ポジトロン断層法による錐体外路系疾患におけるカテコールアミン作動性神経活性に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000473A
報告書区分
総括
研究課題名
ポジトロン断層法による錐体外路系疾患におけるカテコールアミン作動性神経活性に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 健吾(国立療養所中部病院長寿医療研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 籏野健太郎(国立療養所中部病院長寿医療研究センター)
  • 加知輝彦(国立療養所中部病院)
  • 丸山哲弘(鹿教湯病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 脳科学研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
35,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的はポジトロン断層法(PET)より錐体外路系疾患とくにパーキンソン病におけるカテコールアミン作動性神経活性の画像解析を行い、その機能障害を明らかにするとともに、疾患に伴って生じる運動機能障害、脳高次機能障害との関連を脳内メカニズムの観点から検討することである。この様な検討により、錐体外路系疾患の病態を詳細に明らかにして診断精度の向上、治療法の選択、治療効果の評価に寄与することを目的としている。
研究方法
上記の目的を達成するために、1)パーキンソン病における外来性カテコラミンの認知機能に及ぼす影響、2)パーキンソン病におけるドーパミン神経機能と皮質糖代謝機能の関連、3)パーキンソン病におけるドーパミン神経機能と脳血流の関連、4)パーキンソン病におけるドーパミンD2受容体機能の解析、5)新規ノルアドレナリン受容体測定用標識薬剤の開発を行った。
具体的には各分担研究者が以下のような検討を行った。
1)パーキンソン病における外来性カテコラミンの認知機能に及ぼす影響(丸山)
パーキンソン病における外来性カテコラミン、特にドーパミンが認知機能に及ぼす影響を検討した。ドパミンの関与を明らかにするために、レボドパ及びドーパミンアゴニストを投与している痴呆のないPD患者16例と年齢、教育年数をマッチさせた正常対照群7例を対象に、レボドパ内服中(ON)とレボドパ内服中止後14時間(OFF)の2時点で神経心理学的評価を実施した。
2)パーキンソン病におけるドーパミン神経機能と皮質糖代謝機能の関連(伊藤)
F-18--DOPA PETとF-18-FDG PETをほぼ同時期に実施した Parkinson病 40例を対象とした。対象患者の年齢は49~84歳(平均±SD;66±8歳)で、知的機能の指標として実施されたMMSE の得点は 16~30点(平均±SD;25.1±4.5点)であった。 F-18-FDOPA PETおよび F-18-FDG PETの画像処理は昨年と同様である。
3)パーキンソン病におけるドーパミン神経機能と脳血流の関連(加知)
F-18-FDOPA PETとI-123-IMP SPECTをほぼ同時期に施行したパーキンソン病20例(年齢67.4±6.4歳、罹病期間1年~22年、重症度Hoehn-Yahr scale I~IV度)を対象として、尾状核、被殻のF-18-FDOPA 取り込み率(Ki 値)と大脳皮質局所脳血流量を算出し、ステップワイズ回帰分析法を用いて解析した。
4)パーキンソン病におけるドーパミンD2受容体機能の解析(伊藤)
正常人被験者13人をを対象にC-11-racloprideとPETによるD2-ドーパミン受容体機能の測定を行い、正常者画像データベースを作成した。画像データベースの作成にはF-18-FDOPAの画像データベースの構築で用いた画像の解剖学的標準化の手法を用い、D2-ドーパミン受容体の結合能に相当する分布容積比(DVR)の平均画像を得た。
5)新規ノルアドレナリン受容体測定用標識薬剤の開発(籏野)
前年度に引続きα1-ノルアドレナリン受容体結合能を有する化合物、FPPTおよびFPPPのF-18標識合成を試みた。間接法による収率が不十分であった[F-18]FPPPの直接法による合成を行った。脱離基としてニトロ基を有する前駆体を合成し、これを直接的にF-18標識した。得られた標識体をddyマウスに投与し、放射能の臓器分布を観察した。
結果と考察
研究結果=研究結果は以下のように要約される。
1)パーキンソン病における外来性カテコラミンの認知機能に及ぼす影響(丸山)
PDの進行期群はブロックタッピングとワーキングメモリー検査において有意に成績が不良であった(いずれもp < 0.05)。Drug-onとdrug-offの比較では早期群はいくつかのワーキングメモリー課題(digit ordering task、arithmetic span)においてdrug-onの成績が有意に高かったが、進行期群はすべて有意な差はなかった。
2)パーキンソン病におけるドーパミン神経機能と皮質糖代謝機能の関連(伊藤)
