成人T細胞性白血病 (ATL) への同種末梢血幹細胞による骨髄非破壊的移植療法の検討(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000148A
報告書区分
総括
研究課題名
成人T細胞性白血病 (ATL) への同種末梢血幹細胞による骨髄非破壊的移植療法の検討(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
岡村 純(国立病院九州がんセンター)
研究分担者(所属機関)
  • 園田俊郎(鹿児島大学)
  • 朝長万左男(長崎大学)
  • 神奈木真理(東京医科歯科大学)
  • 木村暢宏(福岡大学)
  • 河野文夫(国立熊本病院)
  • 宇都宮與(慈愛会今村病院分院)
  • 田野崎隆二(国立がんセンター中央病院)
  • 増田昌人(琉球大学)
  • 鵜池直邦(国立病院九州がんセンター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 がん克服戦略研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、西日本に多発し予後が極めて不良であるATLに対して、従来とは異なる概念に基づいた移植法を実施して、その安全性および有効性を検討することにより新たな治療体系の確立を目指す。具体的には、"骨髄非破壊的"な薬剤を用いる移植療法と同種末梢血幹細胞移植を組み合わせた方法を行うことによって坑白血病効果を期待するとともに、HTLV-Iウイルスに対する免疫療法としての効果も検討し、今後のATL治療に活用するための分子学的検索と治療研究を推進することを目的とする。そのために(1)詳細な移植実施計画書を作成、検討する。(2)ATLに対する同種骨髄移植成績を解析し問題点を検討する。(3)本研究(新規治療法)に伴う基礎的課題について検討する。すなわち(3-1)ATL患者の骨髄移植療法におけるHTLV-IプロウイルスDNA量の測定に関する研究(3-2)骨髄非破壊的移植療法後の造血細胞動態に関する研究(3-3)宿主免疫とHTLV-I腫瘍に関する研究。(3-4)移植前後のT細胞抗原受容体(TCR)Vレパートリーおよび微小残存白血病(ATLクローン)の解析 を行う。
研究方法
(1)研究班において、移植実施計画における研究対象と方法、主要評価項目、副次的評価項目、患者の適格条件、末梢血幹細胞採取、目標症例数、研究中止の条件などについて検討する。(2)研究班参加6施設におけるATL同種骨髄移植症例を集積し、解析する。(3)本研究に伴う基礎的課題、すなわち(3-1)ATL患者の同種骨髄移植療法前後におけるHTLV-IプロウイルスDNA量の変動に関する研究(3-2)骨髄非破壊的移植療法後の造血細胞動態に関する研究(3-3)宿主免疫とHTLV-I腫瘍に関する研究(3-4)移植前後のT細胞抗原受容体(TCR)Vレパートリーおよび微小残存白血病(ATLクローン)の解析 を行う。
結果と考察
(1) 本研究に関する移植実施計画書を作成して、研究班参加の6移植施設(国立病院九州がんセンター、国立がんセンター、国立熊本病院、琉球大学病院、鹿児島今村病院、長崎大学病院)の倫理委員会に提出し、2001年3月までに全施設において承認を受け、症例登録を開始した。(2)研究班参加6施設において、2000年12月までに同種骨髄移植を受けたATL 23症例の移植結果を解析した。22例で生着が得られ、急性GVHDが10例に発症し、うち重症の2例は死亡した。慢性GVHDは評価可能であった17例中6例35%に発症した。23例中9例が死亡、その原因は、再発が2例で、残る7例は感染症、GVHD、TMAなどの移植関連合併症によるものであった。14例が生存中であり、3年生存率は47%であった。(3-1)ATL患者の骨髄移植療法におけるHTLV-IプロウイルスDNA量を測定するためPCR定量装置LightCycler システムによる測定方法を開発し、その有用性について検討した結果、ATL患者の1000細胞当たりのプロウイルス量は761.6±-875.2コピー、HTLV-Iキャリアのプロウイルス量は64.9±73.9コピーであり、前者群は後者群に比し10倍量のHTLV-Iプロウイルス量であった。