文献情報
文献番号
200000487A
報告書区分
総括
研究課題名
臨床応用を目的とした生体機能代替可能な人工赤血球の開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
北畠 顕(北海道大学大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
- 佐久間一郎(北海道大学医学部附属病院)
- 藤井 聡(北海道大学医学部附属病院)
- 仲井邦彦(東北大学大学院医学系研究科)
- 藤堂 省(北海道大学大学院医学研究科)
- 劔物 修(北海道大学大学院医学研究科教授)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 高度先端医療研究事業(人工血液開発研究分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究班では平成11年度までに人工赤血球として、高圧ジェット流反転型乳化機を用いた各種新規パーフルオロケミカル(PFC)製剤と、ヘモグロビン(Hb)修飾体としてポリエチレングリコール(PEG)修飾HbさらにSNO-PEG-Hbを創製した。平成12年度からはその臨床応用を企図した研究を推進するべく、まず人工赤血球の臨床応用に向けた戦略の策定を行い、次いでHb修飾体に関しては、SNO-PEG-HbおよびPEG-Hbの毒性試験、血小板活性化評価、イヌ原虫感染症における急性貧血への投与の有用性の検討を行った。PFC製剤に関しては、その酸素供給能確認実験、大動物(イヌ)を用いた開心術シュミレート実験、移植臓器保護液への応用の検討を行った。
研究方法
人工赤血球の臨床応用に向けた戦略の策定は、ヒューマンサイエンス振興財団招へい外国人研究者米国ノースウエスタン大学医学部輸血部長の照屋純博士と本研究班分担研究者が米国の人工血液開発の現況とその臨床応用の可能性について討論した。Hb修飾体の毒性試験としては、ラットに全血液量の30%に相当する各種Hb系人工赤血球を単回投与し、投与後1、3、7日目に肝臓および腎臓について生化学的および病理組織学的検査を実施した。血小板活性化は、in vivoおよびin vitroでレーザー散乱型血小板凝集能測定装置やフローサイトメトリーを用いて血小板凝集能や血小板CD62P発現を検索した。イヌ原虫感染症における急性貧血への投与の有用性の検討では、イヌをバベシアに感染させて急性貧血を惹起し、PEG-Hbを投与した群と無処置の群で比較検討した。各種PFC製剤は研究協力者神戸学院大学薬学部福島昭二講師により、N社が構築した大規模生産プラントで製作され供給された。PFC製剤の酸素供給能確認実験は、30%PEG修飾PFC製剤について、近赤外分光法を用いた脳組織内ミトコンドリア酸素濃度測定によりラット血液70%置換モデルで酸素供与能を評価した。イヌを用いた開心術シュミレート実験ではビーグル犬を用い、人工心肺を装着した状態で失血によりヘマトクリットを15%に低下させ、40%PEG修飾PFC製剤を投与しない場合、1.5%もしくは15%投与した場合で呼吸代謝状態を比較した。PFC製剤の移植臓器保護液への応用の検討としては、ラットを用いた摘出肝温粗血条件実験を行い、50%PEG修飾PFC製剤を20%添加した灌流液と含まない灌流液で保存した後、再灌流を行って肝細胞および門脈血流を検索した。
結果と考察
人工赤血球の臨床応用に向けた戦略の策定では、臨床応用の可能性が存在するものの、その実用化には医療経済学的検討が必要であり、そのためには毒性試験など前臨床試験の実施は勿論のこと、人工赤血球の適応があって需要が見込まれる病態の特定とそのシュミレーションモデルでの検討が重要であることが確認された。Hb修飾体の毒性試験では、肝機能および腎機能の変化を観察した結果、SNO-PEG-Hbは十分な生体適合性を有していることが示された。PEG-Hbにおいてはある程度の侵襲が示唆されたが、許容範囲内と考えられた。また、SNO-HbはNOの血小板凝集抑制作用により、PEG-Hb修飾体はPEGの分子バリアー効果により、無修飾Hbに比べ血小板活性化作用が少ないことが示された。イヌのバベシア感染症による急性貧血に対しては、PEG-Hbを投与することにより臨床経過が改善され、原虫感染症に起因する急性貧血治療に対するHb系人工赤血球製剤の臨床的有効性が確認された。PFC製剤の酸素供給
