髄膜炎菌性髄膜炎の発生動向調査及び検出方法の研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000522A
報告書区分
総括
研究課題名
髄膜炎菌性髄膜炎の発生動向調査及び検出方法の研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
山井 志朗(神奈川県衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 渡邉治雄(国立感染症研究所)
  • 嶋田甚五郎(聖マリアンナ医科大学)
  • 井上博雄(愛媛県立衛生環境研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
21,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
髄膜炎菌感染症の発生を迅速に把握するための検査法の検討と普及を行い、流行の発生と耐性菌出現に対する監視体制を確立して、より正確な情報の収集を目指す。さらに、わが国における患者の発生とその病態、健康保菌者の実態の把握並びに分離される菌の疫学マーカーや病原性等の性状を解析することにより、これまでに得られなかった髄膜炎菌性髄膜炎に関する基礎的データを蓄積して、流行発生の可能性やワクチン導入の必要性を探ることを目的としている。
研究方法
1)髄膜炎菌の検査法を検討してその標準化を試み、これを全国の衛生研究所に普及することにより検査体制と菌株情報収集体制の確立を図った。さらに、疫学マーカーなどとして利用される群別のための血清の作製を試みた。2)代表的な6地方衛生研究所(福島県衛生公害研究所、神奈川県衛生研究所、石川県保健環境センター、香川県衛生研究所、愛媛県立衛生環境研究所および大分県衛生環境センター)において、健康者の咽頭粘液から髄膜炎菌の分離を試み、健康保菌者の実態を調査した。3)全国の医療機関の協力を得て、呼吸器感染症患者の鼻咽頭粘液から髄膜炎菌の検出を試み、保菌状況を調査した。4)全国の主要な医療機関に対してアンケート調査を行い、患者の病型の分布等に関する実態を調査した。5)迅速な診断法あるいは原因菌検出が困難な検査材料からの検査法としてのPCR法の基礎的検討として、髄液あるいは血液の前処理法を検討した。6)医療機関における髄膜炎菌感染症の監視体制確立の試みとして、患者発生動向を調査した。7)分子疫学マーカー(MLSTおよび血清型)の導入を試み、患者および健康保菌者に由来する分離収集保存株について解析した。8)患者及び健康保菌者に由来する分離株の薬剤感受性値を測定し、感受性が低下した株や耐性株の存在を調査した。
結果と考察
1)地方衛生研究所に髄膜炎菌検査法を普及して検査体制を確立するために、標準的に使用することが可能な検査法を検討し、これに基づいて検査法マニュアルを作成した。このマニュアルを用い、全国4ヶ所において各2日間の日程で31地方衛生研究所の41人の細菌検査担当者を対象にして検査法の研修会を開催し、検査法の普及を図った。また、疫学的解析に必要な血清群別用血清を国内で安定的に供給するために作製を試みたが、群により反応に差があり、さらに高力価の血清の作製が必要であることが示唆された。2)対象を主として高校、短大、大学等の学生とし、1,711人(男性458人、女性1,253人)から咽頭粘液を採取とした。このうち5人(0.3%)から髄膜炎菌が検出された。この結果は欧米等の調査結果と比較して低いものであった。3)呼吸器感染症患者における保菌を調査したが、1,200人の鼻咽頭検体から髄膜炎菌は検出されなかった。4)患者の病態、病型の発生状況や分布等を調査するために、2,257病院に対して細菌性髄膜炎患者および髄膜炎菌の検出状況等をアンケートにより調査した。現在集計中であり、途中経過であるが126施設のうち過去10年間で17施設が髄膜炎菌感染症の患者を経験し、髄膜炎症状が11症例、敗血症・DIC症状が7症例、呼吸器症状が1例であった。5)患者の髄液および血液からPCR法で診断するための基礎的検討として、PCR法の阻害物質を除去する前処理法の有効性を検討したところ、血液は1 μl、髄液は10 μlまで検査可能であった。6)病院における監視体制の検討として、聖マリアンナ医科大学付属病院に2000年6月以降に髄膜炎で入院した患者を精査したが髄膜炎菌性髄膜炎患者はなく、肺炎と敗血症を主徴とする髄膜炎菌感染患者が見られ
た。7)髄膜炎菌感染症に関する疫学調査、流行株の解析、健康者の保菌状況の解析等に用いる疫学マーカー(Multilocus Sequence Typing (MLST)、 SerotypingおよびSerosubtyping)の手法の導入を図った。MLSTは参照株について正しい結果が得られ、健康保菌者由来株ではこれまでに報告されていないタイプであった。SerotypingおよびSerosubtypingでは48株を調べたところ27パターンが得られ、あるパターンを示す複数の株が限定された地域で検出されていたことが明らかとなった。8)耐性菌の存在や感受性の低下の動向を調べるために収集株の各種抗生剤に対する感受性値を測定した。PCG、ABPC、CEZおよびEMに感受性低下株があり、PCGでは30.7%、 EMでは4.8%が中等度耐性であった。さらに7株がTCに対して耐性であった。SMXでは約70%の株が耐性を示した。CXM、CTX、NFLX、CP、RFPにはすべて感受性であった。
結論
本研究は、髄膜炎菌感染症の監視体制並びにより一層正確な情報の収集が可能となる体制の強化を図り、また患者発生の実態や流行発生の可能性を探ることを目的としている。そこで、地方衛生研究所への検査法の普及による検査体制の確立、髄膜炎菌感染症の検査法並びに検査室レベルの診断法の検討、型別法の導入、分離菌株の薬剤感受性測定、患者の病態の分布の把握、健康保菌者の実態の把握を行った。
検査体制の確立と新たな診断法の導入により、髄膜炎菌感染症の監視体制並びに情報収集体制の強化が図られることが期待される。さらにこの体制の強化とともに、型別法の導入、薬剤感受性測定、病態の把握および健康保菌者の把握により、髄膜炎菌感染症患者の発生の実態の把握、流行の存在の把握、流行予測、治療法の方針の確立が成果として結果的に行われることが期待される。

公開日・更新日

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