小児期からの総合的な健康づくりに関する研究

文献情報

文献番号
200000335A
報告書区分
総括
研究課題名
小児期からの総合的な健康づくりに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
村田 光範(東京女子医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 福渡 靖(山野美容芸術短期大学)
  • 鏡森定信(富山医科薬科大学)
  • 清野佳紀(岡山大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
16,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
①効果的な運動及び体力向上に関する研究:幼児を中心にして日常的な身体活動の減少実態を明らかにし、身体活動の量的、質的評価法を検討し、幼児の日常的な身体活動を増加させるための方策を検討する。②小児期からの成人病予防に関する研究:長期にわたる小児の生活習慣病危険因子の疫学的調査と危険因子に対する効果的な介入方法を検討する。③健康的ライフスタイルの確立に関する研究:平成元年の富山県在住の児童を対象とした生涯を見据えた「生活習慣病と小児の健康」に関わるコホート研究を行う。④生活環境と子どもの骨発育に関する研究:子どもの生活環境が健康な小児、及び病気を持つ小児の骨発育に与える影響とそれに対する介入について検討する。高血圧と高脂血症ガイドライン作成:小児期の高血圧と高脂血症の判定基準と管理の実際について検討する。
研究方法
①観察法、歩数計度による幼児の身体活動量の評価、アンケート調査による幼児の生活実態調査(対照として中国北京市の幼児を含む)、「鬼ごっこ遊び」を中心にした幼児の集団遊びによる効果的な身体活動、及び運動能の増加を図る。②平成4年から行っている千葉県芝山町をはじめとする7地区に設定した生活習慣病危険因子に関するコホ-ト調査についての疫学的解析と介入効果の検討、③平成元年に出生した富山県在住の児童を対象としたコホート研究の中で3歳時の生活習慣が小学校4年時の生活習慣がいかなる関わりを持つかを比較検討する。④従前から行っていた食品摂取頻度調査法の妥当性をアンケート調査より検討し、踵骨超音波による骨塩量のスクリーニングを、さらに骨量増加抑制の機構の検討をおこなった。未熟児においては出生時の状況と現在の骨密度、現在の身体状況の相関を、神経性食思不振症では入院加療以降の身体状況変化と骨密度、骨代謝マーカーの関連を検討し、身長発育に問題のある児において高感度エストロゲン測定法を用い、血中のエストロゲン値と骨密度の相関を検討した。
結果と考察
1.効果的な運動及び体力向上に関する研究(分担研究者:村田光範)
現在の幼児は外遊びの時間が少ないことが分かった。幼児の身体活動量を量的に評価するには、歩数計がもっとも実用的であるといえる。幼児の運動量を増やすには、両親、それに幼稚園や保育所での運動量を増やすことが重要である。現状では、自然発生的に子どもが群れをなして遊ぶ機会がないので、「鬼ごっこ遊び」を基本にしてに2群に分けるとか、しっぽをつけて「しっぽとりゲーム」にするとかの工夫で、幼児の運動量が増すことが分かった。中国北京市の幼児にも日本と同じ都市型生活習慣がみられ、これが肥満などの生活習慣病増加につながる点では共通している。幼稚園などの観察で日常的活動性の高い幼児は6歳児すでに運動量の少ない幼児に比して最大酸素摂取量が有意に高く運動耐容能に優れているので、幼児期から日常的な身体活動を高めることは、生活習慣病対策として重視すべきである。
2.小児期からの生活習慣病予防に関する研究(分担研究者:福渡 靖)
3歳児、小学1年児、小学4年児等を対象とした9年間のコホート調査の結果、肥満と関連する食習慣要因としては、「早食い」、「朝食を抜く」、「野菜摂取が少ない」、「間食回数が多い」、「夜食の増加」が、生活習慣要因としては、「運動嫌い」、「運動量が少ない」、「睡眠時間が少ない」が示された。肥満群で「LDLコレステロール」、「動脈硬化指数」、「トリグリセライド」、「尿酸」が有意に高く、「HDLコレステロール」が有意に低くなっていた。「早食い」、「野菜摂取が少ない」、「運動量が少ない」ことを改善すると体重減少に効果的であった。運動量を多くするには親子で行う「ウォークラリー」が効果をあげた。今後は、肥満になってからの肥満解消よりも、親子で小児期から肥満をもたらさない習慣を身につける方法を明らかにしたい。
3.健康的なライフスタイルの確立に関する研究(分担研究者:鏡森定信)
