文献情報
文献番号
200000359A
報告書区分
総括
研究課題名
『要保護児童の自立支援に関する研究』(総括研究報告書)
研究課題名(英字)
-
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
松原 康雄(明治学院大学教授)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
日本では、要保護児童への対応で中長期的に親子分離の方法をとる場合には、施設入所が中心となる。しかし、施設によるケアを前提としても、乳児院から児童養護施設への措置変更は、子どものパーマネンシー保障という観点から問題があると従来から指摘されてきた。また、近年になって新たに発生した国籍を有しない児童への社会的支援の検討も重要である。
研究方法
本研究では、1同一敷地内あるいは隣接地に乳児院と児童養護施設を有する法人への構造化されたヒアリング調査、2措置変更に関する乳児院と児童養護施設の意見に関する郵送調査、3乳児院から児童養護施設に措置変更された児童の養育者に対する訪問調査、4無国籍児童に関する児童相談所への調査をおこなった。さらに、これらの研究を補足するために有識者からのヒアリングを実施した。
結果と考察
1 同一敷地内あるいは隣接地に乳児院と児童養護施設を有する法人に対する調査 (1)乳児院設置数の約4割に同一敷地内あるいは隣接地に児童養護施設が存在する。 (2)乳児院から児童養護施設に措置変更される場合に優先的に考慮される要因については、施設の方針や定員、地域性などによってさまざまであることが今回の調査で明らかになった。また、最近では都市部を中心に児童養護施設に入所できる枠(空き)がほとんどなく、同一敷地内の児童養護施設への措置変更を希望しても、すでにきょうだいが入所しているケース以外は他施設に措置変更されている場合が多いという現状が明らかになった。さらに、障害のある子どもの場合、変更先が決まらず、年齢を超過して乳児院に入所している子どもが多くいることが明らかになった。(3)同一敷地内児童養護施設に措置変更された場合のその後の関係については、1) 児童との関係(交流状況等)、2) 保護者との関係との関係でメリットがあったが、3) 施設・職員間の連携ついては、積極的なコミュニケーションを図っている施設と、連携を図りたいと思っていても時間的な余裕がなく、必要に応じて連絡を取り合う程度のコミュニケーションしか図られていないという施設に分かれた。
2 措置変更に関する乳児院と児童養護施設の意見に関する郵送調査
(1)乳児院調査結果の概要 1)乳児院措置時点における児童相談所との連携では、全体として、十分な情報提供と援助計画を前提とした乳児院利用が必要であるとされている。情報提供では、乳児の特徴でもある医療や発達なども含まれる。また、一時保護委託の課題や一時保護から措置への変更についても指摘があった。養育者との関係では、入所前の見学について、実際に受け入れている件数と比較して、「あるべき方法」としては、判断を保留する「どちらともいえない」が増える。2)乳児院入所中における養育者との連絡整が可能なケースは、全体で6割以上連絡が取れる施設と5割以下とした施設とでは、2対1の比率である。児相との連携では、養育者との連絡調整、子どもの支援計画に関して、子どもの状況把握という3つに加えて、乳児院への指導あるいは事例検討会への参加への期待が示された。3)措置変更時点では、児童相談所に養育者・変更先施設との仲立ちを求める意見が多かった。
(2)児童養護施設調査結果の概要 1) 措置変更時点でのかかわりでは、措置変更後の乳児院との連携について、連携の必要性を認める回答が大半を占めた。2) 措置変更児童の情緒的問題については、「過度の愛着欲求」、「夜尿」、「夜泣き」が特に多くあげられた選択肢となっている。児童受け入れに関して、最も難しい課題については、子どもの生活面、発達状況、家族との調整、施設の運営体制についての意見が出された。3)養育者については、6割以上とれると回答した施設が137であり、全体の60.4%であった。連絡の内容については、養育者からの働きかけとほぼ一致する。養育者との関わりで最も課題となっていることは、「養育者に精神病・知的障害などがある場合」、「養育者が子どもをネグレクトしている場合」、「信頼関係の築き方」、「施設と養育者の養育方針の食い違い」、「養育姿勢・生活状況の不安定さ・情緒不安定さ」、「里親委託に対する反発」、「児童との関係の継続」などであった。
3 乳児院から児童養護施設に措置変更された児童の養育者に対する訪問調査 (1)児童相談所について 全体として、直接知るというよりも、地域の役所や関係機関からの紹介によって認知しているようである。接触回数は、1から3回程度にとどまる例が多い。印象は、肯定的なものも否定的なものが含まれていた。(2)乳児院の入所と入所中に関すること 入所については、他に選択の余地がない点で納得したという意見が多かった。対応については、満足という意見が多かったが、不満では連絡がないことに集中していた。(3)措置変更に関すること 措置変更に関する説明時期は、さまざまであり統一されていないことが明らかになった。変更先との事前の連絡等はあまりなされておらず、見学もほとんどなされていなかった。措置変更時の対応は、乳児院・変更先施設・児童相談所とも肯定的・否定的意見とも示された。(4)措置変更先施設について おおむね満足との意見が多いが、情報提供について連絡が無いことへの不満がみられた。
