寝たきり予防活動推進のための方策に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900842A
報告書区分
総括
研究課題名
寝たきり予防活動推進のための方策に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
田中 久恵(山梨県立看護大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
-
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
寝たきり閉じこもり予防活動を構造的に理解するために、1)地域における寝たきり予防活動の実施状況及び活動を推進する要因、2)効果的な支援の方法及びその効果、3)閉じこもり高齢者の地域分布、4)定義、ケアニーズの構造、5)対象者把握の方法、6)アセスメント票の開発、7)介護保険、訪問看護との連携、の7課題について検討し、予防事業を推進していく上で解決すべき課題を明確にすることを目的とする。
研究方法
1)及び2)は①【全国市町村における寝たきり予防活動の実施状況と推進のための方策】全国市町村を対象とし、寝たきり予防活動の実施状況について、県保健所の保健婦長に対して(政令市・区は所管する本庁部署の婦長)調査した(市町村数2,388、回答率72.3%、政令市区54、回答率77.1%)。3)~6)については、次の3地域における研究、即ち②【閉じこもり高齢者の実状及び出現頻度】Y県T市(人口34,944、高齢者人口割合17.6%、平成10年度高齢者保健福祉実態調査:一般高齢者1990、虚弱414、寝たきり90、施設133)、③【H町における閉じこもりの出現率とその背景要因の分析】S県H町(人口25,000高齢者人口割合19.8%)の65才以上の高齢者(独居、夫婦のみ世帯、高齢世帯は全数、その他の世帯は1/2抽出)、④【虚弱高齢者の閉じこもり予防を目的としたサービスの利用者の特徴と効果】M県S町(人口8,691人、高齢者人口割合19.6%)のウィークサービス利用者118名と、非利用者116名(利用者と同一地域内でほぼ同数を選定)を行った。②についてはデータベースで提供を受けた資料を基に集計解析を行なった。③④については昨年度開発した独居高齢者閉じこもりアセスメント票を、地域特性も加味し汎用性のあるものに修正し、これを用いて日常生活実態調査を実施した。7)は⑤【訪問看護ステーションにおける寝たきり予防サービスの課題】東京都S区の「訪問看護ステーションK」の利用者(65歳以上全例215例)及びその家族90の生活状況、訪問看護援助内容を担当看護婦に調査した。
結果と考察
①保健婦主導の寝たきり予防活動は62%の市町村で実施されていた。活動を促進させる要因として、市町村形態(政令市区>市>町>村)、保健婦の高齢者担当人口、保健婦の管理的ポストの設置の3つが上げられた。保健婦主導の活動は住民主体の取組みの先導的役割を果たしており、保健婦主導、住民主体の活動の少ない地域は福祉等の部署の活動が補完している。市町村における予防活動の取組み事例を2,318、保健所の難病寝たきり予防活動事例383を収集した。検索可能な媒体による提供を考えている。②T市高齢者保健福祉実態調査の結果から、寝たきり閉じこもり状態の出現頻度を、各調査の抽出率を勘案し、高齢者総人口に対する割合に換算して算出した。寝たきり高齢者は2.1%、閉じこもり高齢者は6.0%という値を得た。山間地と市街地などで、健康行動に若干の差が認められた。③S県H町の閉じこもりの出現率は6.6%、閉じこもりの要因として、山側に居住、家の周囲が坂道という環境条件、友人の有無が強く関連しているといえた。④ウィークサービス利用者は高齢、身体的に虚弱、配偶者がいない女性に多く、外出先も町内会、老人会、ウィークサービスなどフォーマルなものが多いのに対し、非利用者では比較的健康度が高く、配偶者がいる、外出先は友人、知人宅等の違いがみられた。また利用者のほうにいきいき度がやや高く、ウィークサービス等公的に提供されるサービスは、外出の場、人との交流の場の少ない高齢者にとって有効といえる。⑤訪問看護は(1)ADL、(2)基本的精神機能、(3)生活維持管理能力、(4)高度精神活動の維持改善の機能がある。利用者のうちJ、Aランク(21.9%)は独居、家族介護者がいない等であり、(4)に対する働きかけ
