高齢者の変形性関節症の成因および病態に関する総合的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000188A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の変形性関節症の成因および病態に関する総合的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
岩田 久(名古屋大学)
研究分担者(所属機関)
  • 石黒直樹(名古屋大学)
  • 原田 敦(国立療養所中部病院)
  • 渡辺 研(国立長寿医療研究センター)
  • 山田芳司(財団法人岐阜県国際バイオ研究所遺伝子治療研究部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
14,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1, 関節液中の各種物質測定と臨床所見との対比による関節破壊機序の理解、臨床的に用いうる関節症マーカー(関節破壊指標物質)の開発。2, 軟骨破壊における軟骨細胞の役割、細胞内の伝達機構の検討。3, 脊椎における変形性関節症(以下OA)である変形性脊椎症の発症機序や進行機序に関する全身的因子との関連の解明。4, 関節液中のOCIFとTGF-β1濃度の測定により、OA膝の発症進展におけるこれらのサイトカインの関節局所での役割の解明。5, TGF-β、BMPなどのTGF-βスーパーファミリーの細胞内シグナル伝達には、一群の伝達因子Smad分子が主要な役割を担っており、Smadのレセプターとの会合、細胞内代謝はSmad結合蛋白によって調節されている。TGF-β、BMP依存性の遺伝子発現調節は治療に応用可能と考え、軟骨細胞でのSmad分子の調節因子の解明、以上5項目を目的とした。
研究方法
1, OA・慢性関節リウマチ(以下RA)膝関節液を対象とした。関節液中MMP-1,-2,-3,-8,-9,-13及びTIMP-1,-2はELISA法, コンドロイチン4硫酸、6硫酸、ヒアルロン酸は2糖に分解後HPLCにて,ケラタン硫酸, Type II collagen C-propeptideをELISAにて測定した。Cleavage epitope of type IIcollagen, 846 epitopeはカナダRobin Poole博士の協力で測定した。レントゲン写真分類は3段階に分類した。関節液中の物質間での相関関係及び、病態の進展と各種物質濃度の関連を検討した。2, ヒト軟骨組織由来細胞株HCS2/8を用いてTNF-αを1時間作用させ細胞を回収し、EMSA法による転写因子NF-κBの活性化およびCOX-2, MMP-1, 3遺伝子発現のNorthern法による観察を行った。Proteasome inhibitor(以下PI)を用いてNF-κBの活性化及びIκBの分解、各遺伝子の発現に与える影響を調べた。対照に骨芽細胞細胞株を用いてNF-kBの活性化の違いを検討した。3, 原田の研究では3年度にわたり腰椎MRIと骨量測定を実施した閉経後女性を対象とした。計測項目は正中矢状断椎間板面積と椎間板突出率である。脊柱管狭窄は硬膜管面積で評価した。DEXAにより全身骨BMDを計測し、Body Compositionから脂肪量、Lean mass, Bone mass content(BMC)を求めて椎間板および硬膜管計測値との関連を検討した。2年度では3年以上経過観察例での検討を行った。4, 渡辺の研究ではOA膝160例およびRA膝40例から治療目的で採取した滑液中のOCIF・TGF-β1濃度をELISA法で測定した。OA膝60例・健常者60例の血清OCIF濃度を測定した。各症例の膝関節X線および他の臨床所見とこれらの測定値とを比較検討した。5, 山田の研究では・結合実験:[35S]Met・in vitro trasnlationラベルでGST融合タンパクとの結合をGST特異的沈降法により調べた。in vivo結合試験では、Smad(Smad1, 2, 4, 5, 6, 7)とFilaminの各部位に対する断片を発現するベクターを細胞に導入、共免疫沈降法で結合を調べた。・転写活性化実験:TGF-β応答性レポーター遺伝子3TP-luxをSmad・Filaminコンストラクトと共に細胞に導入、ルシフェラーゼ活性を測定した。・核内移行試験: TGF-β処理後、抗Smad2抗体・FITC結合抗マウスIgG抗体を用いて、間接蛍光抗体法により観察した。
結果と考察
1, MMP-13は両疾患で測定限界以下を示すものが多かった。両疾患でプロテオグリカン(以下PG)の分解物由来物質とMMP・TIMP 濃度の相関が見られず、PG分解にはAggrecanaseの関与が疑われた。PGの合成はOAでは進行初期に亢進し、コラーゲンの合成は軟骨基質の破壊が進行した中等度の関節症で高まる変化を示した。RAではこれら物質の合成は末期に明らかに低下
