エリア(福祉圏)構想による障害福祉施策の総合的推進に関する事業(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000001A
報告書区分
総括
研究課題名
エリア(福祉圏)構想による障害福祉施策の総合的推進に関する事業(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
笠原 吉孝(かさはら医院)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
2,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
障害者プランが示した30万人に2カ所の障害種別ごとの地域生活支援事業(生活支援センターの設置)は、これからの新しい福祉施策の方向性を示唆していると考えられる。つまり大都市であれば区を単位として、また地方の自治体おいてはいくつかの市町村をまとめ合同で施策を推進するという、エリア(福祉圏)という面で福祉施策を考えるという新しい試みである。地方自治体への権限委譲が進められる中で単独の市町村では施策の推進が困難な課題について広域行政施策での取り組みという視点を提案している。具体的には、障害児の早期発見・早期療育のシステム化、重症心身障害児の通園事業、相談とサービスの拠点としての生活支援センターの整備などがエリアの特性を活かしながら事業化されていく必要がある。これらの事業の推進は、広域エリアを事業単位とすることで市町村の資源格差を埋めながら、身近な地域で各種サービスの拠点を整備できるというメリットがある。本研究では、エリア構想に基づく障害福祉施策の推進について滋賀県の取り組みをモデルとして、 そのメリット・デメリットを明らかにし、広域福祉圏による取り組みを施策としてどう展開していけばいいのか提案していくことを目的とする。
研究方法
最終年度は、全国調査をもとにエリア構想の現状・課題を整理分類し、今後必要とされる要因を明らかにしていくとともに高齢者・児童問題についての視点も整理し提示した。また研究会に障害者問題を中心として高齢者・児童問題について先駆的な実践を行っている地域の実践者を招き、課題の整理・検討を行った。研究事業は、滋賀県の各分野で指導的な役割を担っている研究協力者との研究会を開催して行った。
結果と考察
エリア構想に対する全国実態調査から課題として以下の3点が指摘できる。①施設の適正配置、発達支援事業、障害児・者生活支援事業はエリアで実施すると有効であるが、介護支援サービスや養護学校の適正配置はそれほど有効ではない。②障害保健福祉圏域におけるショートステイ事業、ホームヘルプサービス事業、デイサービス事業、障害児(者)地域療育等支援事業の実施率は比較的高いが、市町村障害者生活支援事業、精神障害者生活支援事業の実施率はまだ低い。③障害保健福祉圏域の抱える問題として「財源の問題」がまず挙げられ、ついで拠点施設の有無、市町村間の意識の違いや資源数の格差が挙げられた。障害種別の人数の差異、圏域面積、障害種別による事業実施主体の問題などはそれほど問題ではなかった。
高齢者施策に比べ、まだまだ一部のニーズととられやすい障害者の施策の推進については地方分権の流れの中、措置権を課題とする自治体は少なかったが、どこが援護の主体としてイニシャチブを担うのか、また都道府県と市町村の役割分担や「広域調整機能」というものがどのように機能していくか具体的には見えにくい現状がある。資源整備において計画策定が有効であることは間違いないが、生活レベルでの支援メニューを整えていく場合、実効ある計画策定が進められるには、地域資源の配置と育成を行政がどういうビジョンで進めるかによると思われる。エリア構想は、財政的課題や地域の資源数対象者数など市町村を単位としてはなかなか進展が困難であった福祉課題を推進していく一つのキーワードとして機能していく可能性は今後も大きい。滋賀県が昭和56年から取り組んできた施策の成果からもその点は明らかである。
結論
福祉は地域福祉の潮流の中で、国レベルで高齢者や身体障害者の措置権の委譲や障害者福祉法の制定、地域福祉計画の策定と大きく変化しようとしている。長く施設を中心に展開されてきた施策から地域生活を具体的に援助していくためのサービスが次々と創出され、そのサービス提供システムにひとつとして高齢者福祉では公的介護保険が導入された。さらに社会福祉の基礎構造改革によって、障害福祉分野も福祉事業が施設サービスや障害種別の垣根を越えて、「その人が望む地域生活の実現のために」をキーワードに支援費制度を軸にサービス事業へと大きく変革しようとしている。高齢者に対する福祉施策が各市町村における福祉ビジョンとして問われる時代に入って、障害者福祉施策も、単に障害者をはじめとするハンディキャップを持つ人への限定的なサービスとしてではなく、広く街づくりの視点からとられられる必要がでてきている。障害者諸施設の適正配置などについては、広域エリアという視点が今後も活かされていくと思われるが、個々の施策の推進については、市町村単位の高齢者施策や子育て支援施策との合同推進を基盤として、施策としての事業がネットワーク化されていく方向が必要である。これまで障害者・高齢者・児童とそれぞれに推進されてきた福祉施策であるが、今後は生活を基盤とする地域においてニーズに応じて機能し、障害種別やハンディの背景を越えて「必要な援助・支援を地域で有効に提供できるような事業」として展開され、そのサービス行為に対して対価が支払われる仕組みが具体化されなければならない。重度の発達障害を有する人への専門的な療育機能や高度な医療的ケアを必要とする人へのサービス、さらに就労をめぐる支援施策など、広域での施策展開を必要とする施策は多い。これらを総合的にマネジメントしていくためには、市町村合併とも絡んで都道府県における福祉ビジョンや広域調整機能が欠かせない。地域の拠点整備だけでなく福祉サービス事業の振興を図り、広く街づくりの視点から地域住民のニーズに合わせて福祉施策をとらえなおさなければならない時にきている。

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