の効果がみられ、B、Cランク(78%)は主として(1)~(3)を中心にケアがされていた。以上から、次の点を考察した。ⅰ)閉じこもりの定義:寝たきりのハイリスクとしての閉じこもり・虚弱高齢者について、身体的条件のほかに、家族形態、友人関係、住居、地理的生活環境、精神心理的条件が関与していることがわかり、自力では外出の場、人との交流の場がもてない人々への公的役割が大きいと思われ、これらの多様なニーズに対応した支援方法を開発、適応していくことが必要であるといえる。ⅱ)閉じこもりアセスメント票の提示:ⅰを踏まえて、昨年度開発した一人暮し閉じこもりアセスメント票に、改良を加え、汎用性のある閉じこもり予防アセスメント票を提案した。ⅲ)閉じこもりの出現頻度及び把握方法:介護保険法の成立に伴い、寝たきり者の頻度については実態調査等により概ね全数が把握されている。一方、寝たきり予防の対象者を全数把握できているとした市町村は全国平均24%にすぎず、他は各種事業の限られた範囲での対象把握に留まっている。本研究により二つの地域で(人口約1万~3万の市)で閉じこもり率6.0及び6.6%(65以上人口の)という数値を得た。事業計画策定に当たり、地域における閉じこもり者を構造的に捉えることに寄与できると考える。ⅳ)寝たきり・閉じこもり予防活動の推進:保健婦による寝たきり予防活動の推進が望まれているが、62%の市町村が何らかの形で保健婦主導の寝たきり予防、閉じこもり予防の活動を行っていることがわかった。活発な市町村では、保健婦の担当する高齢者人口が適切量である、保健婦を統括するリーダーが管理的なポストに位置付けられていることがいえた。保健婦活動を組織的に推進し、活動の質・量の充実を図るに際して、保健婦のマンパワー配置、職位の向上が不可欠の要素といえる。ⅴ)寝たきり予防活動の地域事例の情報提供:市町村で取り組んでいる活動について、取組み事例の情報収集した。検索しやすいかたちで提供する予定であり、今後他地域での活動計画に向けて参考になるものと思われる。ⅵ)訪問看護の寝たきり閉じこもり予防・介護予防機能:看護ニーズが高いJ、A、看護が導入されているからこそB、Cランクを維持している等、従来から訪問看護が果たしてきた寝たきり閉じこもり予防、介護予防の機能が明らかになり、介護保険体制下で寝たきり閉じこもり予防事業との連携が重要であるといえた。改善は望めない場合でも、家族支援、ハイテクケア等により悪化を防止することに寄与している。訪問看護はB→A等のランクアップ、B→C等のランクダウン防止に大きく寄与しており、利用者と家族の社会的生活の拡大に重要な関わりをもっているといえた。介護保険における訪問看護は予防的視点で活用されることが有益であり、介護保険の対象者も含めて、特に訪問看護事業対象外になる可能性のある高齢者については、身近な地域の中で社会的生活の拡大を促す場の確保が必要である。複数の民間事業者の手で介護が提供される状況の中で、介護、看護サービスの違いを認識・評価できる機構が公的機関として必要であり、それぞれの地域でこの機能があるかどうかの点検が課題である。特に心身の高齢者に対する支援が介護保険、介護予防事業等介護として、福祉主導で行われつつある現状で、今まで果たしてきた医療・看護・保健の機能を再評価することが必要であると思われる。
結論
1.市町村の62%で保健婦主導の寝たきり閉じこもり予防活動が実施されており、住民の主体的な活動には、保健婦主導の活動が先導している。保健婦の活動を促進する要因として、保健婦の担当人口、管理的職位があげられる。2.閉じこもり出現率として、2市町の調査から、6.0~6.6%を得た。3)閉じこもりに関与する条件として、身体的条件の他に山間地、坂、家族形態、友人があげられた。4)訪問看護ステーションの活動は寝たきり予防、QOL向上に寄与している。

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