文献情報
文献番号
200000494A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒトB細胞由来の抗体作製に関する研究(総括報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
垣生 園子(東海大学医学部)
研究分担者(所属機関)
- 猪子英俊(東海大学医学部)
- 橘 祐司(東海大学医学部)
- 佐藤健人(東海大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 高度先端医療研究事業(人工血液開発研究分野)
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
ヒト型抗体は、有効な治療法がないウイルス疾患、自己免疫病或いは移植に新しい治療法を提供出きると期待されている。しかし、現存するヒト・キメラ抗体やヒト抗体遺伝子をもつマウス由来のいわゆるヒト型化抗体では、マウスのアミノ酸配列やマウス型糖鎖を含むため、有効性や安全性の面から問題が残っている。この点を克服することを目指して、本研究ではヒトB細胞由来のモノクロナール抗体を得ることを、2つの側面からアプローチしている。本年度は昨年開発した遺伝子工学的手法を駆使して、新らたに感染症の病原体に対する抗体を患者の末梢ヒトB細胞から作製した遺伝子ライブラリーから得る。加えてすでに得られた抗体遺伝子について、量産の方法および高親和性の獲得を試みる。一方では、希望する抗原特異的抗体を産生できるように、B細胞を含むヒト免疫系が再構築されたモデル動物を作製し、抗原刺激を加えて抗原特異的抗体産生を試みる。
研究方法
1.昨年までに確立した遺伝子工学的手法により、トキソプラズマおよび熱帯熱マラリア感染症患者から採取した末梢ヒトB細胞から直接RT-PCR法で抗原遺伝子ライブラリーを作製する。続いて、その遺伝子産物に関してコロニーウエスタンブロット法を施行し、特異性をスクリーニングして新たなモノクローン抗体を2.昨年までの研究で得た抗体分子の生物活性を、虫体への接着、虫体による赤血球貪食能で調べる。3.作製抗体の親和性亢進への試み:作製した4抗体遺伝子のL鎖における1アミノ酸の置換を、変異配列を含むプライマーを用いたリコンビネーションPCRで抗体遺伝子を増幅しておこなう。3.効率的な抗体分子の獲得:イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィーを組み合わせて検討する。4.ヒト造血幹細胞移植NOD-SCIDマウスによる抗原特異的抗体産生の誘導:ヒトCD34+細胞移植後6週間目のマウスをT細胞依存性抗原(DNP-KLH)で刺激をし、さらにヘルパーT細胞を代替するため抗ヒトCD40抗体を投与する。経時的に、親和性の高い抗原特異的IgG抗体産生の状態を、血清を用いてELISA法で検討する。
結果と考察
1.トキソプラズマ症および熱帯熱マラリア患者の末梢血から、遺伝子工学的手法により虫体と反応するクローンを各々2株と1株得た。これらの特異性および活性については、現在解析中である。2.昨年度までに得たヒトB細胞から作製した抗体遺伝子ライブラリー由来抗体の機能活性:無症候性赤痢アメーバ嚢子輩出者およびアメーバ性肝膿瘍患者の抗体遺伝子ライブラリーからコロニーウエスタンブロット法により選択されたFab抗体は、赤痢アメーバ虫体によるヒト赤血球貪食嚢やCHO細胞への接着能を阻止した。3.高親和性抗体への改変:赤痢アメーバ虫体に対する抗体の1つのL鎖CDR3の8番目にアルギニンを他のアミノ酸に置換し、抗虫体抗体を産生していたクローンをBIACORE解析すると、最も親和性の高いクローンはバリンあるいはフェニールアラニンに置換されたものであった。4.昨年作製した抗体(抗HBsおよび抗TNFa抗体)の量産の試み:(a)L鎖とH鎖の合成を1つのプロモーターでドライブした方が量産できることが判明した。(b) 抗体を疎水性カラムに吸着する際硫安濃度を低下させ、溶出後の液を陽イオン交換カラムで精製することによって、純粋に効率よく抗体を精製することができた。5.ヒト免疫系再構築を試みたモデルマウスに、TD抗原であるDNP-KLHを免疫すると、抗CD40抗体投与を受けた場合に、抗原特異的なヒトB細胞由来のIgG抗体が検出された。しかし、同抗原をマウスに免疫した場合に比較すると、1/1000以下であった。以上の結果は、これま
で懸案であったヒト型抗体を病原体感染患者由来のヒトB細胞から遺伝子工学的手法により得られることを示したばかりでなく、親和性の高い或いは効率良い抗体をえられることが証明され、抗体後量への応用が実現される期待を強めた。また、作製されたモデルマウスで抗原特異的ヒト型IgG抗体産生が誘導された今回の結果は、抗体価および量に関して検討の余地を残しているが、感染患者に頼らなくても希望する抗体が作製され得る系が開発されたことを意味しており、今後のさら成る改良と活用が期待される。
で懸案であったヒト型抗体を病原体感染患者由来のヒトB細胞から遺伝子工学的手法により得られることを示したばかりでなく、親和性の高い或いは効率良い抗体をえられることが証明され、抗体後量への応用が実現される期待を強めた。また、作製されたモデルマウスで抗原特異的ヒト型IgG抗体産生が誘導された今回の結果は、抗体価および量に関して検討の余地を残しているが、感染患者に頼らなくても希望する抗体が作製され得る系が開発されたことを意味しており、今後のさら成る改良と活用が期待される。
結論
遺伝子工学的手法を組み合わせることにより、新たにトキソプラズマと熱帯熱マラリア感染症の患者末梢血からB細胞を得てモノクロナール抗体を得た。これまでにクローニングして来たヒトモノクロナール抗体の中には、病原体の機能阻止をもつものを見出した。さらに、CDRのアミノ酸を置換することによって作製した抗体の親和性を高めることに成功した。また、実用的な観点から問題となっている抗体の量産についての検討では、プロモーターに関して抗体産生ベクターを改良する一方、作製されたFab抗体の精製方法を改良することにより、従来法より効率の良い結果を得た。本研究のもう1つの柱である、希望する抗体を産生するヒトB細胞が、ヒト免疫系再構築モデルマウスで得られることが世界ではじめて証明された。しかもそのヒト抗体は抗原特異的IgG抗体であったので、治療に有用な抗体産生のモデルマウスを作製することに精巧知多と考える。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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