文献情報
文献番号
200000471A
報告書区分
総括
研究課題名
パーキンソン病における神経細胞死の分子機構とその保護治療に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
永津 俊治(藤田保健衛生大学総合医科学研究所)
研究分担者(所属機関)
- 水野美邦(順天堂大学医学部)
- 小川紀雄(岡山大学医学部分子細胞医学研究施設)
- 久野貞子(国立療養所宇多野病院臨床研究部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 脳科学研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
53,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究は、パーキンソン病の原因を分子レベルで解明し、ドーパミンニューロンの変性を予防阻止しあるいはドーパミンニューロンを保護する治療法を開発することを目的としている。パーキンソン病の病態が解明され、病気の進行を抑制することが可能になれば、患者本人のQuality of Life (QOL)を改善するだけでなく、看護する家族の負担を減らし、結果として医療経済上の大きいメリットを生ずることが期待される。
研究方法
パーキンソン病死後脳について、神経栄養因子BDNFとNGF、およびapoptosis経路上流のTNF-_ receptor 1 (TNF-R1, p55)量を高感度酵素免疫測定法によって測定した。Caspase 1およびcaspase 3の酵素活性は、acetyl-Tyr-Val-Ala-Asp-_-(4-methyl-coumaryl-7-amide)と acetyl-Asp-Glu-Val-Asp-_-(4-methyl-coumaryl-7-amide)を基質として遊離する7-amino-4-methyl-coumarinを、蛍光測定した。劣性遺伝・家族性パーキンソン病の原因遺伝子parkinの産物Parkinタンパク質に対する抗体を作製して免疫組織化学で死後脳のParkinタンパク質の存在を検索した。Western blottingは、対照脳の前頭葉・線条体・黒質のホモジネート、および前頭葉の可溶性画分・Golgi画分・ミトコンドリア画分・マイクロソーム画分・核画分について行った。8-oxo-dGTPaseおよび8-oxo-dGの免疫組織化学的検索は、ポリクローナル抗体とモノクローナル抗体を用いて行った。NG108-15細胞株を用いた過酸化水素による酸化的ストレスによる神経細胞死評価法を確立してイムノフィリンリガンドの細胞死抑制効果を検索した。6-OH-ドーパミン(60 _g/2 _l)をICR系雄性マウスの右側脳室内に単回投与して、酸化ストレスに基づく細胞障害の指標として、過酸化脂質量(TBA-RS)量、ドーパミンとその代謝物質を測定した。脳内酸化ストレス消去系の指標として、superoxide dismutase (SOD)とcatalaseの活性およびglutathione量を測定した。神経細胞の保護に働くアストログリア細胞からの神経栄養因子の分泌を培養上清中のNGF, BDNF, GDNFを酵素免疫測定法で測定した。MPTPパーキンソン病サルでMPTPを静脈内注射して、脳のGDNFとチロシン水酸化酵素の免疫陽性神経細胞の数を計測した。
結果と考察
パーキンソン病死後脳で神経栄養因子の変化を検討した。パーキンソン病死後脳で黒質線条体部位に特異的にBDNFとNGFが著明に減少することを見出したので、さらにドーパミン神経保護作用が強いGDNFの対照脳とパーキンソン病脳とでの脳内分布を検討した。GDNFはヒト脳で濃度が比較的低く、pg/mg proteinのレベルであった。対照脳でのGDNFの脳内分布は、黒質>尾状核≒被殻≫小脳≒大脳の順であり、黒質と線条体(尾状核と被殻)とにおいて濃度が高かった。対照脳とパーキンソン病脳における脳内分布は同じであったが、BDNFとNGFがパーキンソン病脳で高度に減少するのと対照的に、GDNF濃度は、対照脳とパーキンソン病脳とでほぼ等しかった。この成績は、パーキンソン病脳では、神経栄養因子類は代償的に増加するが、BDNFとNGFは代償が充分でなく高度に減少するのに対して、GDNFは病気の進行中も代償が強く働いて減少しないことを示唆する。BDNFやNGFなどの神経栄養因子の減少は酸化的ストレスに対する抵抗性を減少させapoptosisを促進する。次に、apoptosis経路の最初に位置するTNF-_の増加が、抗免疫性イムノフィリンリガンドFK506の投与によって正常化されるかを6-OH-ドーパミン半側パーキンソン病ラットで検討した。FK506の0.5 mg/kgまたは4 mg/kg/dayの14日間連続投与によって、
傷害側の黒質線条体におけるTNF-_の増加は完全に阻止されて正常値になった。この成績はFK506のような免疫抑制性イムノフィリンリガンドがパーキンソン病の進行を阻止し回復できる可能性を示唆する。劣性遺伝・家族性パーキンソン病の原因遺伝子parkinを発見したがその産物であるParkinタンパク質がubiquitin ligase E3であることを同定した。Parkinタンパク質はGolgi装置とシナプス小胞に存在した。その基物の一つはシナプス小胞に存在するCDCrel1であることを立証した。従ってParkinタンパク質の欠失によってCDCrel1の分解が障害されて、神経終末に蓄積し酸化的ストレスをおこして神経細胞死をおこすことが示唆された。