尾状核のFDOPA Ki値は、後部帯状回、頭頂より側頭葉後部の糖代謝との間に正相関が検出された(Z = 2.33、 corrected p = 0.05)。相関の程度は、後部帯状回より頭頂葉内側面に最も強くみられた。一方、前部帯状回のFDOPA Ki値は、両側前部帯状回より中前頭回を中心とする前頭葉皮質領域の糖代謝の間に正相関が検出された(Z = 2.33、 corrected p = 0.05)。尾状核のKiは小脳虫部の糖代謝と逆相関がみられた。被殻のFDOPA Ki値との間に正相関の見られる部、及び、被殻、前部帯状回のFDOPA Ki値と逆相関の見られる部は検出されなかった。
3)パーキンソン病におけるドーパミン神経機能と脳血流の関連(加知)
ステップワイズ回帰分析の結果は、尾状核では頭頂葉のみを説明変数とすることにより、有意な相関を認めた(相関係数0.647、R2 値0.419、p値0.002)。一方、被殻では前頭葉のみを説明変数とすることにより、有意な相関を認めた(相関係数0.537、R2 値0.288、p値0.015)。
4)パーキンソン病におけるドーパミンD2受容体機能の解析(伊藤)
平均画像上でのD2-ドーパミン受容体(DVR)の分布は線条体以外の大脳皮質にも見られたがその分布はすでに報告されているD2-ドーパミン受容体の分布に一致していた。正常者画像データベースを用いて未治療のパーキンソン病症例を画像ベースで比較解析をしたところ、未治療のパーキンソン病症例において被殻におけるDVRの上昇が明らかとなった。
5)新規ノルアドレナリン受容体測定用標識薬剤の開発(籏野)
[F-18]FPPPの直接法による合成では、脱離基としてニトロ基を有する前駆体を合成し、これを直接的にF-18標識した。170℃において良好にフッ素化反応が進行することを見出した。得られた標識体をddyマウスに投与し、放射能の臓器分布を観察した。[F-18]FPPT、[F-18]FPPPともに良好な脳移行性を示し、末梢における脱フッ素代謝を示すと考えられる骨の取込は極めて小さかった。また、脳内分布よりノルアドレナリン受容体特異的結合を示すと考えられる皮質小脳比をもとめたところ、[F-18]FPPTは[F-18]FPPPより大きい値を示しかつ経時的に向上した。
考察=今年度の研究のうちPETの画像解析を中心とした研究では昨年度に引き続きパーキンソン病におけるドーパミン神経機能障害とパーキンソン病で特徴的に見られる脳高次機能の障害の間に介在する脳内病態をドーパミン神経機能評価(FDOPA PET)、大脳皮質機能評価(FDG PET/IMP SPECT)、認知機能検査を駆使することにより明らかにしようとした。
パーキンソン病におけるドーパミン神経系の障害と大脳皮質機能障害の関連に関する検討では尾状核のKi値低下は、頭頂葉の血流および糖代謝の低下に関連していることが示唆された。PETとSPECTともに同じ部位で皮質機能の低下を検出したことから、所見の信頼性は高いと考えられる。頭頂葉の機能低下は、種々の失行、失認、構成能力障害などの高次脳機能の障害に関連している可能性が考えられる。また、FDOPA PETで前部帯状回のKi値の低下は、前部帯状回、前頭葉の機能低下に関連していたが、昨年度確認された所見と同様であり、パーキンソン病の病態における前部帯状回の重要性を示している。SPECTでは被殻のKi値と前頭葉の脳血流の間に有意な相関があったが、PETでは被殻のKi値と糖代謝画像上で相関を示す部位は見られず、この相違についてはさらに検討を要する。
今年度新たに構築したD2-ドーパミン受容体機能の正常者画像データベースにより、線条体内外のD2-ドーパミン受容体機能の解析が可能となった。C-11-racloprideは皮質での集積が比較的低く、基底核以外の評価は困難といわれていたが、解剖学的標準化法を用いることにより、皮質での評価の可能性が示唆された。今後この正常者画像データベースにより、パーキンソン病におけるドーパミン神経機能障害をさらに多角的に解析出来ると思われる。
脳内ノルアドレナリン(NA)作動性神経活性測定のための新規放射性薬剤の開発では、α1-ノルアドレナリン受容体結合能を有する化合物[F-18]FPPT、[F-18]FPPPの実用的な合成に成功した。脳内分布からは、 [F-18]FPPTは[F-18]FPPPよりノルアドレナリン受容体特異的性が高いと考えられ、α1-ノルアドレナリン受容体測定剤としてより有効な薬剤と考えられた。
結論
パーキンソン病に特徴的な脳高次機能障害の脳内機序をドーパミン神経機能評価(FDOPA PET)、大脳皮質機能評価(FDG PET/IMP SPECT)、認知機能検査を駆使することにより検討した。その結果、パーキンソン病におけるドーパミン系の機能障害から大脳皮質機能障害に伴う脳高次機能障害発現の病態メカニズムを推定する上で重要な知見が明らかになった。また、あらたに構築したD2-ドーパミン受容体機能の正常者画像データベースはより多角的なドーパミン神経機能障害の解析を可能にすると考えられた。脳内ノルアドレナリン(NA)作動性神経活性測定のための新規放射性薬剤の開発では、(1-ノルアドレナリン受容体結合能を有する[F-18]FPPTの有効性が確認された。

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