バーチャルリアリティを利用した高齢者用の看護・介護支援機器の開発(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000206A
報告書区分
総括
研究課題名
バーチャルリアリティを利用した高齢者用の看護・介護支援機器の開発(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
中島 一樹(国立療養所中部病院 長寿医療研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 山口隆美(名古屋工業大学)
  • 三池秀敏(山口大学工学部)
  • 手嶋教之(立命館大学理工学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
痴呆や寝たきりなどで介護が必要となった高齢者とその高齢者を介護する側との双方が高い生活の質(QOL: Quality Of Life)を保つためには、双方ともに充実した有意義な時間を過ごす必要がある。介護者は高齢者の看護・介護だけでなく生活全般の作業があるために多忙を極めており、時間的、精神的に十分な余裕を持っていないことが多い。高齢者と介護者が生きがいのある生活を営むためには、高齢者の思考や回顧を促し、さらに自発的な行動や作業を支援し、身体的な看護や介護だけでなく、精神的にも安定した生活を営めるように支援する装置が必要である。バーチャルリアリティ技術を利用して高齢者が楽しみながら生活を営めるような支援機器を用いれば、介護する側は自由な余暇時間を持つことができ、高齢者だけでなく介護する側双方のQOLを高く保つことができると期待できる。さらに、在宅における高齢者の定期的な健康診断に本研究で開発するハイパーホスピタルを用いれば、高齢者の疾病を早期に発見し、進行を防ぎ、早期に治癒させることが期待できる。本研究では、介護が必要となった高齢者とその高齢者を介護する側との双方が高いQOLを保つために、バーチャルリアリティ技術を用いて高齢者用の看護・介護支援機器の開発を目的とした。
研究方法
昨年の研究成果を基に次の4項目を4人の班員が各自のテーマをそれぞれ分担して研究を行った。 1. アミューズメントシステム(中島) 痴呆性老人を対象とした初年度の研究成果で、視覚刺激が有効であることが明らかとなり、これに基づき視覚刺激の試みとして痴呆性老人専用施設で動物型玩具を提示した。さらに視覚刺激だけでなく聴覚をも含めた刺激として、高齢者と擬似的に会話するシステムを開発し、重度痴呆性高齢者を対象として有効性を確認した。 2. ハイパーホスピタル(超病院)システム(山口) 本年度の研究では、開発したハイパーホスピタルを在宅介護・看護へ展開するためのネットワーク上で、患者・要介護者の自宅において見守り通信のための機能を果たすユニットとしてのいぬたネットおよび外部から支援する要員のためのウエアラブルコンピュータおよびこれとデータを交換するための家庭内データベースサーバーを開発した。 3. インタラクティブシステム(三池) 本システムでは、動画像情報とステレオ音声情報を入力として、自己組織化データベースの概念を含む新しいニューラルネットワーク技術を開発することで、高齢者にとって感情移入できるバーチャル・キャラクター(孫のイメージ)の開発を目指している。今年度は2年目であり、基盤技術の開発を進めると伴に、インタラクティブ・システムの雛型を試作した。キャラクターの質問に対し、高齢者(被験者)が「はい」と「いいえ」で回答する場面を想定し、動画像情報処理で得た特徴情報を認識しキャラクターがこの動作を真似するという、システムの基本機能を実現した。 4. 意欲向上システム(手嶋) 高齢者の訓練中の意欲を向上するための意欲向上システムの開発を目的に2種類の実験を行った。まず実験1として、高齢者の意欲を向上するための刺激要因として、①よく知っている、②昔を懐かしむ、といった要素が重要であるという仮説のもとに、実験を行った。高齢者37~42名に対して音楽を提示し、知名度及び娯楽度、楽しかった又は楽しくなかった理由につき調べた。次に、意欲の状態を検出しながらの意欲向上刺激が重要であるとの前年度の成果を踏まえて、実験2として、脳波による意欲の測定を試みた。今回は基礎実験として若
年者5名を被験者とした。実験では作業中にラベンダーの香を嗅がせて折り紙を折る作業を行わせ、脳波、主観評価及び作業効率の影響を調べた。
結果と考察