した。PG分解はOA初期に上昇する傾向を示した。Collagen分解の指標には明らかな変化を見いだすことが出来なかった。2,軟骨組織由来細胞HCS-2/8細胞では、TNF-αによって活性化されるNF-κBは、p50-p65 heterodimer を形成、濃度依存性にDNA結合能は上昇した。COX-2, MMP-1, 3遺伝子発現もTNF-α濃度依存性に増加した。NF-κB活性化に伴いIκBα,IκBβのリン酸化、分解、細胞質からの一過性消失が見られた。細胞質内のIκBα,IκBβ共に、後12時間で増加する傾向が見られた。抗酸化剤がNF-κB抑制効果を持つことは滑膜細胞・骨芽細胞で明らかだが、本細胞株ではNF-κB活性化阻害は見られなかった。PI は、IκB分解を阻害、NF-κBの核内移行を妨げ、DNA結合能上昇を抑制することを確認した。TNF-αによる標的物質遺伝子発現もPIによって著明に抑制された。IκBα,IκBβ合成促進・分解抑制はNF-κB活性化抑制による治療法の候補であると思われた。3, 全身骨BMDやBMCと椎間板変性との正の相関で、骨量が増えると椎間板圧縮が進むという関係であった。軟部組織量の椎間板変性への影響について、最終的にロジスティック回帰により両軟部組織量の影響は否定された。平均4年10ヶ月の間に椎間板変性が進行した群は、全く進行しなかった群より全身骨BMDの減少が少なかった。硬膜管面積は、全身骨BMD、体組成組織量のいずれとも有意な相関を持たなかった。全身骨量が主に影響するのは椎間板中央の容積に対してであり、椎間板周縁部は必ずしも連動しないため、臨床的により重大な脊柱管狭窄には関連しなかった。4, OAではRAに比べ滑液OCIF濃度が約2倍高く、X線診断によるOA膝の重症度に依存してその濃度が増加した。滑液OCIF濃度はOA膝では血中濃度の約8倍、RAでは約4倍と血中濃度に比較し高値であった。滑液TGF-β1濃度はOA膝では血中の約1/50と低値であり、重症度との関連は認められなかった。RAの滑液TGF-β1濃度は膝関節症に比べ2-3倍高値であった。OA膝において重症度依存的にOCIF濃度が増加した理由は、関節軟骨障害に対する代償機構と考えられた。5, Smad1、-2、-4、-5、-6がFilaminと結合した。FilaminはBMPシグナリング以外に、Smad2を介しTGF-βシグナルにも関わる可能性が示唆された。TGF-β反応性レポーターp3TP-luxの転写活性比較では、TGF-β処理による活性上昇はFilamin欠失細胞M2で低下し、Filaminの強制発現で上昇の回復がみられた。TGF-β処理によるSmad2の核内移行を免疫蛍光染色で観察、TGF-β処理1時間後のA7にはSmad2の核内蓄積が認められ、M2には認められなかった。FilaminはSmad2のレセプターのリン酸化過程で働き、Smadを活性化されたレセプターの近傍に動員する役割を担う分子の一つと考えられた。FilaminとTGF-βレセプターがcaveolin-1に結合してカベオラに存在することが報告され、細胞内でFilaminがSmadのシグナルに関与している可能性が示唆された。
結論
1,PG合成はOAの進行初期に亢進し、コラーゲンの合成は破壊が進行した中等度関節症で高まる変化を示した。RAでは末期に低下する傾向が見られ、両疾患で基質合成が病期に強く影響を受けることが示唆された。コラーゲン、PGの分解は一定の傾向が見られなかった。PG分解産物はMMPとは相関を示さず、他の酵素の関与が示唆された。2,軟骨組織由来細胞においてTNF-αが、炎症性物質、関節破壊に関わる遺伝子発現を増大、軟骨基質破壊にNF-κB活性化を介して軟骨細胞自身が関わるものと考えられた。NF-κB活性化の抑制で、炎症・関節破壊を抑制できる可能性があると考えた。その抑制には骨・滑膜細胞と違う細胞代謝条件を考慮する必要があると思われた。3,閉経後女性の腰椎MRIにおける椎間板変性および脊柱管狭窄と全身BMD、脂肪量、Lean Mass、BMCの関係を検討した。軟部組織は関連を示さなかったが、骨量は椎間板変性に正の相関を有し、何らかの影響を与えていると考えられた。一方、脊柱管狭窄はいずれの因子とも関連していなかった。4,OCIFは関節軟骨障害に対する防御因子としての役割を有する可能性が示唆された。この分子メカニズムを解明することによりOA膝の新しい治療法の
開発が期待される。5,軟骨の形態形成・維持、ならびにOAの病態と深く関わるTGF-βのシグナル機構において細胞骨格因子Filaminが重要な役割を担っていることを明らかとした。

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