バイオテクノロジー応用食品の安全性確保及び高機能食品の開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000433A
報告書区分
総括
研究課題名
バイオテクノロジー応用食品の安全性確保及び高機能食品の開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
吉倉 廣(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 鎌田博(筑波大学)
  • 豊田正武(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 白井智之(名古屋市立大学)
  • 熊谷進(東京大学)
  • 加藤順子(三菱化学安全科学研究所)
  • 江崎治(国立健康・栄養研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(食品保健研究分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
142,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
バイオテクノロジーを応用した食品の安全性確保のための科学的知見の集積、安全性評価法の開発改良、試験法の確立、機能性食品や低アレルギー性食品の開発、当該食品の国民受容に関する調査を目的とする。
研究方法
遺伝子導入植物の遺伝的安定性からみた安全性評価の研究を鎌田班員、組換え食品の検出法を豊田班員、慢性毒性を白井班員、機能食品開発を江崎治班員が担当した。クローン牛などクローン技術を利用した動物性食品の安全性については熊谷班員、リスク・コミュニケーションに関しては加藤班員が担当し、主任研究者が総括を行った。
結果と考察
遺伝子導入植物の遺伝的安定性:厚生労働省が食品としての安全性を認可した遺伝子組換え農作物について、既存の非遺伝子組換え品種や他の遺伝子組換え品種等との交配によって作出されているいわゆる後代交配種における導入遺伝子の安定性(導入遺伝子の位置や配列の変化および導入遺伝子の発現変動等)を検討した。特に、我が国で大量に消費されているダイズおよびトウモロコシについて、各地の検疫所で採取した穀粒を用い、穀粒そのものあるいはそれから発芽させた植物体からDNAや蛋白質を調整し、導入遺伝子の塩基配列をもとにしたPCRによる目的バンドの増幅の有無、増幅されたバンドの塩基配列決定、導入遺伝子産物(蛋白質)の抗体を用いた発現量の変化等を詳細に検討した。現段階では、後代交配種においても大きな変化は見られていない。一方、遺伝子組換え植物とその後代交配種における導入遺伝子の発現(mRNAとしておよび蛋白質として)の変動を全体(over all)として探る方法を開発するため、電気泳動法を用いる大規模な蛋白質の検出方法の開発およびマイクロアレーを用いる方法の検討を行っている。マイクロアレーについては、現在使用可能な(市販されている)シロイヌナズナのマイクロアレーを用い、ヘテロな系であるニンジンにおける遺伝子の発現変動を調べたところ、大きな変動がある場合には一定の数値として検出できることが明らかとなった。
DNA組換え体の検知に関する研究:1)組換え食品及びその加工品について検知法の開発を行った。承認済み組換えダイズ及びトウモロコシの定性PCR分析法を踏まえ、TaqMan Chemistryを利用した定量PCR分析法を検討し、Roundup-Ready ダイズ(RRS)並びに5系統の組換えトウモロコシについて、CaM遺伝子を用いたスクリーニング法並びに品種特異的な定量分析法を確立した。輸入試料の実態調査から、IPハンドリングされたトウモロコシの組換え体混入率は5%以下であった。RRSでELISA法と定量PCR法に相関が見られた。また、トウモロコシ穀粒における組換え体の定量はF1 hybrid種子を基準にする必要性があった。さらに加工によるDNAの減衰及び未承認組換え作物3種の定性検知法を検討している。2)遺伝子組換え食品のアレルゲン性試験については、新規導入蛋白質及び組換えトウモロコシ抽出物でのin vitro分解性を検討している。