富山スタディは平成元年度生まれの富山県在住の小児約1万人を対象とした追跡研究で、平成11年6月に、第3回調査を行い過去のデータとリンクして分析を行った。その結果、3歳時の生活習慣のうち小学4年生時の肥満と関連していたのは、両親の肥満、朝食の欠食、不規則な間食、遅い就寝時刻、睡眠不足、卵類・インスタント麺類・ファーストフードの摂取頻度が高い、魚類・野菜類・大豆類の摂取頻度が低いであった。また、3歳時の肥満に関連した生活習慣は、小学4年時でも継続しており、生活習慣の継続性が、肥満形成のリスクを高める事が示された。また、生活の質の検討では、3歳から小学1年時に就寝時刻が遅く、インスタント麺類の頻度が高い状態で維持したものは「かんしゃくをおこしやすい」「イライラしやすい」「学校へ行きたくない」「仲のよい友達が少ない」傾向にあった。母親の勤務形態との関係では、母がパート、常勤の児童は肥満のリスクが上昇した。また小標本調査で、母の食習慣、睡眠習慣は児童の生活習慣と、父の運動、テレビの習慣と児童の生活習慣とは関連性が強く、父と母で児童の生活習慣への影響が異なる事が示唆された。以上から、少なくとも3歳時からの両親を含めた健康的な生活習慣の確立が、心身ともに健康な状態を維持する上で重要である事が示唆された。
4.生活環境と子どもの骨発育に関する研究(分担研究者:清野佳紀)
日本人の正常骨発育の研究では、食事摂取カルシウム量推測のためのアンケート調査の妥当性に関して検討した結果、日常摂取食品の種類と1回あたり摂取量について検討し、その結果学校給食と家庭での食事の間で「普通」に対して見積もり誤差が生じやすい食品(主食,肉類,魚類)については、見積もり誤差を少なくするために80%~90%の補正を検討する必要があるとの結論を得た。女性ホルモンと骨発育の関係に関する研究では、鋭敏なエストロゲン測定法を利用し、小児の骨発育に男児においても、女児においても、微量なエストロゲンが重要であることを示した。疾患と骨発育については、極低出生体重児において、2歳未満の骨発育及び2歳以降の骨発育とそれに及ぼす諸因子の解析を行った。栄養状態が大切な因子であることを示した。神経性食思不振症における骨量を検討した結果、骨密度の低下には運動量の低下が関与していることが判明した。踵骨超音波による低骨密度スクリーニングの妥当性を検討した結果、超音波骨評価指標と腰椎BMDの間には相関を認めず、この方法では低骨密度を見逃す危険性があることが分かった。
5.高血圧と高脂血症及びガイドライン作成
小児期の肥満に関してはこの研究班の研究成果に基づいて厚生省、文部省、日本肥満学会が共同して作成中であり、平成13年10月までには完成することになっている。高血圧については、この研究班の主任研究者である村田らの資料が中心になって日本高血圧学会からガイドラインが報告されている。これをさらに新しく小児の年齢別身長別標準血圧が内山らによって加えられた。高脂血症については予防医学事業中央会の全国的な検査結果を基に岡田らがガイドラインを作成した。今後の問題点としては、乳幼児の資料の補足とこれらガイドラインが全国規模のコンセンサスを得るための検討を進めることである。
結論
幼児の身体活動を客観的に評価するには歩数計がもっとも実用的であった。幼児期でも外遊びの時間が少なく、テレビやテレビゲームをする時間が増える傾向を示した。両親の身体活動量が子どもの身体活動量を増すことにつながり、また保育所や幼稚園のカリキュラムで昼寝の時間を減らして外遊びの時間を増やすことが必要である。保育者が「活発に体を動かしている」と評価されている幼児は、「おとなしい」と評価されている幼児よりも最大酸素摂取量からみて体力が優れていた。「鬼ごっこ遊び」を基本にした集団遊びは、幼児の身体活動を増加させると同時に、各種の運動能力の向上に役立つといえる。中国北京市の幼児についても、わが国同様の生活習慣が普及してきた結果、肥満が増加していた。
千葉県芝山町他7カ所をフィールドとした過去9年にわたるコホート調査において肥満、血清脂質では強い、血圧では弱いトラッキングを認めた。「早食い」、「野菜摂取が少ない」、「運動量が少ない」ことを改善すると体重減少に効果的であった。運動量を多くするには親子で行う「ウォークラリー」が効果をあげた。
また、平成元年度生まれの富山県在住の小児約1万人を対象とした富山スタディでは3歳時から小学4年時までの生活習慣に関する資料をリンクさせて検討した結果、3歳時の肥満に関連した生活習慣は、小学4年時でも継続しており、生活習慣の継続性が、肥満形成のリスクを高める事が示された。このことから3歳時からの両親を含めた健康的な生活習慣の確立が、心身ともに健康な状態を維持する上で重要である事が示唆された。
食品摂取頻度調査に際し主食,肉類,魚類については80~90%補正が必要である。男女とも身長の成長には微量のエストロゲンが関与していることが分かった。未熟児では出生後の栄養が、神経性食欲不振症では運動量が骨発育に影響していた。小児期の超音波による骨密度測定にはまだ検討すべき問題が残されていることが分かった。
わが国小児に関する肥満、高血圧、高脂血症の判定基準が提案された。

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