能確認実験では、30%PEG修飾PFC製剤が70%血液置換ラットモデルにおいて、生体内の酸素供給能からみて従来のFluosol-DAを凌駕する製剤であることが明かとなった。ビーグル犬を用いた人工心肺装着手術シュミレート実験では、40%PEG修飾PFC製剤を最終血中濃度として約15%となるべく使用することにより、術中失血(ヘマトクリット15%)で生ずる乳酸濃度上昇、血液酸性化が回避され、失血による全身循環・代謝の悪化を改善可能であることが明らかとなった。PFC製剤の移植臓器保護液への応用の検討では、ラットを用いた温粗血条件実験では、50%PEG修飾PFC製剤を20%添加し、さらにそれを酸素でバブリングした溶液中で単離肝を保存することより、灌流停止および再灌流による障害から肝細胞を保護することが可能であることが示された。同種血輸血で問題となる重篤な副作用には、肝炎やエイズなどのウイルス感染以外に、溶血、細菌汚染、TRALI、抗体形成など予知が不可能でしかも臨床的に無視できないものが少なくない。人工赤血球は半減期が短いため、慢性貧血には適応はないと考えられるが、上述の観点から手術時の同種血輸血回避、また輸血拒否者への対策、事故や大災害時への対応、さらに赤血球抗体保持者への緊急手術、赤血球膜抗原による自己免疫性貧血やマラリアなどの原虫性疾患による急性貧血の急性期治療などにおいてその臨床使用の意義は十分存在すると考えられる。しかし、人工赤血球の生体適合性の課題は依然として重要であり、十分な基礎研究や毒性試験遂行が求められる。本研究班では、前年度まで、Hb修飾体系人工赤血球ではヘムのNO消去作用による血圧上昇や血小板活性化が問題となることを示し、分子サイズを考慮したPEG-HbをさらにSNO化したSNO-PEG-Hbが最適であると考え検討を行ってきた。本年度はまず各種Hb系人工赤血球をラットに静注して毒性試験を行い、肝臓と腎臓に対してはSNO-PEG-Hbが一番影響が少ないことを確認した。一方本研究班では、Hb系人工赤血球ではHbの安定供給が今後課題となることも予想されるため、全合成物であるPFC製剤を新たに創製をしてきた。本年度の検討では、新規製剤は現在のPFC製剤で問題となっている血小板活性化が弱いことを確認した。臨床応用を企図した人工赤血球開発では、臨床をシュミレートした実験系において製剤の有用性を実証し、臨床治験着手への可能性を探る必要がある。本年度は、PFC製剤については、小児心臓手術における人工心肺装着時の同種血輸血回避をめざした実験、および脳死肝移植時のdonor肝用保護液への添加実験を施行した。いずれの実験系においてもPFC製剤の有用性が確認されつつある。また、Hb系製剤については、犬の原虫感染症による急性貧血への臨床応用実験を施行し、有用性を確認した。
能確認実験では、30%PEG修飾PFC製剤が70%血液置換ラットモデルにおいて、生体内の酸素供給能からみて従来のFluosol-DAを凌駕する製剤であることが明かとなった。ビーグル犬を用いた人工心肺装着手術シュミレート実験では、40%PEG修飾PFC製剤を最終血中濃度として約15%となるべく使用することにより、術中失血(ヘマトクリット15%)で生ずる乳酸濃度上昇、血液酸性化が回避され、失血による全身循環・代謝の悪化を改善可能であることが明らかとなった。PFC製剤の移植臓器保護液への応用の検討では、ラットを用いた温粗血条件実験では、50%PEG修飾PFC製剤を20%添加し、さらにそれを酸素でバブリングした溶液中で単離肝を保存することより、灌流停止および再灌流による障害から肝細胞を保護することが可能であることが示された。同種血輸血で問題となる重篤な副作用には、肝炎やエイズなどのウイルス感染以外に、溶血、細菌汚染、TRALI、抗体形成など予知が不可能でしかも臨床的に無視できないものが少なくない。人工赤血球は半減期が短いため、慢性貧血には適応はないと考えられるが、上述の観点から手術時の同種血輸血回避、また輸血拒否者への対策、事故や大災害時への対応、さらに赤血球抗体保持者への緊急手術、赤血球膜抗原による自己免疫性貧血やマラリアなどの原虫性疾患による急性貧血の急性期治療などにおいてその臨床使用の意義は十分存在すると考えられる。しかし、人工赤血球の生体適合性の課題は依然として重要であり、十分な基礎研究や毒性試験遂行が求められる。本研究班では、前年度まで、Hb修飾体系人工赤血球ではヘムのNO消去作用による血圧上昇や血小板活性化が問題となることを示し、分子サイズを考慮したPEG-HbをさらにSNO化したSNO-PEG-Hbが最適であると考え検討を行ってきた。本年度はまず各種Hb系人工赤血球をラットに静注して毒性試験を行い、肝臓と腎臓に対してはSNO-PEG-Hbが一番影響が少ないことを確認した。一方本研究班では、Hb系人工赤血球ではHbの安定供給が今後課題となることも予想されるため、全合成物であるPFC製剤を新たに創製をしてきた。本年度の検討では、新規製剤は現在のPFC製剤で問題となっている血小板活性化が弱いことを確認した。臨床応用を企図した人工赤血球開発では、臨床をシュミレートした実験系において製剤の有用性を実証し、臨床治験着手への可能性を探る必要がある。本年度は、PFC製剤については、小児心臓手術における人工心肺装着時の同種血輸血回避をめざした実験、および脳死肝移植時のdonor肝用保護液への添加実験を施行した。いずれの実験系においてもPFC製剤の有用性が確認されつつある。また、Hb系製剤については、犬の原虫感染症による急性貧血への臨床応用実験を施行し、有用性を確認した。
結論
現在開発中の新規製剤が、臨床的な各種適応病態において有用であることが確認されたことは、人工赤血球臨床開発へ向けて重要な情報を提供し、さらなる毒性試験・前臨床試験・医療経済学的検討を経て人工赤血球の実用化と向かうプロセスの第一歩となると考えられた。
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