バイオテクノロジー応用食品の慢性毒性試験のあり方に関する検討: 遺伝子組み換え農作物についてのヒトに対する安全性を確認するために、実験動物を用いた化学物質の安全性試験を応用し、遺伝子組み換えトウモロコシのラットの90日間反復毒性試験を行う。実験動物用の基礎飼料で原材料のすべてが公表され、入手の可能な「改良NIH飼料」には24.5%のトウモロコシが含まれているが、このトウモロコシの成分を今回の実験用の成分と置き換える。すなわち、組み換えトウモロコシを24.5, 8.2, 2.8, 0%、非組み換えトウモロコシ(組み換え成分が含まれていないことが保証されたもの)をそれぞれ 0, 16.3, 21.7, 24.5%含有するようにし、その成分としてはいずれも24.5%含まれるようにした飼料を作製し、F344ラットに90日間経口投与し、その毒性を評価する。一方、前年度までに調査したバイオテクノロジーに関連ある微生物の含有成分のうち110種の微生物の700化合物について、RTECS(化学物質毒性データ総覧)を用いて安全性に関するデータの有無とその内容に関する調査を行った。このうち143化合物についてはRTECSから毒性データを得、調査研究をした。また、今後の遺伝子組換え食品の動向を知るために最近(過去5年間)の食品に関連ある遺伝子組換えについてJOISを用いて検索した。食品に関連あるものとして344文献、農作物として340件の文献を得、調査研究をした。
高機能食品の開発に関する研究:ヒトは、n-3系列脂肪酸のα-リノレン酸とn-6系列脂肪酸のリノール酸をde novo合成できず、それぞれ食事から摂取する必要がある。また、これらの脂肪酸を相互に代謝変換することもできない。よって、生活習慣病予防に効果が期待されるn-3系列脂肪酸であるエイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸は直接摂取するか、前駆体であるα-リノレン酸から生合成する必要がある。そこで本研究では、イネの中にα-リノレン酸を効率よく発現させ、疾病予防や健康の維持増進に役立つ食品の開発を最終目標とし研究を開始した。具体的には以下のとうりである。リノール酸からα-リノレン酸への変換酵素であるイネω-3 fatty acid desaturase(OsFAD3)cDNAを取得した。ORFを全て含む領域をGAL1プロモーターをもつ酵母発現ベクターに挿入した。これを酵母に導入し、培地中の炭素源をグルコースからガラクトースに変えることで、酵母内にOsFAD3を強制発現させた。現在、酵母内の脂肪酸組成の変化をガスクロマトグラフィーによって確認している。
クローン技術を利用した動物性食品の安全性について:体細胞クローン牛については、食品としての安全性を懸念する科学的根拠はないが、新しい技術であるため消費者に対する信頼性確保の上から、安全性の裏付けとなるデータを集積することが望まれる。そこで、(1)農林水産省と地方自治体等で成育中の体細胞クローン牛について、それら各機関により得られつつある生育、繁殖、肉質、乳質に関するデータを収集することに加え、(2)肥育牛についてはと殺時の血液・筋肉中の成分(それぞれステロイド・残留塩素系農薬)、搾乳牛と肉用繁殖牛については血液成分(ステロイド)について分析を行う。(1)については今年度末までに収集したデータより安全性について検討を加える予定であるが、(2)については今年度中に入手できる試料が少ないため分析は主に翌年度に行う。
リスク・コミュニケーションのあり方に関する研究:本年度は遺伝子組換え食品に関する厚生労働省からの情報提供の内容、あり方についてアンケート調査等をもとに検討を行っている。1月末に、一般市民からの相談を受けると考えられる全国の消費生活センター(400カ所)および保健所(635カ所)象に対し、市民からの相談件数、内容等およびこれらの機関や一般市民に対する厚生労働省からの情報提供のあり方について尋ねるアンケートを送付し、2月26日現在、745通(回答率72%)の回答を得ている。また、東京近郊の消費生活センター2カ所(川崎市、東京都多摩)、保健所3カ所(中野区、町田市、八王子市)、関西の消費生活センター2カ所(大阪市,京都府)を訪問調査した。現時点の結果では、一般市民のこの問題に対する関心は高いと感じている担当者が多く、厚生労働省からのより積極的な情報提供を望む声が多い。今後、新潟県、福島県、さらに東京近郊数カ所で訪問調査を行い、訪問調査およびアンケートの集計結果をもとに、厚生労働省からの情報提供の内容、量、あり方について、具体的な提言をまとめる予定である。
結論
バイオテクノロジー応用食品については、安全性に関する研究を中心に、開発研究の透明性の確保、リスク・コミュニケーションのあり方の検討を持続する必要がある。

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