WHO国際障害分類第2版の信頼性・妥当性・実用性に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000313A
報告書区分
総括
研究課題名
WHO国際障害分類第2版の信頼性・妥当性・実用性に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
上田 敏(日本障害者リハビリテーション協会)
研究分担者(所属機関)
  • 大川弥生(国立長寿医療研究センター老人ケア研究部)
  • 大橋謙策(日本社会事業大学)
  • 佐藤久夫(日本社会事業大学)
  • 丹羽真一(県立福島医科大学)
  • 山崎晃資(東海大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
WHO国際障害分類改定に日本の障害関連専門分野の研究者の意見を反映させよりよいものを作ることと障害の正しい捉え方の国内での普及を究極の目的として本年度はまずベータ2案の日本語訳につき障害者自身を含む広い範囲の関係者の意見聴取、英語学者の協力を得ての逆翻訳による検討を行い、日本語訳の最終的な確定を目的とした。ついでWHO国際障害分類第2版(ICIDH-2)の信頼性・妥当性、実用性の検討を目的とした。これらを通じて、ICIDH-2が身体障害者、知的障害者および精神障害者に関する疫学的研究の手段として、臨床的手段として、また障害者施策の上でどのように役立つかを検討することを目的とした。さらに今後の普及の前提としてICIDH初版に関する認識度の調査を行った。
1.翻訳の確定:1-1.逆翻訳による訳語の検討:語学専門家の協力をえて翻訳の質を高めることを目的とした。1-2.利用者の意見聴取:ICIDH-2は医学専門家だけでなく、福祉その他の関連分野の実務家(中間ユーザー)、さらに障害当事者(エンド・ユーザー)の使用も期待されるため、翻訳においてもこれらの人々の意見を最大限重視した。
2.信頼性の検討:本分類を用いて同一対象について異なる評価者が独立に評価を行った場合に、その結果がどれだけ一致するかを検討する。
3.妥当性の検討:本分類による評価と、すでに確立されている評価法によるものとを同一の症例について行い、相関をみる。
4.臨床的な介入前後の変化の検討:本分類による評価が、医療・リハビリテーション・福祉的対応などの臨床的介入の結果をどれだけ鋭敏に反映するかをみる。
5.WHO国際障害分類に対する認識度調査:利用者である医療・福祉専門職および障害当事者・関係者の本分類に関する認識度の把握を目的とした。
研究方法
1.翻訳の確定:1-1.逆翻訳による訳語の検討: 99語を対象として逆翻訳を行ない喰い違いの原因、解釈、必要な対応について逆翻訳担当英語学者と翻訳責任者2人が討議した。1-2.利用者に対する意見聴取:専門職団体36団体、障害当事者団体35団体に協力および協力者の推薦を依頼し、協力者の意見を求めた。更に研究者10名、専門職代表10名、障害当事者等代表10名の計30名(WHO国際障害分類第2版フィールドトライアル委員会)から上記をふまえて再度最終的な意見を聴取し最終的な日本語訳を決定した。
2.信頼性の検討:本分類の各次元と環境因子の章レベルで参加者がコードの選択(コーディング)をしているか、否かについての一致性を検討した。指標として、κ(Fleiss、1981)値を算出した。
2-1.標準ケースサマリーによる評価の信頼性:WHOが作製した25例の比較的短い標準ケースサマリーを用いた。
2-2.現実のケースによる評価の信頼性:病院・施設あるいは在宅の実際の障害者について実施した。
2-3.記録による評価の信頼性:複数の病院の診療記録(カルテ)について6名の評価者が独立にコーディングし、検者間信頼性をみた。
3.妥当性の検討:脳卒中患者204例について、「包括的QOL評価法」と本分類のコーディングとの順位相関をみた。
4.臨床的な介入前後の変化の検討:脳卒中で通常のリハ・プログラム(介入)を受けた後に「プラトー」と宣告されたケースに対し、目標指向的リハ・プログラム(再介入)を施行した例について、介入前、介入後、再介入後の3つの時点における障害像の変化をみた。
5.ICIDH-2に対する認識度調査:各種専門職・障害当事者155名に調査用紙を郵送した。
結果と考察
1.翻訳の確定:1-1.逆翻訳の結果:全99項目のうち、62項目が同一または同義語と考えられた。残り37項目のうちにもやむを得ないものと考えられるものが多く、約80%が妥当と認められた。1-2.利用者に対する意見聴取と日本語訳の最終決定:第1段階の意見聴取では専門職39名、障害当事者17名から意見があり、また第2段階の30人からの意見聴取でも多くの貴重な意見が寄せられた。それによって決定訳を完成した。
2.信頼性の検討結果:2-1.標準ケースサマリーによる評価:全評価数は266評価であったが、医療職に属する評価者の間のκ(一致率)が、概して高く、それに福祉専門職が加わった全専門職では一致率がやや低下することがみられた。
2-2.現実のケースによる評価の信頼性:病院、福祉施設、自宅等における現実のケースに対する評価を評価対象者63ケース、評価者54名、評価総数241評価で行った。現実のケースでは全般的に標準ケースサマリーよりも一致率が向上した。これは、現実のケースでは必要に応じて追加的な情報をとることができることによる。現実のケースでは医療職、全専門職、全専門職+当事者)間の差も比較的少なくなり、全体に信頼性は非常に高い。2-3.記録による評価の信頼性:内科のカルテよりもリハビリテーション科のカルテ、なかでも障害構造論に立つ「目標指向的リハ・プログラム」による病院のカルテが信頼性が高く、障害に対するものの見方の差を示した。
3.妥当性の検討:包括的QOL評価表との対応する項目の順位相関係数で、上肢ADLが最も高い相関(0.92)を示すほか、すべて0.7以上と高かった。
4.臨床的な介入前後の変化:通常のリハ・プログラムによる介入では活動の41.8%、心身機能30.0%、参加28.1%、環境因子11.0%の順で改善がみられた。再介入においては環境因子の改善がもっともよく(再介入45.1% 対 介入11.0%)、次いで参加(34.4% 対 28.1%)がよい。活動においてはほぼ同様(43.8% 対 41.8%)で、心身機能はかなり劣る(10.0% 対 30.0%)。これにより本分類は介入による障害像の変化を量的・質的に鋭敏に反映することがわかった。
5.認識度調査:本分類に対する認識度、改定の方向に関する理解度は相当に高かった。
結論
以上から、1)逆翻訳と広い範囲の有識者の意見聴取により、WHO国際障害分類改定第2版ベータ2案の日本語訳が完成した。2)本分類は高い信頼性と妥当性をもつ。3)本分類は臨床的介入の結果を鋭敏に反応する点で優れた実用性を有する。4)医療・リハ・福祉分野の専門家および障害当事者に対する意識調査で、本分類に関する認知度・理解度・改定の基本的方向についての賛同、「共通言語」としての期待等がいずれもかなり高かった。5)一方信頼性・実用性を高めるための研修、実施のためのマニュアル等が必要であることが痛感された。

公開日・更新日

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