先進国の少子化の動向と少子化対策に関する比較研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000011A
報告書区分
総括
研究課題名
先進国の少子化の動向と少子化対策に関する比較研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
阿藤 誠(国立社会保障・人口問題研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 小島宏(国立社会保障・人口問題研究所)
  • 西岡八郎(国立社会保障・人口問題研究所)
  • 福田亘孝(国立社会保障・人口問題研究所)
  • 釜野さおり(国立社会保障・人口問題研究所)
  • 原俊彦(北海道東海大学)
  • 津谷典子(慶應義塾大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本と同様に少子化傾向に直面する先進諸国について、その出生動向、経済社会動向、社会政策の動きとその相互関係を、個別的かつ時系列的に、また先進諸国全体について横断的に比較分析することにより、出生率に大きな影響を及ぼす経済社会特性、ならびに社会政策を特定することである。
研究方法
親委員会(比較研究)では、モデル家族法による家族政策の国際比較の検討、出産・育児休業制度および育児施設に関するデータ収集およびそれを用いた国際比較分析、ヨーロッパ諸国における働く親に関する国レベルの支援政策の変遷の整理を行った。
地域・言語圏分担研究では、関連資料・データ収集と国別の分析を手がけた。ドイツ語圏諸国については、ドイツ連邦共和国の戦前・戦後の出生動向の分析、高い無子比率、比較的低い同棲率・非嫡出子比率についての分析を行ない、家族政策とその問題点について考察した。ドイツ及びオーストラリアで既存のモデル家族計算事例を分析した。フランス語圏諸国については、出生・家族の動向と家族政策の動向を把握し、同質性・異質性 にも焦点を当てた。北欧諸国については、形式人口学的分析、出生率と経済活動の関係の分析、女性の就業と家庭内役割の男女分担に関する分析、婚外出生率に関する分析を行った。スウェーデンのコミューン単位のデータ・ベース構築を手がけた。南欧諸国については、人口指標に関する基礎的な統計データの整備や広義の子育て支援施策に関するデータの収集に焦点を置き研究を進めた。英語圏諸国については、アメリカにおける出生と労働の政策的観点からの分析、ニュージーランドの家族政策および出生に関わるデータ収集を行った。
結果と考察
(比較研究)①Model Family Methodついて検討し、この Methodを用いる際、家族タイプの選択、国内の地域(=地方自治体)の格差、Model Familyに給付されるベネフィットのファミリー・サイクルに沿った動態化に注意する必要性が明らかになった。同Methodの日本への応用に際しては、住居費と教育費の水準とそれらに対する政策支援の水準を的確に把握することの重要性が見出された。②EU諸国と日本の出産・育児支援政策に関するデータについて、出産・育児休業制度、育児施設充実度と出生率の関連性の分析を行った結果、Esping-Andersonに代表される福祉国家の分類法から導くものとは異なったパターンが示された。子育て支援政策はある社会経済条件とマッチした場合には出生率を上昇させる方向に作用するが、ミスマッチのある場合には出生促進効果は期待できないことが示唆された。③ヨーロッパ諸国における働く親に対する国レベルの支援策(出産・両親休業、育児休業、保育施設)に関わる政策を整理し、国家の掲げる目的や内容は大きく変化を続けていること、全体的には働く親を支援する方向に進み、その過程に4つの分岐点が見出された。
(各言語圏・地域の研究)①ドイツ語圏a.出生力変動とその要因の研究では、東西両地域とも、戦後の結婚ブームとベビーブームで、既婚出生力が戦前の水準に達したあたりで減退が始まっていること、74年以降、結婚年齢の上昇は、新しい出生抑制手段が若年層まで広がったことによること、結婚・第1子出生タイミングの遅延が、結果的に無子比率の増大を招き、超低出生力に繋がっているが、タイミング効果は0に近づきつつあるので、TFRは1.4前後で落ち着くと思われることなどが明らかになった。b.「無子比率の上昇」の研究では、無子比率は25%から30%と推計されること、平均初婚年齢・第一子出産年齢の上昇が影響していること、「競合選択層」と「キャリア層」に無子が多いことが指摘された。c.「同棲・婚外子比率」の研究では、同棲者は急速に増加しており、増加率は高年齢層の方が高いが、同棲率の高まりは止まりつつある、同棲は家族の多様化、結婚の代替え選択というより、結婚モラトリアム・準備型→妊娠・出産→婚姻と位置付けられること、婚外子比率は上昇しているが、結婚・出産ないしは出産ー結婚という少子家族規範が根強く、同棲出生あるいは婚外子比率の上昇が出生力水準を下支えする効果は期待できないなどの知見が得られた。