4無国籍児童に関する児童相談所への調査 国籍法に基づいて国籍を有するとされても、外国で子どもが生まれた場合には、そのことを自国の大使館又は総領事館に届け出なければならない。ところが、親がオーバーステイのため、仮に総領事館等への届出をすれば逮捕・強制送還されるおそれがあるため、届出をしないまま放置することも多い。本調査で子どもたちが無国籍になっているのは、全て、この届出をしていないためであった。母が不法滞在などの理由で出生届や外国人登録を行っていないケースが多いことが判明した。
2 措置変更に関する乳児院と児童養護施設の意見に関する郵送調査
(1)乳児院調査結果の概要 1)乳児院措置時点における児童相談所との連携では、全体として、十分な情報提供と援助計画を前提とした乳児院利用が必要であるとされている。情報提供では、乳児の特徴でもある医療や発達なども含まれる。また、一時保護委託の課題や一時保護から措置への変更についても指摘があった。養育者との関係では、入所前の見学について、実際に受け入れている件数と比較して、「あるべき方法」としては、判断を保留する「どちらともいえない」が増える。2)乳児院入所中における養育者との連絡整が可能なケースは、全体で6割以上連絡が取れる施設と5割以下とした施設とでは、2対1の比率である。児相との連携では、養育者との連絡調整、子どもの支援計画に関して、子どもの状況把握という3つに加えて、乳児院への指導あるいは事例検討会への参加への期待が示された。3)措置変更時点では、児童相談所に養育者・変更先施設との仲立ちを求める意見が多かった。
(2)児童養護施設調査結果の概要 1) 措置変更時点でのかかわりでは、措置変更後の乳児院との連携について、連携の必要性を認める回答が大半を占めた。2) 措置変更児童の情緒的問題については、「過度の愛着欲求」、「夜尿」、「夜泣き」が特に多くあげられた選択肢となっている。児童受け入れに関して、最も難しい課題については、子どもの生活面、発達状況、家族との調整、施設の運営体制についての意見が出された。3)養育者については、6割以上とれると回答した施設が137であり、全体の60.4%であった。連絡の内容については、養育者からの働きかけとほぼ一致する。養育者との関わりで最も課題となっていることは、「養育者に精神病・知的障害などがある場合」、「養育者が子どもをネグレクトしている場合」、「信頼関係の築き方」、「施設と養育者の養育方針の食い違い」、「養育姿勢・生活状況の不安定さ・情緒不安定さ」、「里親委託に対する反発」、「児童との関係の継続」などであった。
3 乳児院から児童養護施設に措置変更された児童の養育者に対する訪問調査 (1)児童相談所について 全体として、直接知るというよりも、地域の役所や関係機関からの紹介によって認知しているようである。接触回数は、1から3回程度にとどまる例が多い。印象は、肯定的なものも否定的なものが含まれていた。(2)乳児院の入所と入所中に関すること 入所については、他に選択の余地がない点で納得したという意見が多かった。対応については、満足という意見が多かったが、不満では連絡がないことに集中していた。(3)措置変更に関すること 措置変更に関する説明時期は、さまざまであり統一されていないことが明らかになった。変更先との事前の連絡等はあまりなされておらず、見学もほとんどなされていなかった。措置変更時の対応は、乳児院・変更先施設・児童相談所とも肯定的・否定的意見とも示された。(4)措置変更先施設について おおむね満足との意見が多いが、情報提供について連絡が無いことへの不満がみられた。
4無国籍児童に関する児童相談所への調査 国籍法に基づいて国籍を有するとされても、外国で子どもが生まれた場合には、そのことを自国の大使館又は総領事館に届け出なければならない。ところが、親がオーバーステイのため、仮に総領事館等への届出をすれば逮捕・強制送還されるおそれがあるため、届出をしないまま放置することも多い。本調査で子どもたちが無国籍になっているのは、全て、この届出をしていないためであった。母が不法滞在などの理由で出生届や外国人登録を行っていないケースが多いことが判明した。
結論
乳幼児の社会的養護については、日本の場合、入所施設が果たす役割は大きい。しかし、乳児院と児童養護施設間の措置変更に関する問題が、取り組むべき課題のひとつとして存在している。この課題は、援助計画を策定するなかで解決される必要がある。援助計画策定の前提には、施設内ケアの充実とともに、子どもと家族を支援する地域諸資源の開発と活用が不可欠である。無国籍児童については、関連分野との連携のなかで、子どもを援助の枠組みのなかに位置付け、パーマネンシー・プランニングを立てていく必要がある。現行制度については、施設ケアのさらなる充実を前提とした措置変更時点での相互交流の重要性、同一敷地内施設を参考とした新たなシステム作りが必要であろう。母親のオーバーステイ等で本来国籍が取得できる児童が無国籍である事例への取り組みの必要性も明らかになった。措置変更については、いくつかの選択肢を並行的に試み、パイロット事業などアクションプログラムの実施と、その評価を行っていくべきである。
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