1. アミューズメントシステム 動物型玩具を導入した場合としない場合を比較すると、何もしない人々が玩具に興味を示す傾向が顕著であったが、閉眼、問題行動、他者との交流に関しては顕著な差が見られなかった。入所者の中には玩具に強い関心を示し、手を叩いて呼ぶ動作をしたり、抱き上げなどの行動を伴うことがあった。一方、玩具が近寄ってきても全く関心を示さなかったり、足で排除する行動を示す場合も見られた。疑似会話システムは発話者の訴えを音声認識エンジンにより音声認識し、適宜、話題に最適な返答を返すシステムとした。介護者が対応した場合には訴えに対する応答の頻度は多くない傾向があった。一方、疑似会話システムが応答した場合には、被介護者の訴えすべてに応答しているが、訴えの頻度が高い傾向があった看護や介護の必要な高齢者において、特に精神的な安定が得られるような配慮として、ダイバーショナルセラピー(気まぐれ療法)の一環として玩具の提示を行った。最終年度は視覚情報と聴覚情報の両者を含めて、定量的な評価を試みる。 2. ハイパーホスピタル(超病院)システム いぬたネットシステムは、内部において、複数の小型PCがネットを組み、インタネット上で、ブラウザをインタフェースとして、クライアントとしてではなくサーバとして機能し、多対多の接続形態を確立するといった、新しいアイデアが盛り込まれている。介護支援者のウェアラブルコンピュータについては、数種類を試作し、要介護者家庭内データベースサーバへの自由な接続と制御が可能であるものを開発することができた。開発したハイパーホスピタルを在宅介護・看護へ展開するためのネットワーク上で、患者・要介護者の自宅において見守り通信のための機能を果たすユニットとしてのいぬたネットおよび外部から支援する要員のためのウエアラブルコンピュータおよびこれとデータを交換するための家庭内データベースサーバーを開発し、その基本性能を確認した。最終年度には、これらを現場で検証するとともに、補助的なシステムを開発統合することにより、総合的なハイパーホスピタルシステムの開発を目指す。 3. インタラクティブシステム 特徴情報の抽出には、リアルタイム処理可能な独自の動画像処理手法を導入した。波長の異なる空間フィルタからの速度時間変化のスペクトル出力をニューラルネットワークの入力とし、典型的な被験者の動きを学習させることで(バックプロパゲーション)被験者の肯定・否定の動作を認識させた。また、認識結果に基づき、別途デザイン開発したバーチャル・キャラクタのモーションを出力し、仮想的な被験者とキャラクターのコミュニケーションを実現した。キャラクタのデザインを決定する際、モデリング手法の実際についても検討を加え、3次元仮想空間だけのモデリングだけでなく、粘土による造形を経由する実空間のモデリング+3次元局面形状計測装置を導入することで、より魅力的なキャラクタの実現が可能となった。今後、音声・画像メール、情報収集機能(ニュース、天気予報)などを追加すると伴に、キャラクターのしぐさ・表情を工夫しインタラクティブ・システムの完成度を高めていく。 4. 意欲向上システム 実験1の結果、「さくらさくら」と「月月火水木金金」は知名度・娯楽度とも高かったのに対し、「1919」は両者とも低かった。娯楽度の理由の分析結果から、一般的に前述の仮説が正しいことが示せた。実験2の結果、全員の結果を平均すると香有りの条件の方が脳波の中のβ波が増加する傾向が見られたが、個々の被験者の個々の時刻に対して意欲との間に明確な関係があるとは言えなかった。実際の訓練の際に脳波用電極を取りつけることは現実的ではなく、この点も含めて脳波による意欲測定は難しいことがわかった。高齢者の意欲向上のための刺激としては高齢者がよく知っている内容や昔を懐かしむ刺激が有効であること、また、高齢者の意欲の状態を脳波から測定する
ことは難しいことを明らかにした。脳波以外に意欲を訓練中に簡便に測定できる方法は現在のところ無い。歩行訓練において歩行速度が意欲とは必ずしも一致していなかったという昨年度の結果はあるが、これ以外に有効な指標はなく、不完全であっても歩行速度を指標にするのがよいと考えられた。
結論
本研究では、介護が必要となった高齢者とその高齢者を介護する側との双方が高い生活の質を保つことを支援する機器の開発を目的とする。本年度は昨年度の研究成果を基に、バーチャルリアリティ技術を用いたアミューズメントシステム、ハイパーホスピタル(超病院)システム、インタラクティブシステム、意欲向上システムに関して、高齢者用の看護・介護支援機器としての基礎的研究・調査および機器の開発をさらに進めた。

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