非A非B型肝炎の臨床的総合研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000543A
報告書区分
総括
研究課題名
非A非B型肝炎の臨床的総合研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
飯野 四郎(聖マリアンナ医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 熊田博光(虎ノ門病院)
  • 清澤研道(信州大学)
  • 小林健一(金沢大学)
  • 各務伸一(愛知医科大学)
  • 岡上武(京都府立医科大学)
  • 林紀夫(大阪大学)
  • 恩地森一(愛媛大学)
  • 佐田通夫(久留米大学)
  • 矢野右人(国立長崎中央病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
35,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
今年度は、研究班の統一調査として、月間肝外来受診者調査、肝外来担当医師の治療に関する意識調査、C型肝炎治療マニュアル作成のためのコンセンサス作り、HCV無症候性キャリアの追跡調査、を行った。
個別の研究としては、インターフェロン(IFN)とリバビリン(Riba)の併用効果を評価する。IFNの効果の長期観察による分析、HCV感染と肝発癌に関与する諸現象の解明、など多彩な研究を実効あるものとすることを目的とした。
研究方法
統一研究は班員・班友に対するアンケート調査によって行った。
個別研究は、班員・班友の創意を生かした研究が年度初めに示した研究目標に従って行われた。
結果と考察
・肝外来受診患者実態調査
平成12年10月に12施設の肝外来を受診した患者数は11,171例で、B型肝炎およびC型肝炎はそれぞれ、23.3%、64.4%を占めていた。HBV/HCV比は3.45であったが、肝細胞癌(HCC)のみでみると5.66であった。C型肝炎のみを病期別にみると、慢性肝炎(CH)、肝硬変(LC)、HCCの比は63.6%、21.9%、14.5%であった。
・肝外来担当者の意識調査 
C型肝炎治療指針作成するためのアンケート調査を行った。回答者80名。基本的にはIFN治療を行うべきであり、効果判定はHCV RNAの陰性化およびALTの正常化で行い、HCV排除効果向上にはリバビリンの併用とIFN投与期間の延長が必要であり、IFN療法の説明では患者の副作用に対する懸念に苦慮しているということで考え方はほぼ一致していた。また、IFN以外の対症療法についてもできるだけALTを低値に保つべきとする意見で一致していた。
C型急性肝炎(AH)のIFN治療については意見は様々であった。そこで、各施設のIFN投与例を提示し、集中討議を行い、コンセンサスを得た。その結果は以下の通りである。・92例中72例(78.3%)でHCVが排除された。・効果に対するHCV RNA量、HCV遺伝子型の影響はCHに比して少ない。・投与時期は発症後3カ月~2年が適切。・IFNの投与方法はCHのそれに準ずる。・無症候化した例は対象としない。
・HCV無症候性キャリア(ASC)の追跡調査
男性128例、女性349例の追跡例が報告された。観察期間は男女ともに5年弱であった。この間のALT異常発現率は男36%、女29%で、その年齢分布は男女とも均一であった。HCV RNA量、HCV遺伝子型とALT異常発現率に関連性はなかった。女性でHb値とALT異常発現率の間に関連性はなかった。
・IFNとリバビリン(Riba)の併用効果
IFNにRibaを併用することによって、遺伝子型1bでHCV RNAが高値(bDNA法で1 Meq/ml以上またはAmplicor-moniter法で100 K copies /ml以上)例で、IFN単独例でのHCV排除率6~8%が、20%以上に向上した。また、別の比較試験も加えて推定すると、1b低値例および2a、2b、では、IFN単独での排除率約50%が、70%以上に、全体では29%から45%以上となると考えられる。また、IFNの一日投与量を10MUから6MUに減量が可能で、経済的にも、副作用の点からも好ましい結果であった。
・IFN投与例の検討
IFN・Riba併用時の血中HCV RNA動態はIFN単独の場合と同様であり、Ribaは抗ウイルス作用によりIFNの効果を増強しているのではないことが示された。
IFN投与1,356例を平均5年間追跡調査し、発癌抑制効果を検討すると、著効・一過性有効の例で無効例に比して有意に発癌率が低く、無効例でもALT低値例で発癌率が低かった。
IFN著効47例を平均6年8カ月追跡調査し、16例で5年以降に肝生検を行った。肝病変は明らかに改善していた。また、47例中1例に6年8カ月後に再感染がみられた。
IFNの効果と肝細胞におけるHLAクラスI抗原提示機構関連分子low molecular mass polypeptide (LMP)7の遺伝子多型性が関与し、LMP7KはLMP7Qに比して著効と強く関連していた。
ミトコンドリアDNAの変異は大腸癌で認められる。HCCで検討した結果、その悪性度に向かって変異数が増加した。また、IFN投与例で同様に検討するとCHでも既に変異が存在し、IFN投与で変異数が減少することが認められ、 IFN投与後の発癌抑制に関連している可能性がある。
・HCV感染の病態分析
HCV感染者の血中HCVにはRNAを伴わない中空粒子が存在する。肝小葉内のHCV分布には部位による差はない。HCV NS2超可変領域(HVR)の865クローンの塩基配列を検討すると一定のアミノ酸残基に一定傾向の不変性、可変性が認められ、立体構造が維持されていると推定された。HCV感染者の末梢単核球はアポトーシスが亢進しており、HCVの持続感染と関係していると考えられる。HCV感染者では樹状細胞の機能低下がHCV持続感染に関係していると推察されるが、この機能低下は同細胞内でのタンパク輸送障害が関与している可能性がある。HCV感染例では糖尿病の合併が高率であり、インシュリン抵抗性がCHの段階から認められ、抵抗性はAST値、TNFα値と関連している。C型肝硬変の発癌の危険因子を多変量分析で検討すると、性、年齢、AFP値、血小板数の順に関係する。男性、55歳以上、AFP 20ng/ml以上、血小板10万未満、である。
・SENウイルス
SENウイルスはTTVの近縁ウイルスであり、日本人の23%にDNAが検出され、肝疾患との関連性は見い出せなかった。
・E型肝炎
国立病院急性肝炎共同研究班の非ABC肝炎242例中4例(1.7%)にIgM・HE抗体が、IgG・HE抗体が45例(18.6%)に検出された。日本にもE型肝炎が存在した可能性を示唆する所見である。
結論
1. 肝外来受診患者実態調査:受診患者の64%はC型肝炎であり、とくにC型肝細胞癌患者がB型のそれの5.7倍であった。
2. 肝外来担当専門医の意識調査:C型肝炎治療についてのコンセンサスが得られた。
3. 無症候性キャリアの長期観察:肝細胞癌の性差は無症候性キャリアのそれの反映である。無症候性キャリアの多くは予後良好である可能性がある。
4. インターフェロン・リバビリン併用療法:インターフェロン単独に比して1.5倍以上のHCV排除率(45%)が得られる可能性が、また、インターフェロン投与量を2/3以下に減らせる可能性が示された。
5. インターフェロンの長期効果:HCV排除例では組織学的にも改善していることが確認された。 HCV非排除例でもALT値に関連して発癌抑制がみられた。
6. HCV感染に関する病態解明:肝病変の進展に伴うミトコンドリアDNA変異の蓄積、遺伝子を欠くHCVの存在、小葉内HCV分布、NS5B遺伝子変異とHCV増殖、HCV感染に伴う樹状細胞機能不全、超可変領域の変異特性、など多くの有益な情報が得られた。

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