることが認められた。
6. 肺胞低換気症候群・肥満低換気症候群の発症機序と病態
肥満低換気症候群・原発性肺胞低換気症候群の定義・疫学・病態・診断の手順・重症度分類・治療・QOL・今後の問題がまとめられた。
睡眠時無呼吸症候群に伴う組織低酸素は夜間の尿中尿酸排泄量で検出可能である。これは、組織低酸素に伴うATP異化を反映している。組織低酸素を認める症例では、心拍変動から求めた副交感神経活動を反映する指標の低下を認めた。すなわち、睡眠時無呼吸症候群における組織低酸素には心拍変動でみた循環応答の個体差が一部関与していることが示唆された。
閉塞型SAS患者では、血中のICAM-1、E-selectin、VCAM-1の高値が認められたが、CPAP治療によりICAM-1、E-selectinの低下が認められた。また、ICAM-1濃度は無呼吸低呼吸指数との相関がみられた。接着分子は動脈硬化の発症・進展に重要な因子であり、SASは動脈硬化の発症・進展に関与している可能性が示唆された。
結論
肺気腫の成因に関して、喫煙感受性の問題を中心にして、遺伝子レベルでの解析を加えた基礎的・臨床的研究の継続が必要である。肺気腫に対する呼吸リハビリテーションを含む最大限の包括的内科治療の効果と限界に関して研究を継続中である。外科的な肺容量減少手術に関しては、早期の適応基準の模索が今後必要である。呼吸不全に対する新しい治療法の探求は、分子生物学的手法を駆使して、さらに続ける必要がある。低換気症候群の定義・疫学・病態・診断の手順・重症度分類・治療・QOL・今後の問題に関する試案を作成したので、完成に向けて努力する。呼吸不全に対するHRQoLの評価は、医療の評価として有用と考えられたので、さらに介入試験が必要である。

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