d.「家族政策の特徴と問題点」の研究では、手厚い経済支援と、長く保障された育児休暇制度・パートタイム雇用を中心とした「家族と職業の両立」、ヨーロッパの中でも比較的遅れた保育制度が特徴的で、専業主婦、子供の小さいうちは親が子の面倒を見るという考え方が主流で、家族政策は子育てによる経済負担の均衡化が主眼であり、非主流の女性は非婚・無子・フルタイム就業を選択するので、家族政策に対する期待は持たないことなどがわかった。②フランス語圏a. フランス家族政策の最新動向の分析においては、2000年6月15日に国会議員50名等で行われた「家族会議」で、女性の家庭生活と職業生活の問題を取り上げるべきだと指摘されたのを受け、家族担当省ロワイヤルを中心に提言された新たな家族政策の内容を明らかにし、その特徴である<様々な家族>へ向けられた政策やミックス福祉論を中心に検討し、新たな取り組みを分析した。b. 農村の育児支援実態の研究においては、都市部との保育状況の違いの検討、地方分権の流れの中でのイル・エ・ヴィレーヌ県での5歳未満児保育の事例紹介、都市との格差を踏まえた農村女性に固有のニーズに対するサービス提供について検討した。c.夫婦の行動に対する政策介入の必要性に触れ、フランスにおける家族政策の歴史的展開について検討し、さらに出生力に対する家族政策の影響について考察し、家族政策の効果は、対象を絞ることと支出された予算総額に依存することが明らかになった。d.重病の子ども看護のための付添親休暇(CPP)と付添親手当(APR)の制度化と、第2子用の養育親手当(APE)が出産後の女性の復職を抑制する傾向が明らかになったため、不利な状況にあり保育サービスを必要とする女性の復職を支援するために女性復職扶助手当(ARAF)が制度化されたこと、EU指令に合わせるために深夜業や母性保護に関連する法律改正が行われつつあることが明らかになった。③北欧諸国a.年齢別出生率、出生順位別の出生率と平均出産年齢、女性の年齢別無子、コウホート出生率の変化から、出生力水準(TFR)の推移の下での出生力の人口学的構造の変化を分析した。 b. 出生率と経済活動の関係について失業率との関係からの分析を加えた。c. 4カ国における変化傾向を検討し、男女の家事分担に関するミクロ・データの分析結果を比較・検討し、家庭内役割分担の要因についてまとめた。d.結婚行動(年齢別配偶関係割合と初婚年齢)の変動との関係に焦点をあて、スウェーデンとノルウェーを中心に分析した。e. スウェーデンのコミューン単位のデータ・ベース構築を、中央統計局に委託して行った。1980~1995年における各コミューンについて、年齢別出生数、年齢別女性人口、女性の年齢別就業人口、子どもの年齢別公的保育サービスの種類別供給数など基礎的データ構築を手がけた。④南欧諸国 a. センサス
、人口動態など人口指標、特に出生に関する基礎的な統計データの整備を進めた。また、南欧以外の西欧諸国とは異なる傾向を示している離婚率、非嫡出子比率、同棲率などのデータを整備し検討した。b.広義の子育て支援施策に関するデータの収集と検討を行った。c.低出生率に対する南欧諸国の政策的対応や国民の受け止め方・考え方に関する資料の収集と検討を行った。d. スペイン・イタリア国内の出生動向に関する地域的差異について検討した。e.ポルトガルについては、石田信義氏(エリア・リサーチ・グループ,奈良大学講師)に研究協力を依頼、人口動向データの整備、社会制度の変遷に関するレポートを作成した。⑤英語圏諸国a.アメリカの出生と労働の政策的観点からの分析においては、1960年以降の出生率の低下と女性・母親の就業率の上昇および高学歴で就労している女性の急激な出生率の低下と晩産化に関連しての生殖医療利用増加の背景となる要因を探った。また、企業レベルでファミリーフレンドリーな制度が進んでいるアメリカであるが、女性をプロフェッショナルのキャリアの地位に就かせている所では、女性は男性と同様、長年、長時間はたらく「理想の職業人」であることを証明しなければならず、多くの女性の産む選択を奪っていることが指摘された。b. ニュージーランドの出生に関わる人口学的データを収集し、同国の出産・育児支援制度、保育システム、育児環境の詳細を整理し、実際に子育て中の母親へのインタビューを通して、育児経験をまとめた。
結論
資料収集やデータ解析の最中であるため、現段階で結論を導くことは困難である。最終年度はモデル家族計算法による分析や各班で収集したデータの総合的分析を行って、それをもとに結論を導く。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-