身体的及び財政的負担の少ない在宅透析技術の開発(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900866A
報告書区分
総括
研究課題名
身体的及び財政的負担の少ない在宅透析技術の開発(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
斎藤 明(東海大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 秋澤 忠男(和歌山県立医科大学)
  • 新里 徹(名古屋大学大幸医療センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
22,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国の慢性透析患者は平成12年末には20万人を超えることが予想されており、今後も毎年約1万人が増加するとかんがえられている。そのような中で、患者のQOLの向上と透析医療費増加の抑制とを統一的に実現させるには、在宅血液透析の普及が不可欠である。しかし、病院やクリニックのスタッフにより透析治療を受けている患者が在宅血液透析を選択するには、技術的に幾つかの点を克服する必要がある。第一に、透析中の血圧低下やショックが防止できる治療システムであること、第二に、患者と介助者に負担の少ない簡便な訓練・治療システムであること、第三に、精神的負担に勝る治療効率上の優位性があり、体調の向上が可能であること、などが満たされることである。今回、安全、簡便、高効率の実現を目指し、昨年までの成果をさらに前進させる取り組みを行った。
研究方法
本研究は大きく4つの課題に分けて行われた。すなわち、1)循環血液量モニタリングを連動させた在宅用自動除水速度制御装置の開発、2)簡便で患者の負担の少ない訓練法と操作法の確立、3)効率の高い在宅血液透析法としての短時間頻回血液透析と標準血液透析との効率と臨床効果の比較研究、4)患者宅と在宅血液透析管理センターとの双方向情報通信システムの開発の4つである。
循環血液量モニタリングを連動させた在宅用自動除水速度制御装置の開発には、齋藤 明が引き続き当り、安全除水とともに透析時間延長をも改善するために、平成10年度の連動における1段階切り替えから,多段階切り替えプログラムを作成し、臨床評価した。
「簡便で患者の負担の少ない訓練法と操作法の確立」では、患者の負担の少ない教育・訓練法を齋藤 明が分担して作成し、ブラッドアクセス自己穿刺のための固定ルート短時間作成法とワンタッチで透析終了操作が出来る自動透析終了装置の開発は,新里 徹が分担研究した。教育・訓練では、週末を利用して7段階のプログラムを作成して、臨床検討した。
短時間頻回血液透析と標準血液透析との効率と臨床効果の比較研究は、秋沢忠男が分担研究し、秋葉 隆、衣笠えり子、齋藤 明が研究協力した。12名の患者に3ヶ月間の週6回、1回2時間の短時間頻回透析を行い、標準血液透析各4週間の前観察期、後観察期を含め、透析中,透析間の自他覚症状、ブラッドアクセスの状態、体重・血圧,併用薬剤、血液及び生化学諸検査のほかに、胸部X-P、Kidney Disease QOLなどを経時的に測定した。
在宅血液透析における遠隔モニタリング・システムの開発は、齋藤 明が分担研究し、高宮登美、中西義彦が研究協力した。第一段階として、患者宅と在宅透析管理センターとの双方向情報・通信を想定して、LANを用いて同一病院の異なる階、次にISDNにより熊本の病院と横浜で、透析患者の直視的観察、ブラッドアクセス部位の状態確認、透析用血液回路の状態観察、透析装置の稼動表示画面の確認、患者の顔を観察しながらの会話、患者状態の質問応答などを評価した。
結果と考察
1.循環血液量モニタリングを連動させた在宅用自動除水速度制御装置の開発と臨床評価では、平成10年度における開始時血液量の-10%の1段階切り替えから,多段階切り替えに変えることにより、糖尿病、非糖尿病透析患者ともに安全に目的除水を行えたのみならず、透析時間が延長する問題をも改善することが出来た。
2.簡便で患者の負担の少ない訓練法では、週末を利用する訓練法を用い、訓練内容を最小限に削り、訓練間隔の延びることから来る繰り返しを7段階のプログラムに分けることにより効率的にすることが出来た。自己穿刺を容易にするために11名の患者の血管穿刺部にポリカーボネ―ト製スティックを44時間留置して固定穿刺ルートを早期より作り、3ヶ月に渡り陳べ392回の安全で疼痛の少ない自己穿刺が可能となった。また、自動制御装置にょり、透析膜を通して透析液を血液側に移行させ、これをリンス液として透析を終了させるシステムを開発し、牛血を用いたin vitro実験で終了操作が自動的に行われることが確認された。今後、臨床的な評価を行う予定である。
3.効率の高い在宅血液透析法としての短時間頻回血液透析と標準血液透析との効率と臨床効果の比較研究では、12例の患者で週3回の標準透析期に比べ、短時間頻回透析期で血圧低下、降圧剤の減量、心胸郭比の減少、エリスロポエチン投与量の減少、栄養状態の改善、不均衡症状の減少、そしてQOLの向上などの明らかな改善が得られた。
4.在宅血液透析における遠隔モニタリング・システムの開発では,離れた患者宅と管理センターとの双方向情報・通信を想定して、同一病院の異なる階、熊本の病院と横浜間をLANまたはISDNを用いて接続し、治療中の患者のバイタルサインや透析装置の稼動状況の把握が可能であることが確認された。引き続き、患者宅と管理センターの間の双方向情報・通信を行う予定である。
結論
多段階切り替えによる循環血液量モニタリング連動自動除水速度制御装置を開発し、糖尿病、非糖尿病性透析患者の透析に応用したところ、透析中の血圧低下の頻度が減少し、また治療時間の延長傾向も改善した。在宅血液透析のための訓練に、週末を利用して7段階のプログラムに沿って教育したところ、社会復帰を妨げることなく在宅血液透析への移行が可能となり、明かに患者の負担が軽減した。患者の著しい負担となる自己穿刺を早期から容易にするために、ポリカーボネート製スティックを血管穿刺部に44時間留置し、固定穿刺ルートを作成してその部に穿刺したところ、安全で痛みの少ない自己穿刺が可能となり、また操作の簡略化のために自動プログラムにより透析液を透析膜を通して血液側へ移行させ、リンス液として用いることにより透析終了操作の自動化が可能となった。12名の患者に3ヶ月の短時間頻回血液透析を行い、標準血液透析と比較したところ、臨床症状の改善、全身状態の改善、そしてQOLの向上などの改善が得られた。LAN、ISDNを用いて患者宅と管理センターを接続することを想定して遠隔地から患者のバイタルサインや透析装置の稼動状況の把握の可能性を実験したところ、双方向の通信と患者側の情報の把握が可能であると判断された。

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