都道府県レベルで活用できる効果的な研修技法の開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900836A
報告書区分
総括
研究課題名
都道府県レベルで活用できる効果的な研修技法の開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
曽根 智史(国立公衆衛生院)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
地域保健法の完全施行後、都道府県では研修体制の整備を進めているところであるが、具体的な研修の内容及び技法については、研修担当者に一任され、これまで十分な配慮がなされてきたとはいいがたい。地域保健に関する住民のニーズが多様化し、行政が果たすべき役割も変化している現在、自治体の公衆衛生従事者が新たに獲得すべき知識・技術や態度が増大かつ複雑化しているにもかかわらず、効率的、効果的な修得のための研修技法の開発が遅れている。本研究では、都道府県レベルでの公衆衛生従事者教育における効果的な研修技法の開発および評価を行い、自治体における研修水準の向上を図ることを目的とする。
研究方法
平成11年度は以下の6調査研究を実施した。1.全国の都道府県・政令市等の自治体の研修企画担当者を対象に、現在用いている研修技法に関する調査研究。2.国立公衆衛生院の保健所医師、歯科医師を対象としたコースにおけるディベート演習の導入とその評価に関する調査研究。3.国立公衆衛生院の長期課程における政策立案に関するケースメソッド演習導入とその評価に関する調査研究。4.ある自治体の保健所職員研修におけるケースメソッド導入の試みとその評価に関する調査研究。5.フィリピンの公衆衛生分野における各種研修技法の特徴と地方の公衆衛生従事者による受け止め方に関する調査研究。6.東京都保健所が福祉サービス従事者を対象に実施している研修の受講者と管理者による評価に関する調査研究。倫理面への配慮として、研修技法の試行に関しては、主催者側と事前に十分な意思統一を行い、受講者の不利益とならないよう注意した。さらに事後の意見調査に関しては、個人や地域を特定できないよう、十分配慮した。
結果と考察
1.自治体の研修企画担当者に対する研修技法に関する調査:平成11年度地域保健研修企画研修の参加者が企画している研修のうち平均5割強が講義形式をとっており、また講義が5割以上を占めるとした回答者は全体の7割に上り、現状においては、講義形式主体の研修が主流であることが示された。一方、講義形式以外の研修技法を使用する試みもある程度広がっていた。研修技法に関する問題点として、技法の選定に関する議論があまりなされていない状況、具体的なノウハウの不足、企画者自身の技能や適切な講師の不足、技法の学習機会の欠如、評価の曖昧さなどが指摘された。2.国立公衆衛生院におけるディベート導入の評価:都道府県および政令市に勤務する医師・歯科医師を主な対象とした、国立公衆衛生院のいわゆる「保健所長コース」において、平成9~11年度にディベート演習を行い、事後に意見調査を実施した。また、記入された審査表を審査項目別に分析した。回答者の約95%が自分側の主張を相手に「十分」又は「ある程度」伝えることができたとしていた。審査員の判定に関しては約80%が「妥当」と答えた。本演習自体を、60点を合格ラインとして採点させたところ、平均点は73.8点であった。勝ったチームは一般に論理性、話し方などで優れていると判断された。また、質疑応答が勝敗に適切に反映されていない点が指摘された。3.国立公衆衛生院における政策立案に関するケースメソッド導入の評価:平成9年度より、専門・専攻課程(地方自治体の公衆衛生従事者対象の長期コース)の授業において、架空の国の政策立案をテーマとしたグループワーク中心のケースメソッド形式の授業を導入した。平成9~11年度の受講生に対して終了後に意見調査を実施した。その結果、公衆衛生従事者の卒後教育においても、学生の興味や自発性を引き出すという点において一定の効果があることを示唆する結果が得られた。年度を追うごとに学生の反応
が改善していったのは、教官側の指導や教材の改良も要因の一つと考えられた。4.地方自治体研修におけるケースメソッド導入の試み:某県の平成11年度保健所企画調整機能研修(1日間)において、ケースメソッドを導入した。対象は、保健所の所長、次長、技術次長、企画調整課員で、当日は6保健所から13名が参加した。終了後に意見調査を実施した。全体として、ケースメソッドを用いた研修に対して、ポジティブな意見が得られた。自治体での研修の特徴を踏まえたケースメソッド導入の際の配慮に関して検討した。5.Training Methods and Techniques in Public Health Training:公衆衛生従事者に対する様々な研修技法(講義、ビデオ、グループワーク、ケーススタディ、演習、ロールプレイ、実地見学など)の長所と短所について詳細に検討した。さらに、フィリピンのある地方の公衆衛生従事者(医師、看護婦、助産婦、ボランティアヘルスワーカー)に各研修技法の主観的評価に関する調査を実施し、職種による相違を明らかにした。6.地域福祉サービス提供者に対する保健所の研修の役割と活用のための条件に関する研究:東京都の9保健所が実施した、平成10年度地域保健福祉等関係者向け研修の受講者のうち、在宅福祉サービス提供機関に所属する者とその施設長に意見調査を実施した。保健所研修の受講者の大多数が「研修は役に立った」としており、今後も研修を受講したいと考えていた。受講者自身及び施設長は、研修による「資質の向上」を望んでおり、「地域ネットワークの再構築の場」としての保健所の機能についても、重要と考えていることがわかったが、「地域ネットワーク」については、研修の成果としては十分に認められていなかった。今後は地域の課題や関係機関の成熟度に合わせての取り組みが、保健所で研修を実施する上での重要な要素になると考えられた。
結論
以上の6研究により、自治体においては講義以外の研修技法に対するニーズが大きいこと、ディベートやケースメソッドが実際の公衆衛生従事者研修において受講者に少なからぬインパクトを与えていること、第一線の現場における各種研修技法の長所・短所、研修においては地域ネットワークを重視すべきこと等が明らかとなった。今後は、ケースメソッド、ディベートなどの研修技法をさらにいくつかの自治体の研修で実施するとともに、受講者及び主催者に対して当該研修技法に関する事後評価を行い、その結果をもとに、具体的研修事例を載せた、都道府県研修担当者のための「研修技法マニュアル」の原案を作成する予定である。

公開日・更新日

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