Parkinタンパク質の欠失はシナプス小胞のCDCrel1のようなタンパク質の蓄積をおこして、酸化的ストレスによってapoptosisをおこすことは、孤発型パーキンソン病の黒質神経細胞のミトコンドリアDNAの酸化障害はパーキンソン病に特異的と考えられる成績と一致しており、孤発型パーキンソン病も酸化的ストレスによるapoptosisが神経細胞死の原因である仮説を支持する。異なったタイプの細胞株を用いたH2O2による神経細胞死評価系で、H2O2の添加により誘導したapoptosisについて、細胞生存率とapoptosis抑制作用とを検索したところ、イムノフィリンリガンドの免疫抑制性のFK506も非免疫抑制性のGPI1046も共に、細胞生存率の改善とapoptosisを防ぐ効果が認められた。どの細胞株でもグルタチオンの増加作用が認められたが、グリオーマが最も強いグルタチオン増加作用を示したので、イムノフィリンリガンドの神経保護作用はグリア細胞を介して発揮されることが示唆された。またドーパミンのアポトーシス関連分子に及ぼす影響を検索したところ、ドーパミンはp53やBaxを介するapoptosis様神経細胞死を惹起させるが、グルタチオンの同時添加によってドーパミンの引きおこすapoptosisは抑制された。in vivoでのイムノフィリンリガンドの神経保護作用の機序を明らかにする実験で、免疫抑制性のFK506と非免疫抑制性のGPI1046をマウスの脳室内に7日間連続投与したところ、線条体で脂質過酸化が有意に抑制され、グルタチオン合成酵素の遺伝子発現が亢進していた。これらの成績はイムノフィリンリガンドは免疫抑制作用と別の機序でも神経保護作用があることを示唆した。培養アストログリア細胞でパーキンソン病治療薬であるドーパミンアゴニストapomorphineと共にモノアミン酸化酵素B型阻害薬selegilineは、神経栄養因子のNGF、BDNF、GDNFのmRNAとタンパク質量を増加させた。この成績はapomorphineやselegilineはドーパミン欠乏の補充と共に神経栄養因子のNGF、BDNF、GDNFを増加させて神経保護効果をもつことを示す。
傷害側の黒質線条体におけるTNF-_の増加は完全に阻止されて正常値になった。この成績はFK506のような免疫抑制性イムノフィリンリガンドがパーキンソン病の進行を阻止し回復できる可能性を示唆する。劣性遺伝・家族性パーキンソン病の原因遺伝子parkinを発見したがその産物であるParkinタンパク質がubiquitin ligase E3であることを同定した。Parkinタンパク質はGolgi装置とシナプス小胞に存在した。その基物の一つはシナプス小胞に存在するCDCrel1であることを立証した。従ってParkinタンパク質の欠失によってCDCrel1の分解が障害されて、神経終末に蓄積し酸化的ストレスをおこして神経細胞死をおこすことが示唆された。Parkinタンパク質の欠失はシナプス小胞のCDCrel1のようなタンパク質の蓄積をおこして、酸化的ストレスによってapoptosisをおこすことは、孤発型パーキンソン病の黒質神経細胞のミトコンドリアDNAの酸化障害はパーキンソン病に特異的と考えられる成績と一致しており、孤発型パーキンソン病も酸化的ストレスによるapoptosisが神経細胞死の原因である仮説を支持する。異なったタイプの細胞株を用いたH2O2による神経細胞死評価系で、H2O2の添加により誘導したapoptosisについて、細胞生存率とapoptosis抑制作用とを検索したところ、イムノフィリンリガンドの免疫抑制性のFK506も非免疫抑制性のGPI1046も共に、細胞生存率の改善とapoptosisを防ぐ効果が認められた。どの細胞株でもグルタチオンの増加作用が認められたが、グリオーマが最も強いグルタチオン増加作用を示したので、イムノフィリンリガンドの神経保護作用はグリア細胞を介して発揮されることが示唆された。またドーパミンのアポトーシス関連分子に及ぼす影響を検索したところ、ドーパミンはp53やBaxを介するapoptosis様神経細胞死を惹起させるが、グルタチオンの同時添加によってドーパミンの引きおこすapoptosisは抑制された。in vivoでのイムノフィリンリガンドの神経保護作用の機序を明らかにする実験で、免疫抑制性のFK506と非免疫抑制性のGPI1046をマウスの脳室内に7日間連続投与したところ、線条体で脂質過酸化が有意に抑制され、グルタチオン合成酵素の遺伝子発現が亢進していた。これらの成績はイムノフィリンリガンドは免疫抑制作用と別の機序でも神経保護作用があることを示唆した。培養アストログリア細胞でパーキンソン病治療薬であるドーパミンアゴニストapomorphineと共にモノアミン酸化酵素B型阻害薬selegilineは、神経栄養因子のNGF、BDNF、GDNFのmRNAとタンパク質量を増加させた。この成績はapomorphineやselegilineはドーパミン欠乏の補充と共に神経栄養因子のNGF、BDNF、GDNFを増加させて神経保護効果をもつことを示す。
結論
パーキンソン病の黒質線条体ドーパミンニューロンの神経細胞死のapoptosis仮説を立証する成績が、家族性若年性パーキンソン病の原因遺伝子parkinの発見とその産物Parkinタンパク質がubiquitin ligase E3である発見と、孤発型パーキンソン病死後脳のサイトカイン類の増加と神経栄養因子類の減少の発見とによって明らかになった。この発症機序の解明と共に、apomorphineやselegilineのような神経栄養因子を増加させる薬剤、FK506イムノフィリンリガンドなど、apoptosis経路を阻害して、神経保護修復作用のある薬剤を見出した。
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