ATLで同種骨髄移植を受けた患者の凍結保存末梢血リンパ球中のHTLV-Iプロウイルス量を経時的に測定した結果、移植前の318コピーが移植後には8.7-24.8コピー(24ヶ月)に減少し、HTLV-Iキャリアの平均値以下のコピー数をを維持していた。本法によるHTLV-Iプロウイルスの測定方法は、迅速、高感度であり、多検体処理を可能とし、ATL骨髄移植後のHTLV-Iプロウイルス量の測定に有用であることが明らかになった。(3-
2)個体間で多型性に富むマイクロサテライト領域の一種であるshort tandem repeat (STR)に着目し、同種移植後の混合キメラの定量法をSTR-PCR法により検討した。同種移植を受けたドナー/患者ペア20症例の末梢リンパ球からゲノムDNAを抽出し各リピート配列(9領域)をAmpFISTAR Profiler PCR Amplification Kitを用いてPCRにより増幅し、PCR産物をABI310自動シークエンサーで解析した。キメラ率の結果は48時間以内に得られ、検出限界は5~10%であった。検討した20ペア全例でドナー/患者の定量的識別が可能であった。移植後の完全キメラの達成過程は、前処置法の違い、すなわち骨髄破壊的か非破壊的かにより異なることが示唆された。本解析法は、今後骨髄非破壊的移植後の血液/免疫回復動態の解析などに極めて有効な手段になると考えられる。(3-3)本研究では、移植前後の細胞性免疫応答の試験管内解析とアッセイ方法の確立を試みる計画である。これには、個々の例について宿主のHTLV-Iあるいはドナー特異的T細胞応答、ドナーHTLV-Iあるいはレシピエント特異的T細胞応答を調べるため、事前に宿主・ドナーの双方から個体特異的なHTLV-I感染あるいは非感染標的細胞株を樹立する必要がある。慢性ATL患者、寛解ATL患者等の末梢血から、宿主免疫応答を調べる目的で種々の細胞株の作成に着手した。臨床サイドと末梢血単核球の採取や保存方法を協議し始動した。ATL患者および骨髄移植ドナーから、免疫応答解析を目的とする細胞株樹立を開始した。(3-4)ATLの診断時に、ab-T細胞であるATLクローンのVb/Va を我々の開発した簡略 Inverse RT-PCR法を用いてATLクローンのもつ特定Vb/Vaレパートリーを判定し、Jb PCRやSSCP法によりCDR3領域の単一性を検討する。この方法で実際のATL患者2例で検討した。1例はアロ移植後完全寛解となつている。アロBMT前末梢血中に30%存在したクローンは、その時期10-4以下となつていた。2例目は、慢性増悪期の症例で末梢WBC3万、70%がATL細胞であつたが、化学療法とサイトメガロウイルス感染症によりATL細胞は2.5%~+-に減少し約1年その状態を維持している。半定量的結果もそれと同様であつた。簡略 Inverse RT-PCR法を用いてATLクローンの特定Vb/Vaレパートリー判定、それに続く一連の検討によるTCR遺伝子クローンの決定、及び半定量法は微小残存細胞の判定に有効である。これにより、骨髄非破壊的移植法における免疫療法の重要な情報を提供するものと思われる。
結論
骨髄破壊的同種骨髄移植を実施したATL症例の解析では、移植後の生存率は良好であり、確立した高感度HTLV-Iプロウイルス定量法を用いると、移植後の患者末梢血リンパ球中のプロウイルス量の減少が証明され、同種移植の坑ウイルス療法としての有効性が示唆された。しかし、同種骨髄移植の対象がATLの平均発症年令より若年であったにも関わらず、移植関連合併死亡が多いのが最大の課題であった。本研究では、同種末梢血幹細胞を使用した骨髄非破壊的な術前処置による移植療法を行うため、移植関連合併症が軽微で、高齢者でも十分耐えうることが予想され、ATLにおける移植対象の拡大やGVL効果の増強が予想される。また他のウイルス性疾患などへの新たな治療法としての展開や提供も期待される。

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