高齢者の骨・関節疾患の予防・治療法の開発と疼痛緩和対策に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000251A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の骨・関節疾患の予防・治療法の開発と疼痛緩和対策に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
岩本 幸英(九州大学大学院医学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 菊地臣一(福島県立医科大学医学部整形外科)
  • 木村友厚(富山医科薬科大学医学部整形外科)
  • 中村耕三(東京大学大学院医学研究科・整形外科)
  • 廣田良夫(大阪市立大学医学部・公衆衛生学)
  • 武藤芳照(東京大学大学院教育学研究科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
19,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、中高年者の関節疾患の中でも極めて発生頻度の高い変形性関節症および脊椎変性疾患に対して、疫学的手法、分子生物学的手法、また運動生理学的手法を用いて発症および増悪因子の解明を行い、予防対策から薬物治療、さらに人工関節を含む手術的治療に至る治療体系の確立を目指すこと、そして、広く国民に対して、変形性関節症や脊椎変性疾患に関する知識と理解を深めることを目的とする。
研究方法
1.疫学的研究:変形性膝関節症、変形性脊椎症、骨粗鬆症などの有病率や発症および重症度に関与する因子について解明する目的で、福岡県新吉富村と福島県南会津郡田島町と館岩村における住民調査、および3大学病院(岡山・神戸・九州)における変形性膝関節症の患者調査を実施した。
2.老化メカニズムの解明:慢性関節リウマチと変形性膝関節症を対象にして、培養骨芽細胞の細胞増殖能、骨芽細胞活性、骨基質合成能ならびに細胞寿命における細胞分裂可能回数、テロメア長を分析し、donor ageとの関連を検討した。さらに培養骨芽細胞にテロメラーゼの発現を誘導するhTERT cDNAを導入し、細胞寿命延長の可能性について検討した。
3.脊椎変性疾患の発症解明:発症に加齢による影響が大きいと考えられる骨軟骨疾患である骨粗鬆症および変形性腰椎症におけるklotho遺伝子の関与について、最終exonの下流のCA反復配列を指標としたマイクロサテライト多型を用いて解析を行った。
4.運動生理学的研究:三町村において住民検診を受けた60-79歳の中高年559名(男性211名、女性348名)について、過去1年間における転倒経験を聴取すると共に、体型・体格と健脚度を測定した。また、東京厚生年金病院転倒予防教室の参加者について、運動・生活指導の介入に伴う身体面・心理面の効果並びに修了者の転倒・受傷状況を検討した。
5.変形性膝関節症に対する治療法の開発:高屈曲可動域を有する次世代人工膝関節の開発に関連して、正常膝における深屈曲での膝蓋骨トラッキングと膝蓋大腿関節の形状をMRIを用いて解析した。さらに深屈曲での人工膝関節の動態解析を行うため、術直後に、麻酔下において膝関節を90度から最大屈曲位まで他動的に屈曲させ、側面X線像を撮影し、パターンマッチング法を用いて人工膝関節の3次元動態を解析した。
6.脊椎変性疾患に対する治療法の開発:高齢者に多い腰部脊柱管狭窄症に対する治療法の開発を目的に、馬尾慢性圧迫モデルを用いて、慢性圧迫下での馬尾機能に対するBeraprost Sodium (Prostaglandin I2) の治療効果を検討した。
結果と考察
1.疫学的研究:変形性膝関節症の対する年齢、性別、体重および脊椎症の関与が認められた。体重は症状の重症度にも深く関与しており、体重コントロールの重要性が認識された。また、最も長く従事した職業(ブルーカラー)で正の関連を示したことから、mechanical stressが症状の重篤化を促すと考えられる。学生時の運動習慣が、負の関連を示したことは、若い頃の筋力強化が加齢後においても症状重篤度の軽減に有用であることを示すものであろう。一方、腰痛の有病率は70才まで増加傾向を示したが、これは、女性高齢者における骨粗鬆症による腰痛が影響しているためであろう。有病率や経験頻度などの疫学指標の年代別変化率は、X線学的な椎間板変性と比較すると低頻度であり、このことは、無症候性の椎間板変性の存在を裏づけていると考えられた。
2.関節老化メカニズムの解明:また老化メカニズムの研究では、膝傍関節部由来の骨芽細胞の増殖能、骨芽細胞活性、細胞分裂寿命およびテロメア長は経年的な減少をみたことから、加齢に伴う関節近傍の骨梁減少に骨芽細胞の細胞老化が関与することが示唆された。テロメラーゼ活性を骨芽細胞に誘導する本研究を通じて、骨形成能を維持した状態で細胞寿命を延長する手法が開発できれば、加齢に伴う骨粗鬆症に対する治療法の新展開に大きく寄与するものと考える。
3.脊椎変性疾患の発症解明:若年における変形性腰椎症の発症・進展の背景にKlotho遺伝子が関与し低いる可能性を示した。今回の相関が若年群で見られたのは、変形性腰椎症の発症進展において重要な環境因子である慢性的持続的な力学負荷の蓄積の影響が若年群ではまだ少ないためと考えた。
4.運動生理学的研究:健脚度は男性においては、転倒群と非転倒群において有意な差が示されたが、女性においては40cm踏台昇降にのみ有意な差が生じた。これは、易転倒性における性差を示唆するものであり、今後の更なる研究の課題となるうる。また、東京厚生年金病院で行っている転倒予防教室は、直接的な評価及び指導により移動能力や平衡バランス能力などの向上を認めている。さらに、身体機能だけでなく、心理面においても改善・向上しており、転倒動作の回避能力は心身両面において獲得されると考えられる。
5.変形性膝関節症に対する治療法の開発:膝蓋骨は深屈曲において内傾し、かつ外側に偏位し、顆間窩へ沈み込んだ。膝蓋大腿関節形状を人工膝関節デザインに取り入れることにより可動域の改善が期待される。また、術中での人工膝関節深屈曲の解析では、大腿骨コンポーネント後顆のエッジ接触のポリエチレン破壊への影響は無視できないと考えられ、深屈曲を許容するためには後顆部分のデザイン変更が必須であろう。
6.脊椎変性疾患に対する治療法の開発:脊椎変性疾患に対する治療法開発では、1週間の馬尾慢性圧迫により出現する神経伝導速度の低下が、Beraprost Sodiumの経口投与により抑制できることが判明し、Prostaglandin I2が、腰部脊柱管狭窄による間欠跛行の治療薬の一つとなりうる可能性が示唆された。
結論
1.疫学調査により変形性膝関節症の危険因子、重症度関連因子について明らかにした。
2.慢性関節リウマチにおける傍関節性骨粗鬆症の発症機序に、骨芽細胞の細胞活性の低下および細胞老化に伴う骨形成能低下が関与することが明らかにし、テロメラーゼ活性を発現させることで細胞老化を克服する可能性を示した。
3.若年における変形性腰椎症の発症、進展の背景にKlotho遺伝子が関与している可能性が示された。
4.転倒回避能力の評価法として健脚度を用い、性差が認められた。病院内での転倒予防教室の介入は、転倒回避能力としての健脚度及び平衡機能等の身体機能レベルを向上させ、また心理面での向上効果もあることが示された。
5.深屈曲に対応する人工膝関節の膝蓋大腿関節および大腿骨後顆形状について考案した。
6.Prostaglandin I2が、腰部脊柱管狭窄による間欠跛行の治療薬の一つとなりうる可能性が示された。

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