文献情報
文献番号
200000495A
報告書区分
総括
研究課題名
抗酸化能を有する組換えアルブミンの創剤設計(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
小田切 優樹(熊本大学薬学部)
研究分担者(所属機関)
- 棚瀬純男(熊本大学医学部)
- 山口一成(熊本大学医学部附属病院)
- 福澤健治(徳島大学薬学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 高度先端医療研究事業(人工血液開発研究分野)
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
抗酸化能アルブミンは、抗酸化作用を主目的として使用されるのではなく、アルブミンを必要とする患者に対し、活性酸素種が多くの疾患の増悪因子となっていることからアルブミンを使用しながら、併せて多くの疾患の併発を防ぐとともに、治療期間の短縮を図るものである。したがって、抗酸化能アルブミンを用いることにより、アルブミン本来の役割である浸透圧維持作用に加え、新しい機能の付予により、多くの疾患の治療や再発防止に有効性が期待されるとともに、アルブミン製剤の使用量は明らかに低下すると期待され、医療関係上の意義は大きいものと考えられる。
そこで、本研究では、アルブミン本来の浸透圧維持作用を損なうことなく、血中滞留性に優れ、かつ抗酸化能を有した、医学的有効性に優れたアルブミン製剤の開発を目的として以下の検討を行なった。
そこで、本研究では、アルブミン本来の浸透圧維持作用を損なうことなく、血中滞留性に優れ、かつ抗酸化能を有した、医学的有効性に優れたアルブミン製剤の開発を目的として以下の検討を行なった。
研究方法
本研究は、主任研究者の小田切と、それぞれの分担研究者が直接討議あるいはメール等で情報交換しながら、遂行された。すなわち、アルブミン変異体は棚瀬により作製された。また、酸化アルブミンは福澤により調製され、各種スペクトル法、熱分析法および生物学的試験によりこれらアルブミンの純度検定、構造、機能、動態特性が評価された。加えて、山口によりアルブミン変異体の薬物結合能、エステラーゼ活性、生体内挙動などが調べられ、血漿由来のアルブミンと比較検討された。また、丸山によりアルブミン製剤中の添加剤の抗酸化能が評価された。
結果と考察
【組換えアルブミンの構造特性と機能評価】Pichia pastorisを用いたHSAの大量調製法を確立した。得られた変異体(K199M, K525M, R218M)について、遠紫外領域CDスペクトル、1H-NMRスペクトル、抗HSAポリクローナル抗体を用いて検討した結果、二次構造、三次構造及び抗体の認識性にいずれの変異体とnative-HSAの間で有意な差は観察されなかった。化学的安定性、熱安定性についての各パラメータは変異体とnative-HSAともに同様の値を示し、両者に有意な差は認められなかった。また、熱変性時の転移過程においても両者間に差異はないものと思われた。さらに、カプリル酸(Capl)やN-アセチルトリプトファン(NAcTrp)添加時において、化学的安定性、熱安定性の増大が観察された。また、いずれのアルブミンも低温殺菌により安定性を大きく失うことが確認されたが、この安定性の低下は変異体とnative-HSAともにCapl、NAcTrp添加により改善された。次に、変異体の薬物結合特性及びエステラーゼ類似作用について検討した。結合サイトの微粘性において若干の違いは観察されたものの、蛍光置換実験、立体選択性及びN-B転移に伴う結合特性の結果から、変異アルブミン分子上の薬物結合サイトの存在様式はnative-HSAとほぼ同様である可能性が示唆された。また、エステラーゼ類似作用について、両者がともに同程度の活性を示したことから、その活性残基と言われている411位のチロシン残基周辺の環境は両者の間で差異はないものと推察された。加えて、変異体の動態特性はnative-HSAと殆ど変わらず、変異体の安全性が裏付けられた。
