実験動物の加齢解析、加齢個体育成と新モデル開発に関する研究

文献情報

文献番号
200000160A
報告書区分
総括
研究課題名
実験動物の加齢解析、加齢個体育成と新モデル開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
田中 愼(国立療養所中部病院長寿医療研究センター)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
11,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
長寿科学を研究し、加齢の機構を知り、解明するうえで動物モデル系は、
1) 個体を扱う
2) 実験的な証明を行なえる
という点から必須のアイテムである。しかし当該分野では、適正且つ貢献度の高い動物モデル系が育成され、利用されているとはいえない。
本研究では寿命の短さを利し、小型げっし目で育成された実験動物を対象に、
i) 実験動物の加齢過程の特定、
ii) 加齢個体の育成と
iii) 新しいモデル系の開発
を各論に実用的なモデル系のモニター開発とこれに資する指標の特定に取り組み、結果をcommon (指標についてヒトとあるいは大きい集団と共通) とspecific (指標について系に特異) に分け、長寿科学に適し、効率良い動物モデル系を推奨し、標準化と外挿に対応することを目指した。
最も基本的な加齢動物育成、順次加齢させ、飼育環境に特異な種や系統の寿命や生存率を取得した後、月齢縦断あるいは横断的に加齢変化をcommonあるいはspecificに捉え、ヒトへの外挿を考察することが必須である。
国立療養所中部病院長寿医療研究センター(以下NILS)は、加齢動物育成施設:Aging Farm(以下A/F)を設け、2つの実験動物種、SAM群3系統を含む7つの近交系でこれを実行した。本研究は、実験動物の加齢育成を複数の指標で捉え、より広範なデータの集積に挑み、指標から新モデルの探索も行った。
研究方法
生存率:当A/Fでは、NILS A/F Guideに則って加齢動物の育成を行っている。株式会社日本エスエルシーへはC57BL/6、AKR/J、A/J、BALB/c、CBA/N、DBA/2の6系統の加齢育成と生存曲線の取得を業務委託した。これらの系統を選択したのは、対照として当A/Fでも加齢育成を行っているC57BL/6、当A/Fでは加齢育成しておらず、自家繁殖による加齢育成を行っているSAMR1、SAMP6とSAMP8の3系統の近交系マウスの成立に関わっているとされているものと種々の研究分野で頻用されているものを選択した。当A/Fで自家繁殖し、加齢育成している、SAMの成立に関わったとされるDDD/Jahとの比較も視野に入れて選択した。結果をより有効に利用し、commonな特性を捕捉することを目的にコントラクトする系統を決定した。生存率は、コントラクト群ならびにブリーダーから群で定期的に購入し、加齢育成しているF344/NラットとC57BL/6マウスでは構成個体数が減少していく過程を、自家繁殖しているマウス系統では同様な死亡日齢を積算することで算出した。生存範囲、平均生存日齢、75%-、50%-、25%-、10%-生存率となった日齢と各群で最も長く生存した10個体の平均日齢を取得し、系統と性毎に比較した。この中から、commonとspecificな特性を選別できるよう、病理学的な解析も含め、詳細に比較した。
副腎皮質層構成:NIAのコントラクトA/Fから購入したF344/N、BNならびに(F344/N x BN) hybrid F1ラットを両性で用いた。F344/Nの加齢変化が顕著ではなかったので別の目的でNIAから購入した個体や当A/Fで加齢育成した個体をも用いて結果の再現性に留意した。
①3-4、②10-12、③20-24、④28-32か月齢の4群でそれぞれ6例以上となるよう回次を重ねて購入し、形態学的に副腎皮質を比較した。①と②の間で差を検出出来れば成長/成熟時の変化が、②と③の間では加齢による変化が、③と④の間では老化に依る変化が特定出来ることを期待した。過量のクロロホルムで動物を屠殺し、両側の副腎を摘出し、秤量して腺萎縮の有無を確認し、腺を長軸に垂直な面でほぼ等割し、Bouin液で24時間以上固定した。水洗後、ピクリン酸の色を70%エタノールを繰り返し交換して抜き、定法に従ってアルコール系列で脱水し、パラフィンに包埋した。2μの連続切片としてHE(ヘマトキシリン、エオジン)染色を施し、核の集積程度を確認し、異常な明調細胞の出現をモニターした。Azan(Mallory-Heidenhain)染色で結合組織を染色し、結合組織の動態と層構成維持の程度を確認し、明調細胞の出現と出現部位並びに巣状化との関連を検索した。皮質内層の加齢変化は、種・系統・性によってspecificであり、有用なモデル系を探索したり、初動の手がかりとするには良い指標であることが明らかにできた。
肺の加齢変化:F344/Nの新たなモデルとしての特性開発を目指し、組織学的に肺を検索した。副腎と同様NIAのコントラクトA/Fから購入ないし当A/Fで加齢育成したF344/NhsdないしF344/Nを用いた。肺は4%パラホルムアルデヒド液による血管ならびに気管かん流固定ないしは、気管に挿入したカニューレからBouin液をかん流し、肺が胸腔に密着するまで膨らむよう固定した。組織標本の作成は、副腎とほぼ同様な方法でパラフィンに包埋し、4μの連続切片とし、HE染色、レゾルシン-フクシン染色と免疫染色を施し、弾性線維の変化に注目した。加齢とともに肺胞腔が拡大し、気管支周囲の平滑筋層が薄くなることを見い出した。これらの変化は24か月齢以降顕著となり、生理学的に捕捉された機能低下の時期と一致していた。機能の低下は、肺に取り込まれた空気を排出する機構で先に生じ、ヒトの加齢変化と良く一致していた。
結果と考察
結論
生存率は系統と性特異的(specific)に再現性を示した。これは系統特性として、加齢動物の育成で有効な指標と出来る。生存曲線は、加齢や遺伝背景に依存して生じる疾病によって修飾され、特性捕捉の指標ともなる。
副腎皮質層構成の加齢変化は、げっし目や哺乳動物の実験動物を比較する指標として有用である。
F344/Nラットの肺でヒトへの類似性が期待出来る加齢変化を捕捉出来(common)、加齢個体に新たな用途を開発した。

公開日・更新日

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