【酸化アルブミンの構造特性と機能評価】HSAの酸化標的部位を探るべく、HSAを クロラミンーT(CT-HSA)処理により調製し、酸化剤濃度依存的酸化HSAの構造及び機能特性を未処理HSAと比較検討した。 各種分光学的方法などを駆使して、酸化に伴うHSAの構造、機能、動態変化を評価した。高濃度(10, 50mM)のCT-HSAの立体構造はネイティブな二次構造の大部分が保持されているものの、三次構造は崩れた特殊な状態にあるものと推察された。また、この時の機能変化を評価した結果、従来のCys残基に加え、Met残基の存在の有無が、薬物結合性やエステラーゼ様活性などのアルブミンの保持に重要な役割を担っていることが強く示唆された。また、酸化反応がアルブミンの寿命に影響を及ぼすことが明らかとなった。生体内からの消失の促進は、肝臓のみの取り込みの増大から、肝表面に存在する翻訳後修飾蛋白質を認識するスカベンジャー受容体に認識され、血中より肝臓中へ促進的に取り込まれるようになったことが強く示唆された。今後、これらの評価法についても肝スカベンジャーレセプターを発現させた細胞系を用いて詳細に検討する必要があると考えられる。また、部位特異的変異法を駆使して、Metに加え、Cysのミュータントを作製し、抗酸化能の評価も同時に行っていく予定である。
【N-アセチル-L-トリプトファンの抗酸化効果】CaplとN-AcTrpの併用は、HSAの酸化を抑制することが明らかになったことから、現在、市販されているアルブミン製剤に処方されているCaplは、安定化剤として働き、N-AcTrpは保存的な役割を果たしているものと考えられた。長期的な構造的安定性の検討や安全性試験などの今後の課題は残すものの、これらの知見は、高品質なアルブミン製剤を構築する上で重要な基礎資料になるものと思われる。
【酸化アルブミンの構造特性と機能評価】HSAの酸化標的部位を探るべく、HSAを クロラミンーT(CT-HSA)処理により調製し、酸化剤濃度依存的酸化HSAの構造及び機能特性を未処理HSAと比較検討した。 各種分光学的方法などを駆使して、酸化に伴うHSAの構造、機能、動態変化を評価した。高濃度(10, 50mM)のCT-HSAの立体構造はネイティブな二次構造の大部分が保持されているものの、三次構造は崩れた特殊な状態にあるものと推察された。また、この時の機能変化を評価した結果、従来のCys残基に加え、Met残基の存在の有無が、薬物結合性やエステラーゼ様活性などのアルブミンの保持に重要な役割を担っていることが強く示唆された。また、酸化反応がアルブミンの寿命に影響を及ぼすことが明らかとなった。生体内からの消失の促進は、肝臓のみの取り込みの増大から、肝表面に存在する翻訳後修飾蛋白質を認識するスカベンジャー受容体に認識され、血中より肝臓中へ促進的に取り込まれるようになったことが強く示唆された。今後、これらの評価法についても肝スカベンジャーレセプターを発現させた細胞系を用いて詳細に検討する必要があると考えられる。また、部位特異的変異法を駆使して、Metに加え、Cysのミュータントを作製し、抗酸化能の評価も同時に行っていく予定である。
【N-アセチル-L-トリプトファンの抗酸化効果】CaplとN-AcTrpの併用は、HSAの酸化を抑制することが明らかになったことから、現在、市販されているアルブミン製剤に処方されているCaplは、安定化剤として働き、N-AcTrpは保存的な役割を果たしているものと考えられた。長期的な構造的安定性の検討や安全性試験などの今後の課題は残すものの、これらの知見は、高品質なアルブミン製剤を構築する上で重要な基礎資料になるものと思われる。
結論
本研究は、当研究室において構築された遺伝子技術を基に、アルブミン本来の役割である浸透圧作用に加え、抗酸化作用が付与された、安全性及び有効性に優れたアルブミンを開発することを目的として実施された。すなわち、前年度の結果に基づき、まず、HSAの構造と機能に及ぼす酸化の影響を詳細に検討した。次いで、HSA分子の199-,525-Lys, 218-ArgをMetに置換した変異体を作製し、その構造と機能について検討を加えた。また、現在、アルブミン製剤中に添加されているN-アセチル-L-トリプトファンの抗酸化作用について検討した。その結果、今回作製した変異体で所期の目的が達せられず、マルチプルな変異体についての検討が今後の課題となった。これらの知見を基に、最終目標の抗酸化能を有するアルブミン製剤の開発への道を拓く成果を挙げるべく鋭意努力する所存である。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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